第四章 忍び寄る影

第43話 懐かしき我が家

 懐かしき我が家に到着!

 ようやくようやくようやく到着した。

 ああ、この艶やかな木造の我が家を見てこんなに感動する日が来るなんて!

 涙腺をしっかりしめて、油断すれば涙が出てしまいそうな程だった。


「そんな感動しますカネ?」


 私が感傷に浸っているとススが横槍を入れてくる。

 全く……こういう時には感情にしっかり身を任せるのが筋なのに。

 ススはあまり感情を出さないけど、人間は嬉しい時には、力一杯喜んで、悲しい時には大粒の涙を流して、泣く。

 これが一番でしょう。素直に感情を出さないと。


「私は感情を出しまセン。感情を優先すると、ロクな事が起こりまセン。私は何度もそれを経験していますカラ」


 経験……?

 よくわからないけど、まあいいや。


 私は、三人の家の太陽の光が当たってほのかに温かい壁に触れる。

 木の生命エネルギーが、私の中へ入ってくるように感じる。

 素晴らしい。


「どれどれ私モ……」


 ススが私の真似をして、壁に手を当てる。

 てっきり、「木にエネルギー何てある訳無いだろうバーカ」と罵倒されると、私は身構えていたのだが……


「確かに、何かを感じる気はシマスネ」


 ススは一言こう呟いた。

 ……何かおかしい。どうも、ススの様子が変だ。理由は分からないけど、私はそう感じた。


「とにかく、中に入りましょうか」


 私は三人の家へと入った。


 ***


「何か随分久しぶりに感じますね……うーん。感慨深いものがあります」


「……早くロホアナ様の所へ行って下サイ。一番会いたがってましたカラ」


「分かりました。行ってきますね」


 私は早速、ロホアナの地下室へと入った。



 ***


 変わらず色々な物が無造作に置かれている地下室で、ロホアナは黙々と何かを書いていた。

 階段から降りて、研究室に入っても、気づいていないのだろうか。


「あの……ロホアナ様」


 私は軽く声をかけてみる。


「おや、その可愛らしい声はニミちゃんの声だねぇ」


 無邪気な嬉しそうな声が返ってきた。

 そうだ、私はこのロホアナの喋り方に見覚えがあった。

 イラルの村の唯一の医者、レク。どこか彼に似ているのだ、話し方が。

 気のせいかな?


「ロホアナ様。イラルの村から帰って参りました」


「うむ、ご苦労さん。私はとんでも無く忙しいから、振り向けないけど、イラルの村について色々聞かせてくれるかな?」


「分かりました」


 私はイラルの村で起こっている事について、ロホアナに話した。

 村長の野望、住民の想い、村唯一の医者レクの野望、レクと傭兵、例の薬について、迷いの森の魔獣と、魔獣の王……等をロホアナに話す。


 ロホアナはこちらを向かずに、じっと黙って聞いている。


「……なるほどねぇ。やっぱりススの『嫌な気配』は当たってた訳だ」


「嫌な気配……?」


「ススは『勘』ってヤツが冴えてるからね。勘と呼ぶのもおこがましいかな。彼女の考えは良い意味でも、悪い意味でもよく的中するって事だよ」


「だから、ヒミが迷いの森にいたんですか?」


「そう。確かに私はニミを心配していたけれど、一番ニミを心配していたのは、ススだと私は思うよ」


「ススが……ですか?何か様子がおかしいなーとは思っていますが」


「ただ、完全な信頼と理解を得るのはやっぱり難しいかもしれないけどね。ニミの場合は、出会いがそもそも最悪だったからね」


「あはは……」


 返す言葉が無い。私はうっすらと苦笑いをする。


「私もまだニミの本当の事は正直分からないんだ。ごめんね」


「ロホアナ様が謝る必要なんて、全くありません。私はロホアナ様に感謝しています。だから……」


 言葉が続かない。

 私は一体何をしたいのか?私は一体何をすべきなのか?

 答えは明白なのに、なぜ言えない?


「大丈夫。私はわかっているよ」


「ロホアナ様……」


「とにかく……まずはお疲れ様。よく頑張ったね。硬い話は後にして、とりあえず上に上がろうか」


「は、はい!」


 私とロホアナは研究室から出ると、地上へと戻る事にした。

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