第27話 さよならです
おばさんの店でガッツ達と別れた後、私はレクの診療所へ向かおうとした。
そういえば、レクは一体どこで寝泊りしたのだろうか?フォルの家とか言っていたが、あの二人は一緒に住んでいるのだろうか?仲良く二人で暮らしている姿を私は想像してしまう。
おばさんが良かったらと、手作りのおまんじゅうをくれた。7個のおまんじゅうが袋の中に入っている。このおまんじゅうも甘くてとても美味しかった。
ふんわりとした食感で、甘すぎないさっぱりとした味が良かった。
ロホアナとススにも食べさせてあげたいな。
私がそんな事を考えていると……
「やあ」
「うわっ!?」
「まるで化け物を見つけたかのような反応だね……」
急にレクが声を掛けてきた。
「びっくりした……レクさん、どこから現れてるんですか」
「散歩していたら、たまたま見かけてね。ほら、扉ゲートで村から出るんだろ?村長には私が言っておいたからね」
「村長さんは素直に許可してくれたんですか?」
「村長も君には感謝しているからね。魔獣の王が村を襲う気がない事を教えてくれたし」
ヨゴツアバルが本当に村を襲わないとは考えられないけど……
村長がそう簡単に私を逃してくれるだろうか?初めは村から出て行って欲しいと言っていたけど、村から私が出ていけない事を知った上で、あの言葉を言ったのだから、思惑があったのは間違いない。
感謝……私がヨゴツアバルの存在を見つけた事かな。
「レクさんはフォルさんの家で寝ていたんですか?」
「そうだよ。フォルの家は村の外れにあるんだ。なるべく彼には村の住民と接触させないようにしている」
「実験の内容がバレないよいにする為ですか?」
「それもあるけれど……彼は人見知りというか、職業上人と関わるのを嫌っているからね。案外可愛らしい面もあるんだよ、彼には」
フォルの何処が可愛らしいのか私には分からなかったが、内気な割には私とベラベラ話していたので、よく分からない。
「君は人と話すのは得意みたいだね。君だって彼と似たような職業だと思うけど」
「そうですかね?私もあんまり見知った人以外と話すのはあんまり好きじゃないですが……特にレクさんみたいな人はあまり信用しないようにしてますから」
「でも君はこの村の住民、ガッツ君たちは妙に信頼しているようだね」
「ガッツさん達は私の事を助けてくれましたし、色々してもらいましたから、信頼するのは当然です。感謝しています」
「私から見れば、私もガッツ君達もそんなに変わらないと思うんだけどなぁ。この村の住民という意味ではね」
「ガッツさん達をレクさんと一緒にしないで下さい!ガッツさんはモーナさんやおばさんだけでなく、村の為にも……」
「化け物になったって?」
「それはレクさんのせいじゃないですか!」
「ガッツ君が自分の意思で薬を使ったんだ。私はその手助けをしただけだよ」
手助けをしただけって、悪役の決まり文句じゃないか……
レクはガッツの事を研究対象としか見ていない。イラルの村の事もそうだ。
利用するだけ利用して、自分の欲望の為に。
でも……それって、私だって……
「この話はいいや。とりあえず、診療所まで行こうか」
***
私とレクは診療所に到着した。
診療所といっても、ヨゴツアバルのせいで、今は見る影もないが。
瓦礫の山と化した診療所の前に私とレクが立つ。
「はぁ……魔獣の王も余計な事をしてくれたよ……地下室はやられたが、研究資料が残っていたのが、幸いだね」
「私にとっては凶報ですがね」
「ナグナ王国が火の海になる日が楽しみだよ」
「そうならない事を祈りますよ」
「さて、じゃあ扉ゲートを出すけど、良いかな?」
「とっとと出して下さい。レクさんと離れたいですから」
「君は私の事が嫌いかもしれないけど、私は君の事結構気に入ってるんだけどなぁ……」
「余計なお世話です!気持ち悪いです。早く開いて下さい!」
「はいはいわかったよ……」
レクがいつものように掌を出し、扉ゲートを開く。
「ほら、出してあげたよ。村から早く出たいんだろ?」
「分かってますよ。さよならです、レクさん」
「さよなら、ファーゼ」
「………」
私は扉ゲートへ足を踏み入れる。
ようやく、ようやくーーー
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