第13話 村の秘密
私の右足と左腕が再生した……?
私が「祭殿の広場」で気絶していた時に、魔獣に襲われたのか?
あの広場で魔獣と死闘を繰り広げた後、「上位種の魔獣」の合図(?)で他の魔獣はあの広場を去っていった筈なのだ。
なのに、何故私の腕と足が引きちぎられたんだ?
「あははははははは!!」
レクはゲラゲラと笑っていた。
一気に本性を表してきたな。
そんなに可笑しいだろうか?
私は冷静に考えてみる。
私は暗殺傭兵種族ファーゼの「肉体強化」を受けて、能力が普通の人間よりは、高くなっている。
だが、この「肉体強化」は他の暗殺傭兵種族ファーゼのメンバーも受けており、回復能力がある事は知っていたが、まさか失った足や腕まで再生する程の能力があるとは知らなかった。
「君は自分がハンターだと主張しているが、私はそんな事最初から信じていないよ。君が何者なのかなんて、興味すら無い。だから気にしなくて良いよ」
「……あなたは一体……」
「私はただの医者さ。そんな事はどうでも良い。だけどさ、君。この村にはもう用はないでしょ?」
「……」
確かに、ガッツの無事が確認出来たならもう用は無いか。
「悪い事は言わないから早くこの村から出ていった方が良いよ。この村は呪われているからね」
「呪われている……?」
「ナグナ王国はこの村を占領するのに、相当苦労したそうだよ。ただのちっぽけな村なのに、おかしな話だと思わないかい?」
「でも、ナグナ王国の兵力に全然イラルの村は対抗出来なかったって……」
「どこで聞いたのかは知らないけど、歴史書が必ずしも真実を書いているとは限らないんだよ。結局は書いた人の解釈次第では、齟齬そごが発生する可能性も十分にあるからね」
「一体何が言いたいんですか?」
私の体の事を黙っていたくせに、今度は何を言い出すかと思えば。段々とイライラしてきた。
「まあいいや。ともかく君はもう村には用は無いだろ?早く出て行く事をおすすめするよ」
「まだ用は残っていますよ」
「ほう……?」
「三人の家」にイラルの村の人々が来るのを止めなければいけなかった。
魔獣退治にあまり魔獣の森の奥まで来られると、三人の家の存在がバレてしまう可能性がある。
ロホアナは、あまり気にしていなかったようだが、イラルの村にはそう、危険分子レクがいる事が分かった。
こいつは私の正体を知っている可能性がある。
嫌な予感がした。何故かは分からないが、レクは全てを見抜いた上で私と話しているのかもしれない。
レクは村で唯一ナグナ王国に行っている人間。
ロホアナの正体がバレれば、ナグナ王国に密告する可能性がある。
そもそもナグナ王国自体私はあまり信用していないのだから。心配だ……
だからまだ村を離れる訳には行かなかった。
ならいっその事、魔獣を全て退治してしまえば良いとも考えたが、あまり現実的では無い。
「推測するに……君はあの『迷いの森』に村人が立ち入るのを阻止したい、そんな所かな」
一体何処から推測したら、そんな的確に命中出来るんだ?
「そうだ、良い事を教えてあげるよ。いやぁ、そんな胡散臭いみたいな目で見ないでよ」
「自分で言わないで下さい」
「迷いの森にはね、魔獣が絶対現れない場所があるんだ。知ってた?」
それは初耳だった。
そう言えば、私は「祭殿の広場」改め、「旧:祭壇の広場」で倒れて以降の記憶が無い。
つまり、どうやってこの村に来たのかが分からなかった。
モーナとガッツの2人に運ばれていた時も、意識は無かった。
私は「三人の家」から真っ直ぐ道を進んで来たのだが、その道の先は「旧:祭殿の広場」であり、イラルの村では無かった。
「イラルの村へは迷いの森からは行けないよ」
「え?」
「ナグナ王国からイラルの村が独立した後の話だ」
***
ナグナ王国から独立した後のイラルの村は、現在の村長を中心に、外部に頼る事無く、交易を絶ち、自給自足を中心とした村づくりを初めて行った。
ナグナ王国から来た住民に対して、村長は村総出で迫害をする事により、彼らを村から追い出し、イラルの村本来の住民のみ(一部除く)が村に残る事になった。それが村長の理想とする村だったからである。
ただ、それでも村に残る人もいた。
そこでナグナ王国からやって来た医者でたるレクがある提案をする。
レクの知り合いの魔獣師を呼び、イラルの村の結界だけで無く、「迷いの森」全体に魔術を掛ける事により、便宜上の名前でいつしかついた「迷いの森」の名を現実にしようと考える。
つまり、迷いの森からイラルの村へ入る事は出来ないが、イラルの村から迷いの森を経て、ナグナ王国側に行けるようにする、そんな理想的な状態を作ろうとした。
レクは二人の強力な魔獣師を呼び、「迷いの森」に魔法を掛けた。迷いの森自身に自分が「迷いの森」だと自覚させるのだ。
しかし、この魔術に効果があるのは、人間だけであり、森に元々住んでいた魔獣達は村に侵入出来るという欠点があった。
そこで、レクは二人の魔獣師に頼み、今まで以上に強力な結界を張らせた。
そして、イラルの村から迷いの森を通らず、外に出られるように、「秘密の地下通路」を作り、「旧:祭殿の広場」とイラルの村を繋げれるようにした。
最初は迷いの森の出口までと考えてたが、この地下通路を使えるのは村長に許可された人間のみだったので、必要無いと考えた。
つまり、「旧:祭殿の広場」で倒れていたニミを助け、ガッツとモーナは、「秘密の地下通路」からイラルの村へと入ったのだ。
そして、村全体にかけたもう一つの魔術は、村を完全に閉じこめた事である。いまや、この村は外の世界とは別空間にあると言っても良い。
絶対に村人は「秘密の地下通路」以外の手段で村を出る事は出来ない。コレも村長が望む理想の世界である。
ただしこれも先程と同様、「迷いの森」の魔獣には掛からない為、魔獣達は村を出たり入ったりする事が出来る。
***
「つまりこの村は異空間にあるのですか?」
「まあ、そう解釈するのが正しいだろうね。ガッツとモーナはは村長から許可を貰っているから、迷いの森で魔獣の調査をしてたんだ。モーナが夜中に巨大な魔獣を見たと言っていてね」
「巨大な魔獣……ですか」
「あの迷いの森……興味はあるけど、私は忙しいからね。君が村長に許可を貰って魔獣調査を代わりにしてくれないかな?」
「魔獣調査なら別に村長の許可は取らなくて良いのでは?」
正直あの婆さんにはあまり会いたくない。
「忘れては行けないよ。この村では僕と村長がルールなんだ。君が勝手にこの村を出る事は絶対に出来ないし、それは私が許さない」
「あなたと村長を殺したらどうなるんですか?」
「あははははぁ!いいねぇ、その考え。この村の連中とはやはり違う。流石だよ」
最初にこいつは私の体を治療している、体をじっくり見られている。
私の正体をやはり……
「殺しても構わないけど、言っただろ?この村から解放される唯一の方法は『秘密の地下通路』だ。ただしこれを開くのがまた厄介でね。私の力が必要なんだよ、『秘密の地下通路』への扉ゲートを開く為にはね。だが、私のこの力は『村長の許可』が必ず必要なんだ。この意味分かるかな?」
つまり、私は完全にこの村に閉じ込められてしまった。
ロホアナやススに助けを求める事も出来ない。
例え村長の許可を得れたとしても、こいつが「秘密の地下通路」の扉ゲートを出してくれるかどうか。
だからこいつをここで殺した瞬間、私は永久にこの村から出れなくなるという事だ。
あの「旧:祭殿の広場」で魔獣に襲われ、気を失い、ガッツとモーナに「秘密の地下通路」を使って、この「イラルの村」に連れてこられる。いや、私はこの村に来る事を望んでいたのだが。
そう言えば、こいつも、おばさんも「村から出て行った方が良い」と言っていたが、レクはともかく、おばさんは知らなかったのだろうか?
おばさんが来たのは魔術を掛ける前だったのかな。
「……あなたは私をどうしたいんですか?」
「別に何も。ただ、外部からやって来た君が本当の意味で閉ざされたこの村で、一体何をして、この村にどんな影響を与えるのか気になるだけかな」
「私が与える影響……」
「以前はナグナ王国の人達が居たんだけど、みんな居なくなっちゃったんだよね、この村から。だから暇で仕方無くてさ、イラルの村の人は優しすぎるからね。昔みたいに戻って欲しいよ。まあ、時間の問題かな」
ちょっと待て、今の言葉おかしくないか?
レクの話だと、レクが村に魔術を掛けた後にも、おばさんの様に、村に残った外部の人間はいるはすだ。
彼らは一体どうなったんだ?
迫害を受けて、村から出ようとしても出れないはず……
そこで私はガッツが言っていた嫌な台詞を思い出してしまう。
***
『ここだけの話なんですがね、村長に敵認定された村人は、村を出ていくか、死ぬかの二択しか無いんですよ』
出て行く選択肢はもう無いはずだ。
ならどうなる?
『実際にそれで死んだ人もいますしね。おばさんも他の村人から、酷い虐めを受けてたし…』
***
ここにいるだけで、気分が悪くなりそうだった。最悪だ、気持ち悪い。
私は黙って立ち上がる。
「おや、帰るのかい?どこへ?」
「……」
私はそのまま部屋を出ようとする。
「まずは村長の許可を貰えるよう、信頼を得る行為をすると良いよ」
信頼を得る……か。
私はレクに何も答えず、部屋を出る。
そのまま医療所の出口に向かい、扉を開けて、外に出る。
「ふぁぁぁぁぁぁぁ……」
私は大きく息を吐き出す。
全く……本当に気持ち悪い場所だった。
ただ、最後まで「違和感」が無くなる事は無かった。
あの医療所に、あのレクという医者、そして閉ざされた村。
まだ何かありそうだ。
***
綺麗な青が海のように広がっていた空も、段々と暗くなり、既に日が落ちかかっていた。異空間とはいえ、時間感覚は外の世界と差異があるのかは分からなかった。
私は色々な事を考えながら、頭の中で状況を整理しながら、歩く。
すると
「おねぇちゃーーん!」
可愛らしい声が聞こえてきたと思い、確認すると、可愛らしい声の主である可愛らしい少女がいた。
「あなたは……モーナさん。こんな所で一体何を?」
「おばさんに頼まれてお買い物だよ!えっと……お姉ちゃん名前は何ていうの?」
「ニミです」
「そっか!ニミお姉ちゃん、一緒におうち帰ろうよ!」
「お家って……おばさんの家ですか?」
「そうだよ!」
モーナが無邪気な笑顔で答える。
「私が帰って良いんですか?」
「ガッツから聞いたよ!お姉ちゃん、ガッツ助けてくれたんでしょ?」
「助けたというか、逆に私の方が助けられましたよ」
「気にしない、気にしない!私達は今日から家族だから、ね!帰ろ!」
「は、はい……」
家族になってしまった……
私はモーナに引っ張られるがまま、夕日の光を浴びながら、「家」へと帰る事にした。
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