第三章 ススの冒険

第29話 ウインナーとミートボール

***


 ススは自分にもしもの事があった時の事、自分に何かあった時に、ススがロホアナをしっかり守れるかが気になっていた。

 ロホアナは魔術が使えない。出会った時から、ロホアナはどこか気が抜けているというか、油断しているというか、楽観的な場面が多かった。

 正直、ロホアナの本心はススには分からない。本当はしっかりと考えているのかもしれない。だが、ススにはそうは思えなかった。

 ニミに襲われた時もそうだ。

 ロホアナは人を信用し過ぎている。

 ロホアナは頭は良いかもしれないが、戦闘能力は皆無に等しかった。地下室に篭って、研究に没頭し続けてあえるので、ただでさえ運動不足で、迷いの森でニミを探しに行った時も苦しそうにぜぇぜぇ言っていた。

 ロホアナが戦えないのならば、ススがロホアナを守らないといけない。

 ススは勿論「三人の家」での平和な生活が未来永劫続けば、それが一番良いとは思っている。だけど、今回の迷いの森の一件、イラルの村、ナグナ王国。これらの情勢を考えると、いつまでも「三人の家」での平穏な生活が続くとはススは思っていなかった。

 いや、すでに壊れかけているのかもしれない。スス達が気付いていないだけで、魔の手はすぐ側まで来ているのかもしれない。もしまた追われる生活が戻った時に、仮にススが死んだら誰がロホアナを守れる?ニミしかいなかった。ススはニミが本当にロホアナを見捨てずに、守り抜いてくれるかが心配だった。分かっている、分かっているけど、ニミを疑ってしまう自分がいた。自分だって、ニミと同じような境遇なのに。


 ***


 光の種族の村は人里離れた山奥にポツンと存在していた。

 村は大きな鉄製の全長10メートルほどの壁で囲まれており、中に入る方法は、警備塔がある一箇所だけだった。警備塔にはいつも見張りの兵士が、外からの侵入者を見張っており、スス達は安心して村の中で過ごす事が出来た。少々大袈裟ではないかと思うほどの守りに固められた、スス達の村ではあるが、住民もさながら、そこまで大きな村では無く、あくまで光の種族達が自立し、自給自足の生活を送る、イラルの村のような場所であった。

 光の種族の寿命は長く、少なくとも人間の数倍は生きる事が出来る。

 光の種族も勿論、村の住民同士で、結婚し、子供を産む事もある。

 だが、大抵は村で生まれてある程度の年月から経つと、みんな、村から出て行くのが殆どだ。村の狭い退屈な世界に飽きて、外の世界を切望し、去って行く。光の種族は魔力も高く、様々な業種に活用する事が可能なので、ある者は金持ちの傭兵になったり、盗賊になったり、魔術師になったりと進路は様々だ。


 ススも生まれてからしばらくは、村の他の子供と同じように、村唯一の学校に通っていた。そこで出会ったのが、ヒミという少女だった。あまり人と話すのが得意でなかったススにも、積極的に話しかけてくれた。初めは鬱陶しいと思っていたが、ヒミの純粋で無垢で、輝いている瞳を見る度に、なんとも言えない気持ちになって、ススも次第に、ヒミに心を開いていった。

 学校での生活も慣れてきたある日の事だった。

 ススとヒミの二人は学校の外庭にあるベンチで、温かい太陽の光を浴びながら、お弁当を食べていた。

 ススには両親がいなかったので、代わりに両親の知り合いで、村で酒場を営んでいるフミおばさんと一緒に暮らしていた。この弁当も、フミおばさんが、朝早くに起きてつくってくれたものだ。フミおばさんにはかんしゃしてもしきれない。フミおばさんばかりに頼るのは、嫌だったので、最近では自分で作るようにしている。フミおばさんも、仕事が忙しいのだから、ススのために時間を割く必要は無い。自分で出来る事は全て自分でやろう。お世話になりっぱなしのフミおばさんに対するお礼だとススは考えた。

 今日はフミおばさんがいつもより早起きして、つくってくれたけど。


「ねぇねぇスス?」


「どうかしましたカ?ヒミさん」


 二人でお弁当を食べていると、

 ヒミが嬉しそうな表情で聞いてくる。


「ススってさ、村の外に行ってみたいって思う?」


 唐突な質問にススは困惑してしまう。


「ワタシはあまり行ってみたいとは思わないですカネ……興味はありマスが……怖いし」


「ふふっ、ススって結構怖がりだもんね」


「そんな事ないデス!ちょっと怖いってだけで……別に怖がりでは無いデス!」


「どうでしょう?本当は怖いんでしょ?ねぇねぇ」


「もう!ヒミさんのイジワル!」


「ごめんごめん。別にイジワルしたかった訳じゃなくてね……」


「全く……」


 ススが呆れた様子にしていると、ヒミがごめんごめんと言う。


「それで、話の続きなんだけど。ヒミって外に出てみたいと思う?」


「さっきも言った通りデス。怖いから出たくアリマセン。村の平凡な生活がつまらないと言う人もイマスガ、ワタシはこの平凡で平穏な生活に満足してイマスシ」


「そっかぁ。ススならわかってくれると思ったんだけどなぁ。ほら、クラスメイトのラク君とか、ムナちゃんとかも、どんどん外に出ていってるでしょ?」


 そういえば、最近姿を見せないと思っていたら、以前から村を出たいと言っていたな。許可が下りたんだろうか?

 あれ……でも。


「ワタシ達の年齢だとまだ村の掟で出れない筈デハ?」


「そうそう!それが問題なの!」


 目を輝かせて、ヒミが興奮した様子で身を乗り出してくる。

 ススは驚いたはずみで、弁当のウインナーちゃんを落としてしまう。


「アア!ワタシのウインナーちゃんが!」


「あ、ごめん……ほら、泣かないで!スス。私のミートボールあげるから……」


「別に泣いてマセン!でもミートボールは貰いマス」


 ススがヒミからウインナーを受け取る。ススの悲しそうな表情が一転。太陽のような満開の弾ける笑顔へと変わる。ヒミはほっとした様子だった。


「それでねそれでね!ラクくんたちがどうやって村から出ていったのか、私調べたの!そしたらね……」


 ヒミが間を置いて言う。


「この村ってさ。警備塔があるあの門からしか出られないって言われてるでしょ?」


「ハイ、普通の一般的な村民ならそう考えるのが普通で、常識デス」


「私が聞いたある情報筋によると……ね」


「情報筋?」


「この村には緊急時に使う洞窟があってね!そこから村の外に出られるらしいの!」


「ホウ、つまりラクくんたちはそこから出ていったト?」


「うんうん、その通り!その洞窟モンスターが一杯出るらしいけど、私達なら大丈夫でしょ!光の種族だし!」


「確かにそうかもしれませんガ……」


 何かおかしい、ススは不信感を拭いきれなかった。


「ラクくんたちが帰ってこないという事は、無事に出られたって事でしょ?なら私達だって、大丈夫だよ!」


 ヒミに言うのはやめておいたが、その洞窟で彼らが死んだ可能性もあるのでは無いだろか?考えたくは無いけど。

 ラク達が居なくなっても、村の奴らは誰も探さなかった。それは何故か?

 彼らが掟を破ったから。違うのかな?



「ね、スス。一緒に行ってくれるよね?」


 本来ならここで断っておくべきだったと思う。だが、ススが断ったとしても、好奇心旺盛で、一度やると決めた事はとことんやるタイプのヒミが、諦めるとは思えない。スス抜きで、喜んで一人で洞窟へ向かうだろう。

 断る事は出来なかった。


「分かりマシタ。行きまショウ。ヒミさん一人では心配ですし」


「やったぁ!じゃあ、計画について話し合おうか!」


 ヒミは嬉しそうにそう言った。




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