ただいま、私の唯一の居場所

みずみゆう

序章

第1話 プロローグ

ナグナ王国の王都より離れた森の中に、一軒の小さな木造の家があった。

 森を切り開いて作られたであろうこの地に、ポツンと佇む木の家。

 木の家の屋根にある小さな煙突からは、中で火を使用しているのか、もくもくと煙が出ていた。

 周りが木々に囲まれており、太陽からの光に照らされる家はとても明るかった。


 木の家の前には、洗濯物を干す為であろう、竿と洗濯物を洗う為の桶が置いてあり、生活環境は整っていそうであった。


 木の家から一人の少女が出てくる。

 軽い足取りでぴょんぴょん歩きながら、大きく腕を伸ばすと、「今日はとても良い天気デース」と呟く。

 この少女を見て、第一に印象に残るのは、頭からピョコんと可愛らしく生えているケモ耳だった。


「ウーン、太陽もお元気のようで、素晴らしい天気ですヨ」


 目をパチクリさせながら、ケモ耳の少女は森の中へと入っていった。



 そして、ケモ耳の少女が木の家を出て行って、しばらくすると、今度は別の少女が外から出てくる。

「全く……ロホアナ様人使いが荒いんだから……」

 少女はこう呟くと、腰に手を開けて、太陽の光が差す方を見上げる。


「暑苦しい天気ですねぇ……異常気象ですよ全く……」

 先程の少女とは正反対の事を呟く。

 少女を見ての第一印象は、腰につけたナイフであろうか。

 先程の少女は、武器等は持っていなかったように見えたのだが、この少女はナイフを携帯していた。

 服装も先程の少女と比べると、露出度が高く、動きやすそうな服装であった。

 


「さて、行きますか!」


 ナイフ少女は先程の兎耳少女とは別の方向へと入って行った。


 ナイフ少女が去ってからしばらくすると、再び一人の少女ーーーいや、女性が木の家から出てきた。


「うーん、今日は暑い……やっぱり家に引きこもっていないで、定期的に外に出ないと駄目だねぇ」


 女性は黒色のワンピースを着ており、この天候では見ているだけで暑そうであった。


「最近は二人に任せっぱなしだったからねぇ、こうして外に出ないと体が鈍っちゃう」


 女性体を左右に動かしたり、伸びをしたりして、体を慣らす。


「さて……戻ろう」


 女性はそう言うと、木の家の中に戻ってしまった。


 女性が木の家の中に入って、数刻が過ぎると、兎耳の少女がぴょんぴょんと帰ってきた。


「ロホアナ様、只今戻しましたヨ」


「おお、スス、やっと帰ってきたか、買い物カゴを忘れて行ったから心配していたんだ」


「王都のマーケットのおばちゃんがススちゃんまたカゴを忘れちゃったのね、しょうがないわねぇって言ってくれましたヨ」


「そうかそうか、良かった。これでまたカゴが増える。そうだ、スス、二ミを見なかったか?獲物を探しに行くっていったっきり帰ってこないんだが」


「見てませんヨ。何処で油でも売っているんじゃないですかネ」

「油を売るって……我が家には油を売る経済的余裕なんて無いはずなんだが……あとで叱らないと」


「ロホアナ様、つまらないボケは辞めてクダサイ」


「……そんなつまらなかったか?」


「めちゃくちゃつまらないですヨ」


「どれくらい?」


「吐き気がする程ですヨ、こんなくだらない話題に時間を使いたくないので、辞めてクダサイ」


「スス……お前は本当に思った事をペラペラと饒舌に話すなぁ」


「それがワタシの取り柄デスから……」


「と、それよりニミの話だ!話が全然進まないじゃないか!」


「それ私がさっき言った言葉デスヨ」


「とにかく、ニミが心配だ!スス、悪いが森をちょっと見てきてくれないか?」


「ええ……ワタシがススの為にわざわざ森の中に入って、走り回ってヤツを見つけろと?ふざけないでください」


「……そこまでいうか。え、お前そんなにニミと仲が悪かったの?」


「やつは人殺しの暗殺者、唯の殺人傭兵です。ワタシの事もいつか殺すに決まっていマス。ワタシの次にきっと、ロホアナ様も殺しマスよきっと。帰ってこないなら放っておきましょう。死んだならそれで万々歳デス」


「スス……前にも言ったがニミは確かにお前の言う通り、昔はそうだったかもしれん、だが今は違うだろ?ニミだって、改心して変わったんだ。理解してくれ、スス、頼む」


「変わった……デスか。それはちょっと語弊がありますヨ、ロホアナ様。正確に言えば”変えた”じゃないですか」


「そうだな……実際の所、彼女が私の事はどう思ってるかは分からない、それは認めるよ。だけど私はニミの事を本当に大切に思っている。もちろんススもだ。何かがあっては遅いんだ、頼む」


「ならロホアナ様、あなたが言ってクダサイ」


「え……いや、私は最近引きこもり気味で、あんまり外に出たくないというか……その……」


「要するに運動不足で森を探索する事すら出来ないと…デスか?」


「はい……」


「なら尚更デスよ、仕方ないデスね。私も一緒に行きます、運動しましょう、ロホアナ様」


「あれ……なんで私が説得される感じになってるの?」


「行きましょう!ロホアナ様!」


 そう言うと、兎耳の少女は女性を連れて、森の中へと再び入って行った。



 この森は「迷いの森」と呼ばれており、森の中は凶暴な魔獣が多くいる為、王国の人々や、近くの村の人々は立ち入る事さえしていなかった。

 だが、それはロホアナ達からすればありがたい事であった。

 ロホアナ、スス、ニミの3人は共に何らかの理由で追われる立場にあった。


 簡単に説明すると、ロホアナは研究者である。

 マーイヤナ王国と呼ばれる、迷いの森からは遠く離れた、その王国で研究者の一人として働いていたのだが、ある日、ロホアナはマーイヤナ王国を裏切り、研究資料を盗んで、マーイヤナ王国から抜け出し、逃亡した。

 当然、マーイヤナ王国から国賊として追われる身となったロホアナは、逃亡生活の後に、スス、ニミと出会い、この迷いの森の中で暮らす事になる。


 ススは魔族である。

 魔族といっつも、彼らは他種に分かれており、人間とは異なる力、種によって様々な能力を使用する事が出来た。

 ススの魔族は小さな村で暮らしていたのだが、ススは村の中で禁止されている”ある事”をしてしまった為、村に帰ることが出来なくなってしまった。

 行くあてもない生活の中で、彼女はあるひ、ロホアナと出会った。


 ニミは傭兵集団、暗殺を専門とするとある傭兵種族ファーゼに属する少女である。

 彼マーイヤナ王国の依頼を受けたファーゼは、ロホアナの位置を特定し、彼女を暗殺する為、ニミをロホアナの元へ送り込んだ。

 ロホアナはこの時既にススと一緒に生活しており、マーイヤナ王国はススの存在を認知していなかった為、ニミはロホアナの暗殺を試みるも、想定外の障害ーーーススによって、阻まれ、失敗してしまう。

 その後、ニミは囚われる。

 ススはニミを始末する事を提案するのだが、ロホアナはニミを一緒に連れて行く事を決める。

 ニミがロホアナの暗殺に失敗し、且つ、ロホアナと一緒に行動している事をしった、ファーゼは彼女を裏切り者として、始末しようと企てる。

 その為、ニミも追われる立場となってしまう。



 そんな3人が、逃亡生活の先に見つけ出したのは、この迷いの森であった。

 付近にはナグナ王国と呼ばれる王国や、小さな村があるが、彼らはこの森を恐れて近づかない為、3人にとっては最高の場所であった。


 そんな追われる立場にある3人は迷いの森に偶然あった木を切り開いたこの土地にあった「三人の家」と呼ばれる木造の家で住むことになる。


 しかし、ナグナ王国は実はマーイヤナ王国の同盟国で、密かにある作戦が始まり、傭兵が既にナグナ王国へ来ていたりして……


 3人のワケアリ少女(女性)の日常が幕を開ける!!


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