第45話 いつものキャラとは?
ナグナ王国騎士団は、近隣の諸国においても、最強の騎士団と呼ばれる程圧倒的な力を誇っていた。
現在は、国王が穏健派である為、他国とも友好的な関係を保っており、戦争行為をする事は無くなったが、王国最強の騎士団は、ナグナ王国を守る英雄として、現在も国民から讃えられていた。特に騎士団長のヴィロス、副騎士団長のクニレアは、ナグナ王国騎士団の中でも、最強の騎士として、国民から慕われていたのだった。
騎士団長のヴィロスも、副騎士団長のクレニアもどちらも容姿端麗であった為、男性、女性それぞれの憧れの存在だった。
***
騎士団長ヴィロスは、ナグナ王国の副大臣に、王の謁見室に呼び出されていた。
この時間ならば、見回りをする予定だったのだが、副大臣から重要な連絡があると呼び出された。
現在ナグナ王国の国王は、外交の為、外出している。国王不在の中だからこそ、国を護る者として、警戒態勢を強めればならないと思っていたのだが、副大臣直々の呼び出しだ、何か国を揺がす大きな事態が起こったに違いないとヴィロスは考えていた。
緊張を強めながら、謁見室にやって来たヴィロス。
空席になった二つの玉座の前に、一人の小太りな男が立っていた。
彼がナグナ王国副大臣である。
国王不在時は、彼が代わりに国政だけでなく、騎士団の指揮権も持っている。
ナグナ王国騎士団の一部は、国王に同行していたのだが、ヴィロスとクレニアがナグナ王国にいたので、手薄とは言えなかった。
広大な謁見室にヴィロスと副大臣の二人。
「副大臣、御用とは何でしょうか?」
「うむ、ちょっと厄介な事が起こってな……」
「厄介な事……とは?」
「我がナグナ王国は平和主義を掲げて以来、周辺諸国との友好的な提携を結んでいる事は分かっているな?」
「はい、勿論です」
ナグナ王国だけでは全ての国民に満足に物資を供給出来る筈もない。現在も人口は増え続けている。人口問題がある程にだ。ナグナ王国が豊かな生活を継続させていく為には、周辺諸国との貿易が必須だった。
「ナグナ王国にとって大切な友好国、マーイヤナ王国から要請があってな……」
「要請、ですか……我が国に……」
「そうだ。マーイヤナ王国では、以前ある事件が起きた。マーイヤナ王国の軍事研究所で働いていた研究員の一人が、軍事機密を持ち出し、逃亡したのだ」
「ああ、その話なら、うっすら聞いたことがあります」
その話なら、騎士団の中でも、話題になっていたような……
マーイヤナ王国は今でこそ、ナグナ王国と友好的であれど、王族が政権を握っていた時代は、魔術と兵器を駆使した軍事兵器を大量に開発していた。超軍事王国だったのだ。
最強と呼ばれた騎士団も、マーイヤナ王国の最新兵器には苦戦した。
後に、王族政権が倒され、新しい国王が誕生すると、お互いに休戦協定を結び、これ以上の軍事開発はしないと約束したのだが現在も密かに軍事研究を続けているという噂だった。
そんな中、マーイヤナ王国の軍事機密を持ち出した研究者が現れた。
その研究者は、マーイヤナ王国の軍事秘密を国民に伝え、再び王を倒すべきだと主張した。マーイヤナ王国の軍事兵器は世界を滅ぼしかね無い程強力な力を持ってしまったとか。王はそれを利用し、再び軍事大国を作り上げようとしていると、その研究者は訴えた。
当然、王国側は、その研究者を重罪人として、大々的に指名手配し、現在も追い続けていると聞いたが……
「その研究員がなんと、我がナグナ王国へ入ったとの情報が入ったのだ」
「ナグナ王国に……!なぜわかったのですか?」
「デッヒという情報屋知っているか?」
「各国の情報網を掴んでいる情報屋と聞きましたが……」
「実の所な、我が国に入ってくる情報は大半はデッヒから貰っているんだ。王は外に余り出たく無い方でな、今回の外交もワシがどれだけ説得したものか……」
「お疲れ様です……というか!副大臣!我が国に情報網が全てデッヒからってどういう事ですか!?」
「いや、ワシに言われても……王の命令だし……」
副大臣が都合が悪くなったのか、ヴィロスからぷい目を逸らす。
「怪しい情報屋に我が国に情報は全て握られてるって事ですよね!?何考えてるんですか!?」
「いやーーん!ワシに言わないでよォォォォォ!!だって!だって!王が出たく無いっていうから!デッヒが絶対信用出来るって言うから!損はさせないって言うから!超安全って言うから!!」
「子供みたいな事言わないで下さい!全く、怪しさマックスじゃ無いですか。確かに、騎士団が王政まで干渉するのは、あまりよろしく無いかもしれませんが、副大臣、しっかりして下さい。今度、そのデッヒとやらに合わせて下さい。私が直接話します」
「ぐすっ。ぐすっ。わかった……」
やれやれ……
主君がこれじゃ、不甲斐ないなぁ……
ヴィロスは小さく溜息をつく。
「で、マーイヤナ王国との友好関係を保つ為に、その研究者を見つけろと?」
「そゆこと!流石ヴィロスちゃん!物分かりがいいねぇ」
せっかく厳粛なムードだったのに、開き直って結局いつものキャラに戻っていやがる。このアホ大臣め。
「その研究者に関する手がかりはありますか?」
「女。あと、なんかツレがいるみたいだ。それも女」
「そこまで分かっているのなら、もっと早く対策できたのでは?」
「まあまあ、デッヒの言う事は多分正しいしさ!あ、あとはね……」
「……!?ですが、あそこは……!」
「そう……だから….…ね……」
「………なるほどな」
これは、また厄介な事になりそうだ。
やれやれ……
***
「へぇ?マーイヤナの脱走者ねぇ……」
「ああ。場所が場所だけに、何が起こるか分からない。俺とお前だけで行く」
「えー?私も行くのぉ?」
「ったく。気高き副騎士団長か。国民がお前のその怠惰な姿を見たら泣くぞ」
「いーの、いーの。私はこれで」
「全く……」
ぐーたらとベッドにパジャマ姿で寝転がり、ポリポリと背中を掻いているこの女こそ、我らがナグナ王国騎士団、副騎士団長クニレアなのだから、笑える。
国民の前では清く気高く美しく、全ての女性の憧れである彼女がこれだからな……やれやれ……これじゃ示しがつかない。
「しょーがない!久しぶりのヴィロスとのデートだしね!頑張らないと!」
「……」
全く……どうなる事やら……
***
動き出したナグナ王国の騎士団たち。
三人の家での平穏な暮らしを求める、ロホアナたちに待ち受けるものは……!
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