第46話 三人の家の朝

結局その日は特に何も起こる事無く、時間は過ぎ、次の日の翌朝の事だった。



「ほらほらほら!見て下さいよ!ス

 ス!」


「朝からうるさいデスネ、何デスカ?」


「ふふふっ、これですこれこれ」


「?何デスカ?」


「ほら!こんなに綺麗に皮が剥けましたよ!凄いでしょう!」


 えっへんといった感じで、私はススに見せるがススは困惑した表情だ。


「えっへんと言われてもデスネ……まあ、以前よりは多少は成長したって事にしておきまショウカ」


「それに、今日はお皿を割ってませんよ!成長しました!」


「お皿を割らないのは常識デス。成長とは言いまセン」


「うーん。どうすればススに認めて貰えるのでしょうかね?」


「別に私に認めて貰う必要性は無いでショウ」


「私はススが好きです」


「会話が成り立っていまセンヨ……」


「私はススに認めて貰いたいんです!」


 ぐいぐいと顔を近づける私に、ススは困ったように言う。


「近いデス!近いデスッテ!」


「ススの肌は本当に艶やかで羨ましいです。触っても良いですか?」


 プニプニプニプニ。


「あははっ!凄い、気持ち良いです!」


 とても柔らかくて、心地よい。

 羨ましいなぁ。


 プニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニ……


「もう良いデスヨ!」


「わあっ!」


「全く……本当にススは幼稚デスネ……」


「えへへっ。ススに褒められるなんて嬉しいです。ありがとうございます」


「褒めて無いデス!本当にその能天気な性格が羨ましいデスヨ」


「えへへっ。ありがとうございます」


「だから褒めて無いデスッテ!もう!そして、最初にちょっと可愛い照れ方するのやめなサイ!」


「えへへっ。可愛いだなんて、照れちゃいます」


「……ニミとコントをしている暇は無いのデス。早くその玉ねぎを置いて来てクダサイ」


「了解です♪ふんふんふ〜ん」


「何であんなにご機嫌なんでショウ……イラルの村での体験がよっぽど応えたのでショウカ……」



 そう言うススの指摘は当たっているといえば、当たっていた。

 イラルの村での経験。

 一人ぼっちで、他に信頼出来る人間はおらず、怖い村長、狂ってる医者、変な傭兵、そして魔獣の王様と来た。

 怖かったし、逃げたかった。

 ススやロホアナの力を借りずに頑張ると意気込んでいたが、実際私には荷が重すぎる出来事ばかりだった。

 だから私はこの三人の家での生活が本当に平和で、幸せだと気づいた。

 こんな無能な私がここに居て良いのか、疑う程にだ。


 ***


「おおっ!出来ましたね!やっぱりススの料理は世界一ですね!見た目だけで分かりますよ、これは美味いって!」


「……無理してオーバーリアクションしなくても、良いデスヨ。見た目は良くとも、中身が良く無いと意味が無いデスからネ」


「なるほど、では、食べなくてもわかります!これは美味しいと!」


「聞きたくありマセンガ、聞きマス。何故、食べなくても分かるのデスカ?」


「見た目が良いからです!」


「今さっきいった『なるほど』は何だったんデスカ!?納得したのデハ!?」


「まあまあ、大丈夫ですって。さあ、運びましょう!」


「ハァ……何なんデスカ……そのテンションは……」


 私とススはテーブルに料理を綺麗に並べる。


「ロホアナ様は?」


「寝てイマス。最近は地下室にずっと引き籠もってますカラネ。勝手に散歩をしに外出して、何かに巻き込まれても、困りますカラ」


「まあ、物騒な世の中ですからね。魔獣とか村とか魔獣とか」


「魔獣二回言ってますガ……まあ、良いデス。ロホアナ様の所には、私が持って行くので、先に食べちゃいまショウカ」


「はい!」


 という訳で、私たちはムシャムシャと朝食を食べるのでした。


「ムシャムシャという表現は、野蛮に聞こえるので辞めて欲しいデス。ニミだけならば、良いのデスガ、私まで野蛮に聴こえてしまいマス」


「ニミだけならばって何ですか!なら、ムシャムシャ以外に適切な言葉を今!すぐ!ススが答えて下さい!」


「ウーン……パクパク……トカ?」


「パクパクだと何だか軽いものを食べているように感じます。パンとか……野菜はどう表現すれば良いのでしょうか?」


「野菜はシャキシャキで良いのデハ?歯応えのある芯がしっかりとした野菜の食感がヒシヒシと伝わってくるようデス」


「なるほど、シャキシャキ。パクパクシャキシャキ。ゴクゴク。ムシャムシャ。シャキシャキ。パクパク。モグモグ。あ、!モグモグですよ!モグモグ!!これなら、野菜だろうと肉だろうと、パンだろうと、色々なモノに適用出来ますね!」


「確かに……ならモグモグにしてクダサイ」


「了解ですっ!」


 という訳で、私たちはモグモグと朝食を食べるのでした。


「なぜ敬語なのデスカ……?」


「気にしない、気にしない♪さて、私も……モグモグモグモグモグモグモグモグパクパクパクパクシャキシャキシャキシャキ……ゴクゴクゴクゴク。このスープ美味しいですね」


「ナグナ王国で値切ったモノデス」


「ほう、このお肉美味しいですね」


「仕留めた魔獣の肉入りデスカラネ」


「ぶっ!?げっほっ。げっほっ。まさかそんな……」


「嘘デスヨ」


「魔獣の肉がこんなに美味しいなんて……感動しました。これでもう食料には困りませんね!」


「………」


 とまあ、こんな感じでのどかな「三人の家」の朝が過ぎていくのでした。


 しばらくして、私たちは朝食を食べ終えると、食器を洗い、片付ける。


 基本的に三人の家での生活は、ススが食事をつくり、買い出しをしたりする。私は三人の家の掃除をしたり、洗濯をしたりする。ロホアナは地下に篭り、研究を続ける。こんな感じだ。

 ロホアナは研究発表などで、ススは買い出しなどで、ナグナ王国に行く機会があるのだが、私はずっと三人の家かは出る機会が無かった。

 ただ、イラルの村みたいな経験はしたくないので、それはそれで良いのだがけれども。


 私はススやロホアナ、私の服を外で洗濯しながら、ぼーっとする。

 太陽の暖かい日差しが当たり、ポカポカしていて気持ち良い。

 イラルの村で負った怪我?勿論治りました。ファーゼですから。


 いやぁ、本当にのどかだなぁ。

 平穏、平和。最高。

 風で草木が揺れる音が聞こえる。

 自然は良いなぁ、なんて考えてしまう。


 こんな平和な毎日が永遠に続けば良いのに、と私は思った。




 だが、私たちは忘れていたのだ。

 自分たちが背負っているものを。


 それは既に近づいていた。

 それは既に始まっていた。



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