第28話 私の存在意義

「…………」


 眩い光に包まれながら、足を踏み出し、目に入ったその景色は…。


 ピョコン


「あ、イマシタ」


「てっ!うわぁ!!え、スス?どうしてここに!?」


 レクに扉ゲートを開いてもらい、出た先はいつものように、私が上位種の魔獣にボコボコにされた「旧:祭殿の広場」だったのだが、そこにいたのは懐かしきケモ耳少女だった。

 可愛らしいきょとんとした瞳が私を見つめている。可愛い。


「それはこちらのセリフですヨ。何でニミがここにいるんデスか?」


「そのセリフ、そのままお返ししますよ!何でススがここにいるんですか!?」


「こっちこそ、そのセリフそのままお返しシマスヨ。何でニミがここにいるんデスカ?ニミはイラルの村にいた筈では?」


「私はたった今イラルの村から戻って来た所です」


「戻って来た……ワタシは道沿いに進んでイタノデスガ……気付いたらこの広場に辿り着いたのデス」


「ススは何故ここにいるんですか?」


「わ、ワタシの意思では無いデス!ロホアナ様が心配だから見に行って来いと……決してワタシが進んできた訳デハ……まだニミを認めた訳では無いデスから!」


「私はそんな事聞いてないですが……」


 珍しくススが取り乱している。いつも冷静沈着なススだったので珍しい。というか、可愛い。艶やかな白い肌が若紅葉のように、薄い赤色に染まっていた。


「と、とにかく!迷いの森……魔獣の森の方から嫌な気配がシマシタ。ワタシもイラルの村で何かあったのではないかと心配にナリマシタ。魔獣の森を探してもイラルの村に全然たどり着けませんデシタ。ニミは一体何処から来たのデスカ?」


「うーん……それはちょっと個人的理由でパスでお願いします」


 言おうか迷ったが、ガッツ達や村のことを考えると、まだ言わない方が良いかもしれない。


「フム……ワカリマシタ。まあ、ニミが無事だったので良かったデショウ。ロホアナ様も喜ぶと思いマス」


 ロホアナも心配してくれていたのか……勿論ススも。私の事を認めてくれる、心配してくれる、考えてくれる。それだけで私は涙が出そうなほど嬉しかったし、居場所、自分の存在意義を見いだせたようで、ほっとした気持ちになった。


「イラルの村の問題は解決したのデスカ?」


「一応解決した……のですが、厄介な問題が沢山増えてしまいました」


「厄介な問題……?」


「それについては、後でロホアナ様と話します。今は『三人の家』に戻りましょうか」


「それもそうデスネ。じゃあイキマショウ」


 私とススは「旧:祭殿の広場」を離れて、「三人の家」へと向かった。


 ***


 ギュオオオオオ!!!


「うわっ!?魔獣!?」


 草叢から急に三匹の魔獣が襲って来た。

 私はとっさに身構える。レクから貰ったこのナイフを使ってみるか。

 ハンドルの部分は夜の闇のように、漆黒だった。

 一体どんな力が……


「ニミ!後ろに一匹イキマシタヨ!」


「くっ!?」


 一匹の魔獣が私の後方に移動した。

 私はススに前方の二匹を任せて、こちらの魔獣と対峙する。


 ギュルルルルルルルル!!


 上位種の魔獣が鋭い目つきで私を睨み、威嚇してくる。


 この魔獣は……「上位種の魔獣」か!

 だけど、お前たちの王様と私は会ったんだ!会っただけでなく、この口で話したんだ!今更「上位種の魔獣」なんて!


 ギュオオオオオ!!


「いだっ!くそっ!」


 飛びかかってくる魔獣を避けきれず、右腕に軽く喰らってしまった。

 私はレクから貰ったナイフを見る。

 このナイフで……お前を!


 飛びかかってくる魔獣を避け、攻撃をナイフで受け止めて、反撃の機会を必死に探す。

 魔獣の強烈な攻撃は止む気配が無い。


「うがっ!うぐっ!」


 つ、強い!!

 少しずつ魔獣のスピードが速くなっている。攻撃も鋭く、正確になっているような気がする。こいつも私の対応に慣れて来たのだろう。だが、私も少しずつ慣れて来た。これなら……


「遅いデス!」


 私が攻撃の機会を伺っていると、空に打ち上げられた無数の「光の刃」が上位種の魔獣の胴体を貫いた。


 ギュオオオオオ!!


 魔獣は突如襲い掛かった「死の雨」に耐えきれず、そのまま事切れる。

 光魔法か……


「何を躊躇しているのデスカ?ニミ」


「別に躊躇していた訳では……」


 ニミの後ろには二匹の魔獣の死体があった。早々にニミは魔獣を始末してしまったのだろう。


「魔獣に隙を与えてはいけまセン。攻撃の機会を、余裕を、慣れを与えてはいけまセン。ニミもよく分かっている筈デスヨ。この森の魔獣が賢く、学習する事を」


「はい、すいません……」


「全く……ロホアナ様が心配するのも無理がアリマセン。また魔獣の餌食になるのデスカ?」


「あんな経験はもうしたくないです」


「ニミは元傭兵デショウ。基本的な戦闘技術は所持している筈デス。ロホアナ様の為にも、もしワタシに何かあった時に、ロホアナ様を守れるのはニミしかいないのデスカラ」


「私しか……いない……」


 私はずっと甘えていた。

 ロホアナに、ススに。今回も何処かこんな気持ちがあったのかもしれない。どうせススが何とかしてくれる。

 これまでもそうだ。最終的にはロホアナが何とかしてくれる。そうやって逃げて来た。

 自身の過去を理由に逃げ回り、二人に依存し続けて来た。私は無能で何も出来ない。本当に「三人の家」にいていいのか?私の存在意義な何なんだ?

 私にロホアナ様を守れる力、慕う資格があるのか?


 私が、私が強くなって変わらないと。

 ススやロホアナに頼るのではない。

 今回のイラルの村に来たのも、そもそもの理由を忘れていた。

 ガッツの病気が心配だったのもあるが、私一人で誰にも頼らず、ロホアナとスス、そして「三人の家」に役に立ちたい、貢献したい、その意味でイラルの村に行ったのだ。

 でもイラルの村でも私はガッツやモーナ、おばさんに、レク。彼らに助けられた。

 結局、私は一人では何も出来ないのかもしれない。




「帰りまショウ。三人の家へ」


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