第34話 諦めない心が大事

「はぁ……はぁ……ヒミさん、大丈夫デスカ!?」


「うん、はぁ……平気だよ、大丈夫」


「この地震……収まりまセンネ……」


 先程からあの状態で歩き続けているが、一向に振動が止む気配は無い。

 疲れもあってか、振動で初めは酔い、気持ち悪くて、吐きそうになったりもしたが、長時間慣れると少しはマシになってきた。

 一体この振動は何なんだ?

 村でも起こっているのだろうか?


 さらにススたちは進み続ける。

 足腰も疲れ、息も上がる。

 運動神経抜群のヒミと違い、ススは頭は良かったが、体を動かすのは苦手だった。魔法試験でも、いつもヒミに成績面でススはヒミに負けていた。

 学力試験では優っていたけど。

 お互いがお互いの良い目や、悪い目を認め合う事で、二人はここまでの関係を築く事が出来たのだ。

 だがら私たちなら出来る、この自信はそのあたりからやって来ているのだろう。


「ねぇ、スス?」


「ン?どうかしましたカ?」


「なんか、この地震、大きくなってない?」


「大きく……?」


 よくよく意識を集中させてみると、確かに先程より、揺れが強くなっている気がする。

 慣れによって気付いていなかったが、確かにヒミの言う通りだ。


「ねぇ、ねぇ!スス……」


「ど、どうかシマシタカ?」


 ヒミの声が明らかに先程より震えている。


「な、何かへんな獣みたいな声しない?」


「獣、デスカ?」


 ススは振動の音に耳を傾ける。

 相変わらず洞窟全体が揺れる音が聞こえるのみ、と思ったのだが。


 ギュルルルル……!


「獣の声……!」


 微かに聞こえる「何か」の唸り声。

 上か?下か?先か?前か?

 分からない、だが確かに「何か」の声がする。


「スス!見てあれ!」


「そ、ソンナ……」


 ススはヒミが指差すその方向を見て、絶句した。

 ススは明かりをその方向に照らし、真実を確認する。


 行き止まりだった。


 何も無かった。


 長い間夢見て歩いて来たこの洞窟、その先にあったのは茶色の障害、壁のみ。

 道は先へと続いていなかった。


「やはり、地震で崩れたのでショウカ……?」


「うううっ……そんなぁ。ここまで歩いて来たのに……」


 ヒミも体力的にも精神的にも限界なのだろう。ススだって、そうだった。

 訳の分からない道を通り、訳の分からない地震に悩まされ、訳の分からない声を耳に挟みつつ、ようやくたどり着いた場所が、まさかただの壁だなんて。

 今からまたこの道を再度戻るのか?

 そう思うだけで、吐き気がしてくる。

 ヒミは半泣きの状態だ。目は軽く赤くなって、腰をぬかし、情けない表情をしている。

 ススだって、泣いて解決するのなら、泣きたかった。

 道が間違っていたのか?最初に地下に入って、道なりに進んで、確かに道は分岐していた。ヒミが選択した一つの道をススたちは歩いて来たのだが、間違っていたのだろうか?他の道なら先へと続いていたのか?

 やっぱりおかしい。何かがおかしい。

 この洞窟には、大きな秘密が隠されてている違いない。

 こんな所で、諦めてたまるか!

 限界下でのススは強かった。精神的にも、肉体的にもそうだ。


 このような極限状態の時こそ、冷静に、落ち着かないといけない。

 学校の先生も、フミおばさんも話していた事だ。

 学校の知識なんて役に立たないと思っていたが、現に今こうして役に立っている。学校に行っていて良かったと初めて思った。

 諦めない!必ず方法を見つける!


 すると、ヒミは無言でゆっくりと、立ち上がり、よたよたとススたちが来た方向へ足を進めようとしていた。

 その表情には気力を感じる事は出来なかった。


「待って下サイ!ヒミさん」


「ふぇ?」


 ススがヒミを引き止めると、ヒミは間の抜けたような声で答える。


「あの壁の辺りを調べてみまショウ。何か見つかるかも知れまセン」


「で、でも壁しかないよ……」


「まだ何も無いと決まった訳では無いデス!ワタシの考えが正しければ……」


「……分かった。行く」


 ススとヒミの二人はゆっくりと壁の方へ向かった。

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