第33話 好奇心と命がけの冒険
「もう結構進んだと思いマスガネ……」
「うーん。ずっと同じ道を歩いてきたけど、何にも現れないなぁ。つまんないの」
「ウーン。何も現れずに村の外に出られるのなら、それが一番なんですガネ……」
そうは言うものの、やはり胸騒ぎが消える事は無い。違和感?不信感?この気持ちは何だ?
今更引き返す事など出来ない。
進み続けるしか無い。
光魔法の眩い灯を頼りに進んでいく。
「ん?」
ふと、ススの前方を歩いていたヒミが足を止めた。
「どうかしたのデスカ?」
「何か、聞こえない?」
「何か……ウン?確かに、何か足音のような音が聞こマスネ……でも今場所にいる訳ガ……」
「これは、足音じゃない!地面が微かに揺れてる!」
「揺れテ……」
ススは足元を見る。足に意識を集中させると、確かに振動を感じる。
これは….洞窟自体が揺れているのか?
「世の中には地震というものがあると聞きましたが、ワタシが生きてきた中で、村でそんな事が起きた事ありませんヨネ?」
「でも、ここは地下だから……何が起きても……」
ヒミがそう言葉を発した次の瞬間だった。
「うわっ!?」
「キャッ!?」
地面が今までとは比にならない程大きく揺れ、ススとヒミは思わず、体勢を保てず、その場に足を崩してしまう。
ススも無意識に光魔法を解除してしまった為、辺り一面が再び暗闇に包まれる。
「光が……!」
洞窟が大きく揺れ続ける中、何も見えないのはマズい!
そう思ったススは急いで再度光魔法を出現させる。
何とか光を取り戻す事が出来た。
だが、体勢を保つ事ができぬ程大きく地面が揺れていた。
「こ、これは……!ヒミさん、大丈夫デスカ!?」
「うん、何とか!凄い……振動が強すぎて、立てない……!」
「どこかに隠れられる場所は……!」
古い洞窟だ、もしかしたら崩れる可能性もあると、ススは考えた。
だが、ススたちは一本道をずっと歩いてきた。両側も壁だけで抜け道などは無さそうだし、元の道へ戻る事も出来ない。かといって、この一本道がどこまで続いているのかも分からないし、どこに繋がっているのかすら分からない。その先が安全とも限らない。
だが、いつまでもここにいる訳にもいかない。
「進みまショウ!ヒミさん!」
「うん……分かった!」
「しゃがみこんで、頭を低くして……!ゆっくり進めば、負担は多少は軽減される筈デス!」
「了解……!」
ススたちは洞窟の振動に耐えながら、移動を再開した。
ヒミの声が震えていた。先程までの自信に満ち溢れたハリのある声とは打って変わって、その声に自信は感じなかった。そりゃそうだ、未知の場所にいて、先もわからなくて、尚且つ謎の地震にススたちは襲われている。
分からない事だらけだ、不安以外に何も存在しない。だけど……!
「ヒミサン!」
「んーー?どうしたの?スス!?地震で声があんまり聞こえない!」
「出ましょうネ!一緒に!外の世界ヘ!」
ススがそう言うと、ヒミは飛び切りの作り笑顔でこう答えた。
「もっちろん!絶対出てみせるよ!二人で!」
期待、希望、好奇心。外の世界への肥大なこの気持ちは薄れる事無かった。
ヒミとは異なり、先程と違って、ススはこの状況にワクワクしているのを感じた。こんな事、村にいては絶対に体験出来ない事だ。学校や普段の生活ですら経験出来ない、未知の空間での生死を感じさせる、命がけの冒険。
ススの一瞬一瞬の判断で、ススだけじゃない、ヒミの命さえも決定付けられるのだ。
文字通りの「生死を分けた命がけの大冒険」だ。
そんな状況をススは望んでいたのかもしれない。ずっと、ずっと。
ヒミ以上にススの好奇心は高かった。
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