第32話 大人は嘘つき

ヒミに言われるがまま、ススはフミが選択した道を進んでいく。先程入ってきた場所よりか多少は広くはなったが、まだまだ見通しが良い道とは言えない。

何かに襲われても対処するのは難しい。気をつけないと。

そんなススに構わず、ヒミは奥へ奥へと進んでいってしまう。穴を抜けて、ススの光魔法の明かりを頼りに、ヒミが選んだ道を進み続けているのだが、モンスターに襲われたりだとか、何か罠があるとかは無かった。

思いのほか、地下洞窟の道は整備されており、かつて使用されていた形跡を感じさせる部分もあるが、それならばここまで通路を分岐させて、洞窟内を複雑にさせる必要は無いはずだ。

単なる村の外に出る為の脱出路ならば、どうしてこんな事をする必要があるのだろうか?

光の種族の村人達は一体何を考えていたのだろうか?必ず何か理由がある、ススはそう考えた。


「ふんふふふーん。ふんふふーん。ふんふーん。ぼうけん♪ぼうけん♪」


ヒミは相変わらず能天気に鼻歌を歌いながら、ススの前を歩いている。

どうしてこんなに気楽でいられるのだろう?

洞窟の中で迷ったり、モンスターに襲われる事を心配していないようだ。

ススはとてもヒミのようにはなれない。


灯さえ照らしてしまえば、何の変哲も無いただの洞窟だ。学校の演習授業でも、村の洞窟に行った事があった。

その時も暗かったなぁとしか思わなかったし、モンスターも出ないのだから、全然問題無い。


「ヒミさんはどうしてそんなに元気なんデスカ?怖く無いんデスカ?」


「ええ?だってワクワクするじゃん!あんな村にずっといるなんてやだもん」


ヒミは今まで通りの普通で平凡な日常から脱して自由な世界を見てみたいと言っていた。

同じ事の繰り返しは嫌だ、もっと広い視野を持って、色んなことをしたい。

ススたちの年齢だと、まだ外に出る事は出来ないので、不可能の筈だった。

ヒミの目は輝いていた。

純粋で、ひたむきに。


「確かに、そうかもデスネ」


「でしょでしょ!外の世界どんななんだろう、楽しみだなぁ!」


「まず外の世界に出られたら、の話ですけどネ」


ラクやムナが本当に村の外に出られたのかは、誰にも分からないのだ。

村の住民は、彼らを探そうともしないのだから。


「出られるって!ほら、モンスターとか全く出ないし」


「うん、おかしいデスネ……」


フミおばさんは確かに、地下洞窟にはモンスターが住み着いていると言っていた。

フミおばさんが嘘をついているとは思えないし。でも、地下洞窟にモンスターは一切いないと仮定するのなら、フミおばさんだけじゃない、村の住民がこの森、この洞窟に近づけないようにしているのだ。

モンスターいないのになぜ?

モンスターがいると嘘をつかないといけないほどの秘密があるのだろうか?


とにかく進むしかない。

ススたちはひたすら洞窟を進み続けた。


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