第5話 毒舌屁理屈暗黒光明猫

「ただいま、私の唯一の居場所」


 私達は、「魔獣の森」での激闘(主に戦っていたのは、ススではあるが)を経て、何とか私達の我が家である「三人の家」に到着する事が出来た。


「はぁ…はぁ……引きこもりで、運動不足を解消する為に、ススについて行って、ちょっと魔獣の森で散歩でもしつつ、ニミを見つけて、優雅に帰ろうと思っていたけど、まさかこんなに疲れる事になるとは……はぁ……はぁ……」


「えっと……私のせいですよね?すいません」


「謝る必要は無いよ、ニミ。はぁ…疲れた…おかげで本当に疲れた、いや、色々知れたからね。疲れたけど……はぁ…はぁ…それよりニミの方が辛かっただろう……私も辛かったけど。そんな怪我じゃ……直ぐに治療を…はぁはぁ……」


 所々本音が漏れているような気もするが、というか、私よりロホアナの方がある意味重症なような……


 とにかく今は、魔獣との戦闘で全身に負ったこの傷たちを何とかせねば。


「はぁ…それで、『三人の家』の中でススが待っているから…はぁ…はぁ…治療を……」


 それよりロホアナを真っ先に治療した方が良いような……大丈夫だよね?


「分かりました、先に中に入ってます」


「ああ、私も休んだら直ぐにいく」


 余程疲れたのか、ロホアナはその場にしゃがみこんでしまい、「ふぁぁぁ」と気の抜けるような声を出すと、体の疲れを放出しようとしている。

 本当に大丈夫かな?


 三人の家は、一戸建ての小さな家であり、中は3つほどの部屋で構成されているのだが、一番の目玉は、ロホアナが普段使用している地下室である。

 地下室は、隠れ部屋となっており、有事の際に使用するこのが出来る。

 ある仕掛けを作動させると、ロホアナの隠れ地下室へと繋がる階段が出現するようになっている。

 この地下室は、ロホアナが研究をする為に使用している。

 以前話したように、ロホアナがナグナ王国で依頼された研究を、三人の家の地下室で研究し、研究成果をナグナ王国で売り渡す事により、私達は生計を立てる事が出来ている。

 ロホアナが普段どんな研究をしているかは、ススは多少は研究の手伝いしている為知っているのかも知れないが、あまり興味が無い私は、全然知らなかった。

 ロホアナがナグナ王国で誰と取引して、私達三人が生活できるほどのお金を稼いでいるのかは気になってはいるが。

 そこが少し心配ではあった。

 でも、ロホアナには常にススが付いているし、大丈夫とは思うけど。


 ロホアナは私を信頼してくれているようだが、ススは私を信頼していない。

 なので、ススの意向により、ロホアナがナグナ王国などに、外出する際に同行しているのは、いつもススである。

 だから、私はロホアナが外出先で何をしているのかは、知らなかったけれども、やはりススなら大丈夫だろうと、勝手に安心してしまっていた。


 そうそう、この「三人の家」について説明しなくてはならない。

 私達は追ってを逃れて、ナグナ王国に辿り着いた。

 幸い、ナグナ王国までは追っても追ってこず、今のところ、ナグナ王国で私達の正体を知っている者は居なさそうであった。

 ナグナ王国で入手した情報で、私達にとって、一番有力な情報であったのが、「迷いの森」であった。

 ナグナ王国の人も立ち入れない迷いの森ならば、身を隠す事が出来るのではないかと考えた私達は、早速迷いの森へ向かった。

 迷いの森の魔獣を倒しながら、進んでいき、見つけたのが、この「三人の家」であった。

 森を切り開いたであろう大きな土地に、桶や、洗濯竿、洗面所、お風呂、暖炉まである理想の場所がそこには存在していた。

 木造の家の中を調べると、隠し階段を見つけ、階段を降りると、大きな地下室があった。


 誰かが利用していた形跡は確かにあり、それが盗賊なのか、旅人なのかは、分からないが、これ程理想的な環境にはもう出会え無いであろうという事で、私達はこの家に住む事にした。


 以上が、この「三人の家」の誕生秘話である。


 私は三人の家の扉を開けて、中に入る。


「ウワ、帰ってましたカ、暗殺傭兵種族ファーゼサン」


 帰ってくるなり、毒舌光明猫ススが罵声で迎えてくれる。


「相変わらず酷いですね、毒舌光明猫スス。人を病原体みたいに扱って」


「でもアナタは魔獣に負けましたヨ。魔獣によって受けた傷で、アナタは汚染されてイマス。実際、病原体ミタイなモノでショ?」


 中々理屈の通った事を言うなこの毒舌光明猫は。


「チョットまってクダサイ。その『毒舌光明猫』と言うのは、もしかしてワタシの事デスカ?」


「もしかしなくてもそうですよ」


 先程のススの言動で、「毒舌光明猫」から「毒舌屁理屈暗黒光明猫」へとグレードアップする事を私は検討していた。

「暗黒」と「光明」が矛盾しているのが、若干むず痒いが、何とかならないだろうか?

 誰か考えて欲しい。


「『毒舌』はまだ分かりマスが、『光明』は一体何処から?」


「ススは『光の種族』と聞きましたので、元々は『毒舌暗黒猫』だったのですが、『毒舌光明猫』へとグレードアップさせたのです」


「……グレードアップしてマスかね?それ……」


「今私が新しく検討しているのが、『毒舌屁理屈暗黒光明猫』です。さらにウルトラグレードアップしてますよね?」


「ある意味でウルトラグレードアップしてマスね、もちろん悪い意味で」


 ススは私の素晴らしい蔑称……いや、愛称に不満らしい。

 やはり、「暗黒」と「光明」が矛盾しているのが、不満だろうか?

 それなら私もわかる。

 むず痒い。


「違いマスよ!というか、蔑称って一瞬言いかけているじゃないデスカ!」


 コホン……とススが咳払いをする。


「とにかく、あなたはなぜワタシが『光の種族』である事を知っているのデスカ?」


「ロホアナ様から聞きました」


「やっぱりデスカ……ロホアナ様は口が緩すぎます」


「なぜ私がススが光の種族である事を知るのが駄目何ですか?」


「そんなの決まっているでショウ」


「私が暗殺傭兵種族ファーゼだからですか?」


「わかっているじゃないデスカ。敵にワタシの能力や素性をあまり知られたくないのデス」


 敵扱いかよ。

 けれども、ススは結構私の前で能力を使っているような……

 先程もそうだが、「光の刃」や「光の槍」を使って攻撃していた。

 大方、光関係の能力である事は想像出来る。


「アナタの前では、ワタシ本来の能力は使用していませんよ。ワタシは確かに『光の種族』ですが、あれぐらいなら光の種族以外の人間でも習得出来マス」


 そうだったのか。

 なら私も覚えてみたいな。

 私は傭兵時代に教わった暗殺術しか持ち合わせていないから。


「アナタには絶対に教えませんけどネ」


 へいへい、分かっていますよ。

 そんな事いちいち言わなくていいのに。


「アナタは一度ロホアナ様を殺そうとしまシタ。しかもあの悪名高き、暗殺傭兵種族ファーゼの傭兵トナ。最低最悪デス。ロホアナ様は甘すぎるのデス。だからワタシがロホアナ様を守らなくてはいけまセン。暗殺傭兵種族ファーゼの魔の手から。敵は目の前にいるノニ……」


 これがススの本心だろう。

 私を殺したくて堪らないが、ロホアナが私を信頼し、仲間に入れている為、殺す事が出来ない。

 だから、私が何かを起こす前に、ロホアナを守ろうとしている。

 当然の対応である。

 だけれど、私は……

 信じて欲しかった。

 ススにも……


「……本意ではありまセンガ、ロホアナ様の命デス。アナタのキズを治療シマス。コッチにきてクダサイ」


「……わかりました」


 私は、ススに指示を受けて、指定された場所で横になる。


「酷いキズデスネ……見ているだけで、吐きそうデス」


 確かに酷いキズとは思うけど、吐きそうまでいくかな?


「でも『魔獣の森』でみた時よりはかなりマシになっていマスネ。この再生力は流石、暗殺傭兵種族ファーゼと言うベキカ……」


 これは褒められているのだろうか?


「ワタシは治癒魔法は使えませんが、ロホアナ様に基本的な治癒術については学びまシタ。酷いキズですが、何とか直せるでショウ。また、暗殺傭兵種族ファーゼの『肉体強化』とやらで、すぐに再生するとは思いマスガ。気色悪い」


 ススはいつもは独特の訛りで話すのに、悪口になると饒舌になるのは、私の気のせいだろうか?


「フクを全部脱いで下さい」


「はいはい……」


 私は言われた通り、着ていた服を脱ぐ。


「ホウ……」


 ススが私の裸をまじまじと見つめてくる。

 ちょっと恥ずかしい。


「あの?ススさん。どうかしました?」


 すると、突然ススが私の肌に触ってくる。


「ひゃっ!?え、ススさん?何してるんですか?」


「いえいえ……暗殺傭兵種族ファーゼの割には、肌がスベスベひんやりしていて、良いな……ト。乳房は大きくは無いですガ、改めて見ると……見直しましたよ、ファーゼさん」


「私はニミです」


 何かと暗殺傭兵種族ファーゼを引き合いに出すのは、心が苦しいので、やめてほしい。


「では、少し痛いかもしれまセンガ、ナグナ王国の名研究者とロホアナ様が共同開発したこの『治療薬』をお試しアレ」


 ススが私の傷痕に「治療薬」を塗ってくれる。


「いだだだだだ!!!」


 魔獣の噛みつきと大差ない、いやそれ以上の激痛が私を襲う。


「静かにして下サイ、ファーゼさん」


「私はニミです!痛い!これ痛い!!」


 魔獣の噛みつきの痛みを治す為に、同等の痛みを受ける事になるとは……


 日は既に暮れ、太陽はおち、明るい月の光が、「三人の家」を照らしていた。


 そんな静かな夜に、私の悲鳴が響き渡っていた……

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