第30話 後悔先に立たず
ヒミの提案した計画はこうだった。
***
外へと繋がる洞窟は、村の地下にある。村の何処に洞窟への入り口があるらしく、ヒミは信用ある情報筋から情報を入手する事に成功した。
洞窟は、昔は非常時に脱出する経路として利用されていたが、洞窟内に何処からか、大量のモンスターが侵入し、住み着いてしまったので、現在は誰も利用しておらず、近づく者もいないという。その洞窟は、スス達が通っている学校の裏にある森の中にあるらしい。スス達の村自体も、周りを山に囲まれているので、そもそも侵入者がこちらに辿り着けるのかさえも疑問だったのだが、とにもかくにも洞窟の居場所は分かった。学校の関係者はいつまでも学校に残る訳では無い。夜遅くまで待てば関係者もいなくなるだろう。
学校を経由しなくても、裏の森には入る事は出来るのだが、念の為だ。なるべくみられない方が良い。学校から全ての関係者が居なくなるのを待って、裏の森へ侵入する。……正直作戦と呼べるほどのものではないのだが、何が起こるか分からない。入念に準備しないと。
***
ススは、今夜計画を実行する事を、ヒミと決めて、学校が終わったら、それぞれの家に帰った。ススの場合は、フミおばさんの家だ。
ススは迷ったが、フミおばさんに相談した。今から地下洞窟を通って、ヒミと一緒に地下洞窟を出ようと思うけど、どう思う?と。
正直に話しすぎかと思ったけど、フミおばさんなら信頼出来るとススは考えていた。
夜へ向けて、開店の準備をしているフミおばさんの手伝いをしながら、ススはフミおばさんの話を聞いた。
「地下洞窟……そこに行くのは第一、村の掟に反する事を理解しているね?」
「ハイ、フミおばさん。理解していマス」
「私はススの事を信頼しているし、愛しているよぉ。本当に大好きさぁ」
「……」
「だけど、掟を破った者に対するこの村の仕打ちは知っているだろ?」
「ハイ」
「ススが言っていた外に出ようとした子たちがどうなったかは分からないけど、掟を破った者を村は許さない。もう二度と村には戻れないし、場合によっては村から追われる事もある」
フミおばさんは続ける。
「その覚悟がススにはある?」
「勿論デス」
「そうか、なら私は止めないよ。ススの人生を決めるのはスス自身だからね」
フミおばさんが笑顔で言う。
「ただ、村の掟を破ったものに村は容赦しない。地下洞窟で何があっても、村の住民は助けに行けないからね」
「ワカリマシタ」
「地下洞窟は、昔は村が定期的に管理していたんだけどね。今はモンスターの巣窟になって、誰も寄り付かなくなっちゃったみたいだけど……大丈夫かなぁ……」
「……」
***
フミおばさんと別れた後、ススは自分の部屋に戻り、夜になるのを待つ。
勢いよくヒミの提案に乗ってしまったけど、本当に良かったのかと今になってちょびっとだけ後悔してしまう。
ススは見た目や行動を見る限りでは、しっかりしているように見えるが、決断力が無いという欠点があった。重要な局面に限って、後からやっておけば良かったと後悔する。
後悔先に立たず。
まさかに言葉の通りだ。
本当に良かったのか?もう少し考えてから行動すべきだったのでは?
ヒミを説得し、諦めさせる手段もあったはずだ。
でも、ススは心の何処でこの現状に納得し、理解していた。その理由はなぜか考えた時に、ススも村から出たい、その気持ちが僅かでも存在していたからだ。
閉鎖された村の中で毎日毎日同じ事の繰り返し。学校でも同じ面のクラスメイトと顔を合わせて、同じ教師から授業を受けて、自分の能力が外の世界でどれだけ通用するのかが知りたかった。これはススも外の世界に出る事を切望していたからだろうか?
分からない、この選択肢が正しいのかは分からないけれど、やるしかない。決めた以上は、ヒミと一緒に、二人で外の世界へ行くんだ!
ススは決心した。
「気をつけて行っておいで」
どうか……無事で……
無事を祈るにしても、スス達が地下洞窟を抜ける事が出来たなんて、確認する術が無いのだ。
不安は消える事は無い。
***
村の人々が家に篭り、家族との平和な団欒を謳歌してしているか、既に暖かい布団で寝ているか、村の夜は冷ややかに寝静まっており、聞こえる音は、猛獣の鳴き声や、この葉や木が揺れる音のみだった。
そんな静寂な空間に、コツコツと煌びやかな音が響き渡る。
黒い影が村の民家の壁に街灯に照らされて、映し出される。
影はぐんぐんと進んでいき、影は直ぐに姿を消す。次から次へと現れては消え現れては消えの繰り返し。
その正体は勿論ススだった。
フミおばさんの家から、ススの通っている学校までは、そう遠い距離では無い。
村自体がそこまで大きくないので、一周するにも然程時間はかからないけど。
しばらくすると、学校の校舎が見えてくる。学校の前でヒミと合流する予定だ。
学校の前の道を歩いていると、校門の前に立っているヒミを見つけた。
「おーい!ススちゃーん!!」
「な……!ヒミさん声が大きいデス!誰かに見つかったらどうするんデスカ!」
「ススの声だって大きいじゃん」
「はっ……!しまった……!ワタシとした事ガ……!!」
「さ、森に行こうか」
「ヒミさん荷物はどうしましたカ?」
ススの場合は、フミおばさんが「これだけ持っていけば大丈夫」と必要そうな物をリュックサックに積めてくれた。
「私はお金とか……日用品とかかな。あんまり外の世界の事分かんないし、まあ何とかなるでしょう!」
「ウーン、そう上手く行きますカネェ……」
「大丈夫だって!地下洞窟といったって、そんなに強いモンスターなんていないでしょ!」
ビンビンにフラグが立っているんだけど……大丈夫だろうか?
やっぱりヒミは楽観的過ぎる所がある。心配だなぁ……
「大丈夫大丈夫!さぁさあ、いこいこ!!」
「しょうがないデスネ……イキマスカ……」
「よっし、レッツゴー!!」
***
学校の裏を抜けて、裏の森へ入る。この森は特に特筆すべきところは無い。何処にでもある普通の森である。
この森も学校の教師達は立ち入るなと警告していた。一回中に入った生徒たちがすごく怒られていたのを思い出す。教師が禁じるほどの何かがあの森に隠されているのだと、ススは思っていたけれど、やはり教師達は地下洞窟の事を知っていて、私達を地下洞窟へ行かせないようにしていたのだ。
やはり、それだけ地下洞窟は危険な場所なのだろうか?
薄暗い森の中をススとヒミは歩いていく。森の中は薄暗い闇と次に照らされた眩い光が交差して、薄暗い空間を作り出していた。そんな森を歩く二人。
森の中は道と呼べるものは無く、木々や、倒れた木ばかりで、歩くには険しい道だった。二人は足元に注視しながら、進んでいく。
ヒミが先頭を歩き、その少し後ろをススが歩く。
静寂な森の中に二人の足音だけが存在する。ヒミは具体的な地下洞窟への入り口がある場所を分かっているのだろうか?行き当たりばったりで探しているのだろうか?
ヒミは黙って奥へ奥へと進んで行くので、ススはそれに黙って付いていくだけだった。二人とも何も喋らない奇妙な時間が続く。ススはヒミの背中を見上げる。たくましい、か。
大丈夫なのか、と一言聞こうと思ったけど辞めた。今はヒミに任せるしかないだろう。
森の奥へ奥へと進むうちに、この森はこんなに深かったのかとススは思った。意識してなかったけど、かなりの距離を歩いた気がする。村を囲む壁にぶち当たってもおかしくないはずなのになぁ。
「スス、見てこれ!」
「ドウシマシタ?」
「ほら、これこれ!」
ヒミが嬉しそうに話すため、一体何かとススがヒミの示す方を見ると、ポツンと地面に扉があるのが見えた。扉はやはり長く使われていないのか、錆だらけで、苔もうっすらと生えており、汚れだらけだった。
だが、扉を開くための「取って」はしっかりと装着してあり、開く事は可能だろう。
「これが地下洞窟への入り口なんでショウカ?」
「こんなところにあるなんて、明らかにおかしいよ!絶対地下洞窟への入り口だって!開けてみよみよ!」
ヒミはそう言うと、扉の取手を持ち、引っ張る。
「あれ?結構硬いな」
「ワタシも手伝いマスヨ」
ヒミとススが二人一緒に取ってを握り、扉を開けようとする。
「「うーん!えーん!!」」
ドゴォォォン!!
「うわぁ!」
勢いで二人は投げ出されてしまう。
「はぁ……はぁ……開きマシタネ」
「意外と固かったね。でもほら見て!スス!中真っ暗でどこか繋がってる!」
「本当デスネ….大丈夫デショウカ?」
「大丈夫大丈夫!中に入ってみよ!」
私達は中へ入ってみる事にした。
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