第22話魔王討伐

「では俺の本気とやらを、魔族会で最強の座を手に入れた技をお前はいくつ見れる事ができるか………せいぜい必至に一つでも多く技が見れる様に抵抗するんだな」

「調子に乗ってんじゃねぇぞっ!! 一人では俺に勝てないからって人数集めたら勝てるだなんて思ってんじゃねぇっ!!」

「言いたい事はそれだけで御座いますか?」

「グフゥッ!!?」


 もはや力では、強さでは勝てないと悟った俺は相手を煽りあの化け物を怒らせる事により正常な判断をさせない事と、化け物のメイド達すら間違いなく突破できない可能性が非常に高い為化け物自ら攻撃する為に俺へと近付けるさせようとするも化け物ではなくメイド、その中でも恐らくリーダーであろう者がいつのまにか俺の真後ろに現れ蹴り技を喰らってしまう。


 先程喰らった化け物の攻撃と比べれば確かに威力は落ちるものの、それはあの化け物と比べてである。

 人間の、それも女性が放っていい蹴り技の威力ではない。


「何惚けているのですか? 我がご主人様の罵った事の罪はメイド長の蹴り技一つで清算される様なものでは御座いませんよ?」

「なぁっ、うごあっ!?」


 そして先程の蹴り技の衝撃によりまだ身体がまともに動かないうちから今度は別のメイドにより、一目見ただけで普通ではないと分かる黒い棒の突き技により蹴り技により吹き飛ばされた方向とは逆サイドへ吹き飛ばされる。


「ウチのご主人様への暴言を清算するには死しかあらへんと思わへんか? なぁ、兄ちゃん」

「く、そっ………ぉっ!!」


 しかしあの化け物が使役しているメイドは全員で十二名である。

 であるならば当然たったの二回で攻撃が終わるはずもなく、今度は先程の者とは違う口調のメイドによるナイフ術が俺を襲って来るのを必至に避けて防ぎ、躱す。


「はい、捕まえたぁ………。当然覚悟はできてますよねぇ?」


 躱し、そして避ける。

 しかし必死で避けた先ではまるで俺がここへ避けて来る事を知っていたかの様に別のメイドが待ち伏せており、今度は糸を使って攻撃してくる。

 この糸一本一本が髪の毛よりも細く、そして目視する事すら難しい。


 そして、身体が相手の戦法に慣れる前に当然の様に別のメイドによる別の戦い方や武器の違うメイドへとシフトする。


 状況は誰が見ても圧倒的不利。

 覆せる方法すら思い付かない。

 しかしながら俺は思う。


 出来れば一人一人別々で、ちゃんと戦いたかったと。


 こんな状況ですら自分人身の欲望、『まだ見ぬ強い者、まだ見に戦術や流派、まだ見ぬ魔術やその属性や流派、それらの強者達と戦ってみたいという欲望を叶えたい、叶える絶好のチャンスであると思ってしまうあたりある意味でこれ程の武器や戦法、そして化け物の化け物じみているであろうその強さ。


 最後に見れて寧ろ幸せであるかもしれない。







 目を覚ませばそこは見知らぬ天井であった。


 まさか自分が昔から使われ続けた物語の一文を思うなど思いもよらなかったのだが、眠りから覚めてみれば見知らぬ天井が見えるのでそう思うしかない。

 というより状況を理解できずそのような事を思う他に今この状況を客観的に見る事などできるはずがない。

 

 そもそも一番の疑問が、俺は死んだのではないのか?であればここは死後の世界か何かなのか?


 そんな事が頭を過るもそもそも俺が死んだとしてこのような、清潔にされた見る物すべて、ベットに毛布、壁に天井、扉等それらすべてが白で統一されており穏やかな時間が流れているような場所に行けるはずがないと自信をもって言える。

 もし行くとすれば憎悪や恐怖といった感情が渦巻く赤や黒等が視界を覆う地獄であろう。

 それに俺個人の希望としては天国よりも地獄の方が楽しめそうである為選べるのであれば地獄を選ぶ。


「あら、目を覚ましたのですね」

「あ?………テメェーはあの化けもn」

「言葉に気を付ける事ね。せっかく我がご主人様の慈悲により生きながらえる事をお許し頂いた貴方ごときが我がご主人様の事を言うに事欠いて今なんと及びになろうとしたのですか?殺しますよ」

「す、すまねぇっ!!おれはもともと口が悪いもんで消して貴方様の主を馬鹿にしたわけじゃぁねけんだ!!決して!!」


 今だに多くの疑問を頭の中で浮かべ、それらを整理できるはずもなく、何をするでもなく呆けていると部屋の扉を三回ノックする音と共に見覚えのあるメイドが部屋へと入ってくる。

 その瞬間俺は理解した。

 結局は殺されずにのうのうと自分は生きながらえているのである。

 なんたる侮辱。

 なんたる屈辱。

 しかし今は、生きているという事実に心の底から安堵する。

 またまだ見ぬ強者と戦う事ができると。

 この世界は広いという事をあの一戦により嫌と言う程思い知らされたのだ。

 また戦う事ができるという事を頭が理解し始めると共に嬉しさが込み上げてくる。


 込み上げてくると共に俺はあんまりにも警戒心が無さ過ぎた。

 少し考えればわかる事である。

 俺は誰によって生かされたのか。

 そして目の前のメイドは俺を生かした張本人をどう思っているのか。


 あの一戦によりこのメイド達があの化けも………おっと、どうやらこのメイドは読心術も使えるのかな? 首筋にいつの間にか銀色に輝く小刀が押し付けられえているのだがきっと気のせいだろう。


 話は戻すとして、このメイド達があのお方に全幅の信頼と忠誠を誓っている事など簡単に読み取れることが出来た。

 にもかかわらず俺は口調を正さず発言しようとするなど、今この場においては自殺行為でしかない。


「で、俺があのお方に生かされている理由は何だ?」

「そうね、わたくしもご主人様の考えそのすべてを理解できるなどとは思っていないのですが………これはあくまで一メイドの考えでしか無いのですが、今確実に言えることは貴方が発した『魔王』という言葉ですかね?ご主人様以外に『魔王』と名乗るものがいるとすれば、それは万死に値するかと」

「なるほど………あの方のあの姿を見てしまったのならばうなずくしかねぇな。あの姿を見た後じゃぁ今の魔王なんか児戯にも等しいごっこ遊びとしか思えねぇからなぁ」


 もし今ここにディアがいたのならば「んなわけあるかっ!!」と即座にツッコミを入れるのだが、残念な事に今この場にはこの二人をツッコめる存在はいない。


「おそらく近いうちにご主人様の許しを得ず魔王と愚かにも名乗っている愚か者に正義の鉄槌を下しに行くのではないでしょうか?そのためには貴方には生きてもらった方が色々と好都合という事です。ですので意識を取り戻したのならば早くわたくしに魔王の情報を言いなさいな。………け、消してご主人様に褒められる為に誰よりも早く魔王の情報を手に入れたいとかいう事ではないのであしからず。もしも嫌だと言うのであれば………」

「まあ待て誰も教えない等言っておらん。むしろこれは同族と戦う事ができる絶好のチャンス。であれば俺がそれをみすみす手放すわけが無いだろうが」



 こうしてディアが居ない間に魔王討伐作戦は粛々と進められて行くのであった。








 二人の魔族による襲撃から早三日が経とうとしていた。

 既に街はいつもの調子を取り戻し出しいつも通りの活気が溢れ出していたが、それでも襲撃された場所には未だに瓦礫処理が終わっておらずギルドから出された依頼により冒険者が、国からは帝国兵が駆り出され日が昇り出した時から日が沈むまで瓦礫処理と修繕修復作業に汗を流している。

 その中でも特に酷いのは闘技場であろう。

 何を隠そうこの闘技場こそディアが持つ最大火力にして最も信頼を置いている技である【神の怒り】を落とした場所である。

 その結果闘技場は跡形も無く消え去り、大地は削られ三階建ての建物など簡単に入ってしまう程の深さを持つ巨大なクレーターが出来上がっていた。

 であるにも関わらずこのクレーターに対して未だに何も手をつけていない。

 こんなクレーターなど規模こそでかいものの要は穴が空いてるだけである為埋めれば終わりだろうと思うが事はそう簡単に行かないのが現実という名の糞ゲーである。


 というのもディアが作ったクレーターは、どうやら地下水脈を掘り当てていたらしく一晩たっただけで無駄にでかいクレーターはそこそこ大きな池へと変貌を遂げていたのである。

 今現在は水脈に穴が空いただけである為ある程度以上の水位に達するとそれ以上その水位を超える事などないのだが、クレーターを埋めた場合それは同時に水脈を堰き止めてしまうということでもあり水の通り道がせき止められてしい池は氾濫を起こし新たな川をも作りかねない。


 そんな、まさか自分のせいで色々は人々が頭を抱えたりフル回転させたりこれはこれで良いんじゃないかと思ってみたりしている人達がいる事などつゆ知らずシャルロッテの言葉に思わず「は?」と聞き返してしまう。


「ですから、皇帝陛下がわたくしとディアを及びになってますので城へ本日向かいます」


 やはりもう一度シャルロッテの話を聞いたが何度聞いても同じ事を説明されてる。

 どうやら俺は城へと行かなければならないらしい。


 実にめんどくさい。


 シャルロッテ様が向かわれるのは確定事項としてだ、俺も行く必要があるとは思えない。

 というか行く必要の有無関係なく最早めんどくさいの一言で全てが語れてしまう。

 そもそも俺は個々の国民でも無ければ人族でもない。

 俺自身が魔族とバレていない限り城に呼ばれる理由が思い付かな………。


 これ絶対俺が魔族コーデしてイキリ倒した戦闘シーンの目撃者がチクったやつじゃん。

 ダメだ。脂汗止まらない………。


「ち、因みに俺を呼ぶ理由は何と?」

「それはまだわたくしも分かりませんが、ディアが考えているような最悪の事態にはならないんじゃないかなーと思ってみたりしておりますわ」

「ふむ。すこし楽観的過ぎる気もするがそう思う理由を教えてくれても良いか?」


 最悪の事態を想定して動こうとするのは俺が日本人故であろうか。

 慎重になりすぎて行動が遅くなるのは人も国も同じである。

 しかしながらそれが必ずしもいい判断であるとは当然思っておらず、またここは日本ですらない為郷に入っては郷に従え精神でシャルロッテにシャルロッテ自身の考えを問うてみる。


「そうですね………俺ほど目立つ戦いをした後にディアが魔族でないとバレていないとは考えられない事が一つと、であるならばバレているにも関わらず三日も何も無いという事が城に行っても大丈夫だろうと思う理由ですね。もし大丈夫でない場合はとっくに捕縛隊やら撃滅隊やらで攻め込まれ今こうして穏やかなひと時を過ごす事なんてできないとおもいますもの」

「なるほど。俺もそれは考えてはいたのだが万が一と言うのはいつ何時も起こりえるものだからなぁ」


 俺もシャルロッテが考えた事は既に考えていたのだが万が一を考えていた方がより安全でりもしもその万が一の事が起きた時に迅速に行動へ移すことが出来るというのは大きいと俺は思うのだが、シャルロッテは「それに」と言うと少しだけ顔を赤らめて俺を真剣な表情で見つめてくる。


「それに、何だ?」

「そ、それに、もしもの事が起こった場合はわたくしを助けてくれるのでしょう?」

「………」

「………ち、違うのですか?」

「………ぷっ、あはははははっ!! いや、違わないさっ! ああ、もしもの時は助けてやるともっ!!」


 その言葉に時間が止まった。

 まさにシャルロッテことその一言に尽きると、今まで馬鹿みたいに悩んでいたことが阿保らしく思えてきて俺は声を上げて笑った。

 あの戦い以降俺に魔族セットをするかどうかなどという、今でこそ実に小さな迷い等捨てたに等しい俺からすれば万が一が起こったとしても出し惜しみせずしょっぱなから魔族セットでシャルロッテ様を助け出すことは決定事である。

 であるならば初めから悩む事など無かったのである。

 もし帝国の城に設置型魔方陣などの小細工をしていたとしてもそれを抹消面から叩き潰すのみであるし、逆にシャルロッテ様を助ける事に全力を出さないなどという事などそれこそ万が一でもありえない事である。


「信じてますわよ?」

「むしろどこであろうと俺のそばが世界のどこよりも安全であると教えてやりますよ。シャルロッテお嬢様」

「………ディアったら、もう」



『ねえ、そこのバカップル。話が纏まったのはいいのだけれどもぉ、少しおなかがすいてきたんだけどぉー』



 もはや城へ行くことに迷いなど無く、シャルロッテといつも通りの緩やかな時間が流れ始めたその時、シャルロッテ様の部屋に置いてある勉強机の上、そこにある瓶の中より妖艶な女性の声が聞こえてくる。


「あ、すみませんっ。もうこんな時間でしたねっ。食堂に行ってお昼ご飯を用意してきますねっ!!」

『よろしくぅー』


 その声にどこかぽーとしていた様に感じたシャルロッテは一瞬にして夢から覚めたような表情の後『ボンッ』と音が聞こえてきそうな程顔を真っ赤にして逃げるように食堂へと昼食を作りに部屋を飛び出していった。


「お前、なんだか無駄にこの状況を受け入れていないか?普通ならばこれから自分はどうなるのだろう?とか思うんじゃないのか?」

『あー殺されるのならあの時に既に殺されてるだろうし、今ここでじたばたしてもどうにもならない事ぐらいは理解できているからねぇー。だったらもういっかなって思たのよぉ。それより貴方、見れば見るほど本当にいい男ね。どう?お姉さんといい関係にならないかしらぁ』

「肝が据わっているというか潔いというか男らしいというか、逆に投げやりになっているというか。ある意味で幸せそうな思考で何よりだな。あとお前とはいい関係にはならないよ」

『あら、残念お姉さんなら貴方の子供を作っても良いのよ?』

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