第一章 迷いの森

第2話 魔族の森の出会い

第1話 魔獣の森の出会い

 私はこの「迷いの森」と呼ばれる森を走り回りながら、「獲物」がいないか探していた。

 何かがおかしい。

 私は獲物を探しながらこんな事を考えていた。

 迷いの森は主に二つに分ける事ができる。二つに分ける境目になるのが、私達が暮らしている家、「三人の家」であった。

 三人の家は、迷いの森のほぼ中心に位置しているので、迷いの森を二つに分けるのには適していた。


 まず、二つに分けた内の一つを私達は「平和の森」と呼んでいる。

 平和の森は、三人の家から見て「ナグナ王国」側の方を指しており、名前の通り平和だから平和の森であった。

 凶悪な魔物がいる訳でも無い、自然豊かな平和な森。

 平和の森は、私達が三人の家での生活で必要な物質を調達する為に、ナグナ王国へ向かう際に利用していた。


 対して、もう一つの迷いの森を私達は、「魔獣の森」と呼んでいた。

 こちらも先程の平和の森と同様理由は至ってシンプル。

 凶暴な魔獣が多く存在し、危険な森である為、魔獣の森である。

 魔獣の森は、三人の家からみて、「小さな村」側の事を指す。

 ちなみに「小さな村」とは、魔獣の森を抜け、迷いの森から出た場所にある文字通りの小さな村の事である。

 私達はまだ行った事が無いが、ナグナ王国で入手した情報に拠れば、小さな村の人々もナグナ王国と同様に、この迷いの森の事を凶暴な魔獣が沢山いると恐れていると聞いたので、小さな村の住民が魔獣の森を使い、三人の家までくる事は、恐らく無いとロホアナが言っていた。

 多分大丈夫だろう、そう信じたいけど……


 そもそもなぜ迷いの森が平和の森と魔獣の森へ別れるに至ったかと訊かれれば、私達に原因がある。


 ロホアナとススと私は追ってから逃れる為に、安全な場所を探していた。

 そして見つけた場所がこの三人の家である。

 元々迷いの森には沢山の魔獣がいたのだが、半分はロホアナとススと私が駆除してしまった。

 私達は、ナグナ王国を経て、迷いの森へと入った。

 つまり、ナグナ王国側の迷いの森、平和の森を抜けて、三人の家を発見したのである。

 当然魔獣達に襲われたのだが、私達三人は魔獣程度なら簡単に駆除出来た。

 私達は強かったからである。


 魔獣達は段々と私達を恐れるようになり、平和の森の魔獣達は、三人の家の方へ後退していった。

 そこで私達が三人の家に住み着いたもんだから、魔獣達は、私達にビビってしまい、平和の森から三人の家の反対側の森、即ち魔獣の森に住み着くようになった。

 元々は彼らが住んでいたのだけれども。

 ススは三人の家に「結界」をはり、魔獣達が三人の家だけで無く、平和の森へ抜けれないようにしたのである。


 以上が、迷いの森が平和の森と魔獣の森に分かれた理由である。


 話を戻す。

 私は、今魔獣の森にいた。

 理由は、簡単、魔獣を狩る為である。

 魔獣の森にいる魔獣は、別に珍しい種でも無いのだが、ナグナ王国で売り捌けば、それ相当のお金になった。

 つまり、結構な金額を簡単に稼げるのだ。

 本来ならハンターが迷いの森に来てもおかしくは無いのだが、何故か誰も迷いの森には来ない。

 理由は私にも分からない。


 私達が三人の家で生きていく為には、当然食料がいる。

 魔獣を食べる訳にもいかないので、経済的にヤバい時には、魔獣の森に入って、魔獣を狩り、ナグナ王国で売り捌き、お金を稼いでいた。


 私達がお金を手に入れる方法はこれ以外にも、ロホアナの研究で作り出したモノをナグナ王国で売ったり(生活費はこれが殆どですが)とかでも手に入れている。


 ナグナ王国ならばロホアナやスス、私の事も知られていない、あまり大きな活動せず、騒ぎを起こさなければ大丈夫だろう、ロホアナはそう言っていた。

 実際、今の所はナグナ王国からは兵も来ていないし、大丈夫とは思うけれど……


 再び話を戻すと、私はお金を稼ぐ為に、魔獣の森にいるのだが、大きな違和感を感じていた。

 それはーーー


「魔獣がいない……」


 いつもなら三人の家の結界を抜け、魔獣の森へ入った瞬間に魔獣が襲って来るのだが、(魔獣はそこまで知能が高く無いので、私達が迷いの森に来た時の記憶は忘れたみたい、そねおかげで稼げるので助かっている)今日は誰も襲って来なかった。

 今も、恐らく魔獣の森のかなり奥まで来ているとは思うのだが、一度も魔獣に襲われていない。

 こんなのは初めてである。

 魔獣の森に何か起こったのだろうか?

 私は少し走るスピードを早め、魔獣がいないかどうか探す。

 右を見ても左をみても、鬱蒼と生茂る木々が存在するのみで、魔獣の姿など何処にも見当たらなかった。


「きゃあああああ!!」


 ーーー!?

 突然甲高い悲鳴が聞こえた。


 私は急いで、悲鳴のした方向へ向かう。

 今の悲鳴は明らかに人の声であった。

 なぜ魔獣の森に人が?

 そんな事を考えながら、走っていると幾度と無く聞いた魔獣の鳴き声がきこえた。


 私は前方をしっかりと見る。

 ーーー魔獣だ!


 私が見た先には複数の魔獣に囲まれ、倒れている人間の姿があった。

 どうやら男のようだ。

 なぜ、彼がここに居るのかは分からないが、見た限り、魔獣に噛まれたのか、痛そうに腕を押さえていた。

 足下には、襲われた際かな、彼が落としたのか、剣が落ちていた。

 いずれにせよ、かなり危険な状況である事は間違い無かった。


 三人の森での生活を守る為には、ここで助けない方が良かったのかもしれない。

 少なくとも、以前の私、正確に言えば、ロホアナ達と出会う前の私ならば絶対にこんな事をしなかっただろう。

 だけど、今は違った。


 ーーー助けなくては!

 それだけが頭の中に残った。


「魔獣!!私が相手です!」


 私は持っていたナイフを取り出すと、私が最初に目に入った魔獣の体に突き刺す。


 ギュオオオオオ!!

 魔獣が大きな悲鳴を上げる。

 他の魔獣達も私を発見すると、標的を倒れていた人間から私へと変更する。

 私は魔獣達から距離を取り、ナイフを構える。

 魔獣の動きは単純だ。

 標的に向かって突進し、喰い殺すだけ。


 案の定、複数の魔獣が私の方へ向かって来る。

 私は魔獣の突進を避け、素早く魔獣達の体をナイフで貫き指していく。

 何度も、何度も、何度も。

 しばらくすると、魔獣は徐々に弱っていき、動かなくなる。

 他の魔獣も同様だ。

 避けさえすれば直ぐに攻撃出来る。

 魔獣程度、ナイフ一本で十分である。

 気づけば、魔獣は残り一匹となっていた。


 正直、油断していた。

 だがそれが仇となった。

 最後の一匹は他の魔獣のように、こちらへ突進して来ずに、じっとこちらの様子を伺っている。


「どうやら上位種のようですね……流石にここまで奥にくれば現れますか……」


 魔獣の上位種は、普通の魔獣に比べて、能力が高い魔獣の事である。

 普通、魔獣は群れを組んで行動し、そのリーダーとなるのが、上位種の魔獣である。

 私自身も何度か出会った事はあるのだが、多少能力に違いは見られるものの、行動は普通の魔獣と大差無かったと記憶している。

先程倒れていた男は、この「上位種の魔獣達にやられたのだろう。

 しかし、私は魔獣の森のかなり奥まで来てしまっている。

 多少は警戒すべきとは考えたものの、やはり油断してしまった。

 上位種の魔獣がこちらに突進してくる。


「やはり、大差無いですね、行動が甘いです!」


 私はいつものように魔獣の攻撃を避けようとするのだが、突如魔獣が方向を急転換する。


「え?」


 気づけば、魔獣は私の目の前にいた。

 大きく口を開け、私を死へと飲み込もうとする。

 対応が遅れたとはいえ、この魔獣はこれまでの魔獣と比べて、動きが抜群に早かった。

 気づいた時には時既に遅し。

 私は身を守る為に、両腕を顔の前で交差させ、魔獣の攻撃を防ごうとする。


 次の瞬間、私の体に激痛が走った。


「ぐっ…うう…くそっ……こいつっ!」


 魔獣は私の両腕に噛みつき、腕ごと引きちぎろうとする。

 考えもつかない、油断すれば、意識が飛びそうな程の痛みを私は耐える。

 魔獣の凶悪な眼光が目の前にあり、私は思いっきり睨みつける。

 私は私の腕に噛みつく事に夢中で、腕にぶら下がっている魔獣の体を右足で蹴り落とす。


 グォォォォォ!!

 魔獣が悲鳴を上げて、ぶっ飛ぶ。


「はぁ…はぁ…くっそ!」


 私の両腕を見ると、大量の血がとばどばと溢れていた。


「はぁ…はぁ…ナイフは……」


 私はナイフを探す為に、周りを見渡すが、見当たらない。

 あのナイフは傭兵時代から愛用していたナイフで、ロホアナを暗殺する為に使用したナイフでもある。


「…あった!」


 ナイフは、少し離れた場所に生えている木の下に落ちていた。

 先程の衝撃であんな所まで飛んで行ったのだろう。

 しかし、両腕を負傷した今、ナイフが使用できるか……それ以前に魔獣が再び立ち上がる前に、あそこまでたどり着く事が出来るだろうか?

 やる…しかない!

 私はふらふらとナイフの元へ向かおうとするのだが。


 ギュオオオオオ!!


「はぁはぁ……もうお目覚めのようで……」


 再び魔獣が私の方へ向かってくる。


「…はぁ…はぁ」


 限界だ。

 私はその場に倒れこんでしまう。


 ナイフも持っていない、両腕も使えない、もはや闘う術も、対抗手段も無い。

 万事休すである。

 魔獣にバラバラに引きちぎられて食われるのか……

 痛いんだろうなぁ。

 ハハ…

 人一人守れずに、死んでいく無様でムダな人生。

 死にたくなる、あっもう死ぬのか。

 そういえば、さっきの人は逃げてくれたかな。


 そんな事を考えながら、私が死を待っていると。


「ウォォォォォ!!!」


 男が剣を振り上げながら、魔獣の体を突き刺す。


 ギュオオオオオ!!!


 魔獣が悲鳴を上げて倒れる。

 そのまま動かなくなった。


「はぁ…はぁ…大丈夫かい?」


 男が私に手を伸ばしてくれる。


「あ、ありがとうございます……」


 私は男の手を握り、ゆっくりと、しかししっかりとした足取りで立ち上がった。

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