第25話 村の更なる秘密と勝ちヒロイン

「イラルの村の呪い….…」


「ガッツ君が話していた事を覚えているかな?」


「話してた事……レクさんの『薬』であの化け物の姿になった時の事ですか?」


「そう、あの時彼は何と言っていたかな?」


「うーん……化け物になって気持ち良かったって言ってました」


「その通り。あの時彼は『自分の本当の姿はこれなんじゃ無いかってぐらい気分が良かった』と言っていたね?」


 確かにそう言っていた。

 あの姿じゃないと落ち着かない程にあの状態が心地よかった。

 まるで薬物中毒者のように。実際薬物を投与されているのだけど。


「実際彼の言葉は的を得ていてね。言葉の通り言うのならば、全くその通りなんだ」


「うん?どういう意味ですか?」


「私は以前村の歴史書を読んだ時、歴史書にはこう書いてあった。私の曽祖父がこの村に来るよりずっと前の事だ。戦争で家を焼かれた人々が、居住地を求めて、たどり着いた自然に囲まれた、この地で暮らし始めた…とね」


「何か間違いがあるんですか?」


「この真実に気づいたのは、私では無く、私の父親なんだ。私は元々この村の診療所を継ぐつもりだった。その為には、イラルの村について詳しく知る必要があった」


「レクさんのお父様は一体何に気づいたんですか?」


「私の父が、健康検査をする為に村の人々の血液を採取した時に、父ある事に気付いたんだ」


 レクは続ける。


「この村の人間の血は二種類存在していた」


「二種類……」


「一つは我々と同じ『人間』の血液。純粋なヒトの血液だ。村の内外に関わらず『人間』と総称出来る者はみんな持ってる」


 私も一応は人間だ。ではもう一種類は?


「君は人間というより、化け物に近いような気もするけどね」


「失礼な!私は何処にでもいる普通の女の子です!」


「普通の女の子が腕がにょきにょき取れたり生えたりするのかな?」


「だからにょきにょきという表現はやめて下さい!」


「なら一体何が良いんだい?」


「うーん……ぐにゃぐにゃとか、ぐねんぐねんとか?」


「そんなに変わらないじゃないか….…」


 レクが「こほんっ」と咳払いする。


「話を戻すよ。もう一つの血液というのが、調べると、人間の血液とは全く別の血液だったんだよ」


「ほう、つまり村には純粋な村人と、それ以外の異端の血が流れた人間がいた……と」


「うん……まあ、そういう事だね」



 イラルの村の住民の中に、人間では無い生物が紛れ込んでいるのか?


 レクの説明はこうだった。


 ***


 元々イラルの村があった場所には先住民が小さな集落を作り、数人規模で生活していた。そこへ、村の書物に書かれたように、戦争から逃れようとした人々が、集落を発見し、先住民と共に、このイラルの村を作り、一緒に生活していったという。

 しかし、この先住民はある特徴を持っていた。極度の興奮状態になる時に、彼らはとんでもない力を解放してしまう。

 それが、ガッツ達常備軍が見せていたあの姿なのだ。

 村を襲われ、ナグナ王国の兵士によって、村人が対抗し、殺される人間まででてきた。それを見た先住民達は、怒り狂い、次々とナグナ王国の兵士を圧倒的な力で倒していった。


 先住民族達のその姿はとても人間には見えず、言葉にするなら「化け物」のようだった。

 どうやら、その「化け物」の先住民の血を継いでいるのが、ガッツらしい。

 結局、イラルの村はナグナ王国に敗北し、その姿を恐れられた先住民族は、他の村人達から恐怖の対象となり、長らく幽閉された歴史を持つ。もしかしたら、ガッツの両親はナグナ王国に……レクはそう考えていた。

 イラルの村は本当は呪われた化け物の村だったのだ。


 さらにレクはガッツがその先住民族の「能力」を受け継いでいる事を知っていた。元々興味本位でガッツの「能力」を見てみたかったレクだが、最高のチャンスが訪れる。

 それが、村長の野望、ナグナ王国を攻め落とす事だ。

 村長から何か良い方法が無いか聞かれたレクは考えた。この大義名分をうまく利用すれば、もしかしたら、ガッツの身体を調べれるのでは無いか?

 ガッツから採取した血液を利用し、先住民族の力を支える薬を開発して、他の村人に与えれば……

 レクはこれまでに無いほど興奮した。

 その目は思春期の純粋な子供のようにキラキラしていた。

 胸の高まりが抑えつけれないほどだった。

 もうこんな機会二度とない、レクはそう考えた。

 レクの両親もイラルの村の先住民族に関しては、タブーだとして、あまり触れてこなかったのだが、レスは違う。

 興味や好奇心を自制する事など出来なかった。


 早速レクはガッツを呼び出し、血液を採取。採取した血液を研究した。村長のお願いし、村人を使って地下室で人体実験もした。何度も何度も実験を重ねて、ようやく完成に近い形にする事が出来た。


 ガッツが上手く薬の力を操る事が出来たのは、やはり先住民族の血を受け継いでいるからだろう。

 本人はまだ気づいていないようだが。


 ***


「なるほど、ガッツさんのあの姿は本来の姿だったんですね、うーん」


 私がうんうんと納得する。


「それで、レクさんはこれからも実験は続けていくんですよね?」


「勿論、診療所の再建するには時間がかかるから直ぐには始めれないけど」


 つまり村長はナグナ王国と戦争する気満々だし、レクのやる気もまだまだある。魔獣の王にも興味を持たれた、あれ?何も解決して無い?


「君はもうこの村に用事は無いだろう。村に魔獣が入ってくる事は恐らく無いだろうしね。特別だ、外への扉ゲートを開いてやろう」


「あれ、良いんですか?まだ村長の要望に応えていませんが」


「結局、扉ゲートを開けるのは私だけだからね。村長はただの人間。私しか出来ない」


「それなら、明日に出来ます?今日はもう眠いし、痛いし、疲れたので」


「ああ、ああ……まあ、良いが」


「そうだ!どうせレクさん寝る場所無いんだから、おばさんの家に泊まるのはどうですか?」


「私が?あのばあさんの家に?いやいや、マズいだろう。色々複雑な関係があるからね、それは無理だ」


 そういえば、村長とおばさんは色々あったんだった。

 村長一味であるレクが「失礼しまーす」とおばさんの家に気軽に泊まるのは、流石に無理か。


「私はフォルの家で寝るから良いよ。君はもう帰りたまえ」


 フォルさん、家あったんだ。


「じゃあ、また後で」


 私はレクと別れると、おばさんの家に帰った。


 ***


「おやおやおや!お帰りなさい!ニミちゃん」


 夜更けなのに、おばさんが満面の笑顔で、迎えてくれる。


「何とか解決しました。安心して下さい」


「ありがとね、ガッツが今丁度帰ってきた所だよ」


 テーブルの方を見ると、元の姿に戻ったガッツが黙って座っていた。

 手にはお茶。美味しそう。


「ガッツさん……」


「悪かったな、ニミ。さっきは変な事言って……」


「薬のせいでちょっとおかしくなっていただけですよ」


「やっぱり……おかしかったよな、変だったよな俺。あんな化け物の姿が居心地が良いなんてさ、普通じゃない」


「安心して下さい!ガッツさんより変な人なんて、腐る程見てきましたから。それに比べたら、ガッツさんなんて全然まともで普通ですよ!」


「そ、そうかな。あ、ありがとう」


 若干困惑しながら、ガッツが答えてくれる。


「そうだ、私は明日……いや、今日の昼ぐらいに村を出ようと思ってます」


「……そうか。色々ありがとう、ニミ」


「いえいえ、私なんて魔獣に腕やら足やらを奪われたり、地下室で拘束されたり、魔獣の王に目を付けられたり、しただけですから!」


「十分凄いと思うけど……」


「そうか、ニミちゃん帰っちゃうんだね。寂しくなるねぇ」


 おばさんが悲しそうに言う。


「そういえば、モーナさんは?」


「寝てるよ。ぐっすり」


「そうですか」


「モーナはニミちゃんの前だと何かむすっとしてるんだよねぇ。もしかして、ガッツの恋のライバルと思ってたりして!」


「ぶぼっ!?ゲホッゲホッ」


 おばさんの言葉を聞いて、ガッツがお茶を吹き出す。


「ははは……」


 恋のライバルか。

 私とモーナがガッツに告白!

 果たして勝ちヒロインの座を最終的に勝ち取るのは誰!?

 みたいな感じだろうか。

 何だか、笑えてきた。


「もう夜遅いからね。ニミちゃんもガッツも寝なさい」


「分かりました。ありがとうございます、おばさん」


「村も物騒になったからねぇ。ねえ?ガッツ」


「……うん」


 ガッツが小さくつぶやいた。


 ***


 私は階段を上がり、廊下を通り、私の部屋に入る。


「ぶはぁぁぁぁぁぁぁ」


 私は一目散にベッドに飛び込む。

 ああ、気持ち良い。

 ふわっふわっの枕に顔を埋めながら、私は目を閉じる。


 何とか魔獣問題は解決出来たけど、この村の秘密に継いて知ってしまったし、魔獣の王とも話してしまった。

 一体何なんだろうか?私はただ「三人の家」の生活を守りたいだけなのに。

 レクにフォル、そして村長か。

 本当にナグナ王国と戦争が始まったら、迷いの森はきっと……


 私は息を飲む。

 そして考えるのをやめた。


 今日はとにかく疲れた。

 今は束の間の平穏を味わい、寝ることにしよう。


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