第47話 愛情は常にレべルマックス
ロホアナはナグナ王国にある研究会に「三人の家」で研究した内容を、提供する事によって、「三人の家」での生活費を稼いでいた。ナグナ王国の研究会に所属するのでは無く、研究成果を提供する事によって、自身の素性を明かす事無く、稼ぐ事が出来ていた。
実質ロホアナが、三人の家の財源といっても、過言では無い。
ただ、研究者の仲間に頼んで、自分の名は出さないよう頼んでいる。
もしナグナ王国の王族に自分の名が知られていた場合、三人の家での生活が維持出来なくなると思ったからだ。
ただ、これはロホアナ、スス、ニミの三人に共通の認識として存在するのは、「この三人の家での生活がいつまで維持出来る訳では無い」という事だった。特に、ニミはイラルの村での経験でそう強く感じていた。
三人の家での生活はとても良いものだが、自分たちは一時的に平穏な生活を送れているだけで、追ってが追跡を止めるわけでは無いという事だ。
つまり、三人に本当の意味での「平和な日々」が訪れる事など無いと考えていた。
***
「イラルの村のぐちゃぐちゃクッキーのお味はいかがでしたか?」
「クッキーじゃなくて、おまんじゅう、いや間違えマシタ。おもちデシタネ。では改めて……クッキーじゃなくて、おもちデショ」
「いや!言い直す必要あります!?あれは不可抗力ですよ!おばさんの素晴らしいおまんじゅうをヒミとロホアナ様にあげようと思ったら、魔獣の……うぅ……せいで……!許せません!」
「おもちは美味しかったデスヨ。やはらニミの言う通り、中にはよく分からないものが入ってイテ、甘くてちょっぴり辛くて、しょっぱくて、でも苦くて、美味しかったデス」
「ですよね!中にはよく分からないものが入っていて、甘くてちょっぴり辛くて、しょっぱくて、でも苦くて、美味しかったですよね!私もススと全く同じ感想でしたよ!気が合いますね」
「デスガ、中身が気になりマス。あれは一体何を使用しているのデスカ?」
「うーん。おばさんはイラルの村の特産品だと言ってましたが……まあ、気にしない方が良いでしょう」
「でも結構悪い意味でクセになる味デシタ。甘くてちょっぴり辛くて、しょっぱくて、でも苦いあの絶妙に何とも言えない味は他では味わえないデス」
「イラルの村がもっと開放的になって、ビジネスにすればもっと儲かるような気もするんですがねー」
「またお金の話……ニミは本当にがめついデスネ」
「私そんなお金の話してました!?もう!ススはやっぱり酷いです!でもそんなススが好きです」
ぞわぞわぞわぞわぞわぞわっ
「ん?何ですか?今のぞわぞわぞわぞわぞわぞわってのは」
「寒気がしまシタ。ほら、私震えてますヨ、見てクダサイ」
ブルブルブルブルブルブルブル
「うーん。確かに、震えていますね……小刻みに上下にブルブルと……なるほど、ぞわぞわしたからブルブルと震える……いや、意味わかんないですよ!」
「ニミが変な事言うから悪いのデス」
「変な事とは?」
「色目を使って、私を誘惑しようと……私を懐柔しようとしても、そう簡単には出来ませんヨ!特にニミに対しては、常に警戒レベルマックスですカラ!」
「私のススへの愛情は常にレベルマックスですから!!」
しーん。
「……」
「……」
しーん。
「すいません、今のはちょっと言い過ぎましたね……」
「私はちょっと嬉しかったデスゲド……」
「え?」
「いや、何でもないデス!それより、ニミ、お願いがありマス」
「何ですか?」
「私と一緒に迷いの森に行きまショウ!」
***
私とススは迷いの森を二人で歩いていた。
「迷いの森に紅茶の茶葉があるんですか!?」
「はい、ロホアナ様がそう仰ってマシタ。イラルの村の住民は迷いの森から茶葉を採取して、飲んでいると……」
「でも紅茶って、結構作るのに手間がかかるんですよね?」
「ロホアナ様愛用の紅茶は、ナグナ王国にある紅茶の店からいつも購入してイマス。採取した茶葉を持っていけば、多分何とかしてくれるデショウ。ロホアナ様曰く、迷いの森の茶葉は本当に美味しいらしいデスヨ」
「なるほど、その茶葉にはどんな特徴があるのですか?」
「えっと……ほら、ロホアナ様から貰った茶葉の資料デス。この茶葉を見つければ、ロホアナ様が喜ぶかと思ったのデス」
「おお!素晴らしいアイデアです!三人の家の大黒柱であるロホアナ様を元気付けるよいアイデアだと思います!」
「ロホアナ様は最近疲れていマス。ロホアナ様に依存するのでは無く、私も何か仕事をすべきだとは、思っているのデスガ……」
確かに今のままロホアナに依存し続けるのは良くない。
魔獣狩りでは、その場しのぎにしかならない。大多数はロホアナの苦労によって、私たちは生活出来ているわけで、それではロホアナに苦労をかけるばかりだ。
何とかしないととは思いつつも、ナグナ王国へ働きに行くのは、ススが許してくれないだろうし、あくまで三人の家での生活を維持する為に、私に出来る家事をこなすぐらいしか、私には出来ないと考えていた。
「まあ、考えていても仕方ないデスネ。今は茶葉を探しましょうカ……ニミ、魔獣には十分に警戒してクダサイ。何かあっては、困りますカラ」
「了解です!しかし、結構歩きましたけど、このイラルの村へと続く一本道を見た限り、特徴的な葉は無かったんですが……」
「紅茶の茶葉は、紅茶畑などで育てるのが一般的デスガ、迷いの森にも似たようなものがあるらしいデス」
「こんなジメジメした『魔獣気』がする場所で摘む茶葉がおいしいとは思えませんがね……」
「『魔獣気』ということばが気になりマスガ、追及しないでオキマス。幼稚なニミは普段紅茶を飲まないから、理解出来ないでショウガ」
「むっ!今の言葉は聞き捨てならないですね!紅茶を飲まないからって幼稚認定するのはおかしいと思いまーす!私は立派な大人?ですよ!」
「ニミは世界を知らなすぎるのデス。記憶が無いので、仕方ないのかも知れませんガ、私は紅茶だけ無く、色々な事を知っているからニミよりも大人デス!」
「いーや!色々な事を知っているからと言って、大人とは限りまセンヨ!」
「少なくとも、ニミよりは大人だと言っているのデス!」
「もっと聞き捨てならないです!私のどこが幼稚なんですか!」
「ニミはもっと……っ!?」
ススが急に押し黙る。
「うん?スス?どうしました?」
「静かにしてクダサイ、今何か聞こえマシタ……」
「何か……?」
私は耳を済ませる。
草木が揺れる音、爽やかな風の音。
迷いの森の豊かな自然の音しか耳には入って来ないけど……
「あれ?今何か……」
「……」
私も何かが聞こえた。
これは足音……?だが、魔獣の足音ではない。革靴で地面を踏んだ時のような音だった。
つまり、この音の主は人間……?
「スス、こっちです!」
「分かったのデスカ?」
「私は耳が利きます!スス、ついて来てください!」
「ワカリマシタ」
スス自身も私の能力については、理解している筈だ。
私は自身の「感覚」を頼りに、音の主を探す。
「っ!こっちです」
迷いの森は一本道がイラルの村……では無く、「旧:祭殿の広場」まで続いている。魔獣の王と最初に出会った洞窟は、一本道から離れた場所にあった。
なら、今回何かがあるとしたら、一本道から抜けた先にあると私は思った。
この足音の主もきっと……!
一本道を抜け、草むらに入る。
なるべく音を立てぬよう慎重に進んでいく。
「あっ、スス、見て下さい!」
「どうしました?ん?アレハ……!」
私が指差す先にいたのは、一人の男だった。岩に腰掛けて座っている。
あれは……鎧?鎧のようなものを身に纏い、剣を装備し、かなりの重装備だ。これだけ重武装しているのだから、何か理由があるはずだ。
私たちは茂みに隠れて、男の様子を伺う。
男は私たちとは反対側の方向に顔を向けており、こちらには気づいていないようだが、逆に私たちは男の顔を見る事が出来ない。
一体ここで何をしているのだろうか?
姿を見られるのはマズいが、男が何をしているかは気になる。
男は微動だに動かない。
まるで、死んでいるかのようだった。
だけど、これも私の「勘」なのだが、何やらこの男、タダならぬ雰囲気を感じる。
「スス、私話しかけて来ます」
私は小声でススに言う。
「何を言っているんデスカ!?もし素性がバレて、三人の家の位置がバレたら……」
「大丈夫ですよ。どのみち、彼の素性を暴かないと、私たちも危険でしょう?」
「デスガ……」
「ススはここで待っていて下さい!」
「あっ!ニミ!」
私は、ススの制止を拭き切り、男へと声を掛ける事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます