第21話魔族の皇帝

 しかし上級プレイヤーと比べるとやはり見劣りしてしまう。

 しかしなかなかどうして、人族型であり装備も当然人族に合わせた装備であるため本来のスタイルである魔族型と比べてステータスは大幅に下がり慣れない戦闘方法と万全の状態とはとても言えないにしてもこれでも俺はこのゲームを、もといこの自身のアバターを使いこなしているという自負がある。

 それは勿論プレイ時間もそうであるしトッププレイヤーとのpvpにおける経験でもある。

 しかしである。

 戦闘においては目の前に立つヴルディと比べて圧倒的にこちらの方が濃い時間をプレイしている為比較的簡単に倒せるのでは?と思っていたし現にヴルディの戦い方からしても俺の予想通りトッププレイヤーと比べて強いとは思えなかった。

 しかし蓋を開けてみれば六ー四でヴルディがこの戦いの主導権を握り立ち回っている。


 それは即ちゲームと実践、言い換えれば命のやり取りの有無。

 この差がこの結果を産んでいるのであろう。

 しかし、この程度の差ならば魔族型になればこの戦力差など圧倒できるという自信がある。

 ならば魔族型で戦えば良いではないか、とも思わないでもないが事はゲームの様にそう簡単な事ではない。

 辺りを見渡せば腰を抜かして逃げ遅れた人、逃げる時に怪我をして動けない人、瓦礫に埋もれて、又は足を取られて身動きの取れなくなっている人、そういった人々が見える。

 そしてそれらはまるで最期の希望であるかの様に俺を見つめている。


 そんな場所で俺が魔族型になる。

 それは即ちシャルロッテにも迷惑がかかってしまうという事である。

 まだ迷惑をかけるだけなら良いのだが!最悪反逆者、スパイ、そういった者とされありもしない罪を被せられ死罪にされるかもしれないのである。

 だからと言ってここにいる人々の命を奪う事など俺にはできようが無い。


「フーッ、殴られるってやぱ痛いのな」

「ならこの俺様の剣に斬られればその悩みも無くなると思うぜ?」

「それは遠慮しよう。悩みがある事が生きるという事に他ならないからな。俺はまだ死にたくないしこんな俺でも待っている人達がいるんで死ねない」

「あっそ。まぁお前の意思なんか関係なく殺すんだがなっ!! しかしお前程強い獲物は久し振りに出会ったぜっ!! やっぱ強いやつと戦うのは楽しくて仕方ねぇなぁおいっ!!」

「そこで俺に同意を求められても困る。俺はお前みたいに脳味噌筋肉のバトルジャンキーではないのでな」

「ハハッ!! よく言うぜっ!! ここまで強くなるまでに一体何人殺して来たんだよ。あ?」

「おかしなことを言う。それではまるで誰かを殺す度に強くなると言っている様ではないか?」

「ハハハハハッ!! こりゃあ面白い冗談だなぁおいッ!! 殺し合いしなけりゃ経験を得る事など出来ねぇじゃねぇかッ!!」


 ヴルディの言葉に異を唱えるのだが、俺の言葉にヴルディは急に笑い出す。

 ヴルディが言っている事は最もであるし、命のやり取りという経験が今現在優位な状況を作り出しているのであろう。

 しかし、だからと言って絶対に相手を殺さなければ強くなれないという事に対しては俺は異を唱えたい。

 唱えたいのだが、今の俺では説得力にかけてしまう為反論しない代わりに無言にて対応する。

 それはまるで嘘を見抜かれ矛盾点を親に突かれた子供の様だと自分で自分を嘲笑う。


 そうして幾度拳を、脚を、剣を交えただろうか。

 お互いに決定的な一撃は入らず、ややヴルディ有利な展開が続いて状況に終止符が打たれる。


 それは現実で命のやり取りをしてきたヴルディだからこそ気付けた俺の最大の隙であった。

 現実とゲームでの違いから来る隙。

 俺はその隙をヴルディによる一撃を喰らうまで気づきもしなかった。


 呼吸。


 ゲームではどんなに激しくキャラクターを動かそうが呼吸が乱れる事はない。

 しかしここは現実である。

 連続的に早く鋭く移動又は攻撃する際は呼吸を止めるし、その行動が終われば深く呼吸をする。

 当然激しく動けば呼吸もその分乱れる。

 斬馬刀と言われても疑問すら持たない程の大剣を片腕で振り回して、空いた片腕で拳を繰り出していたヴルディだったのだが俺の愛刀による突き技のラッシュが終わり深く肺に酸素を入れるのを待っていたかの様に大剣を文字通り俺へと飛ばしてきたのである。

 突然の出来事ではあったが避けれないれない起動でもなかった為多少無理な体勢ではあったものの避けたその横に右拳を握り殴る動作に入っているヴルディの姿が視界に入った。

 ヴルディは初めから俺の選択肢が自然と減る呼吸時を狙いあえて〝避けれる様に〝大剣を投げ俺の行動をコントロールし、後は無理な体勢で大剣を避けた俺の横腹を拳で振り抜いたのである。


 余りの威力に闘技場の壁へと激突しただけでは終わらずそのまま数メートル奥まで貫いた後、壁が崩れて俺の上へと落ちてくる。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!


 これ絶対肋骨が何本か折れているやつじゃないか。

 呼吸するだけで痛い。

 動くだけで痛い。

 身体に力を入れるだけで痛い。

 痛みで身体をこわばらしても、その動作が痛い。


 呼吸をする度に口から「ヒューゥッ」という音が出る。


 そして俺がやっとこさ瓦礫から出ると、そこには大剣を拾い戻って来たヴルディの、その大剣を振りか ぶっている姿が見えた。


「じゃあな。まあ楽しかったぜ」


 死ぬなこりゃ。


「本気で闘いなさいッ!! これは命令ですッ!!」


 そう覚悟を決めた時、聞き慣れた声で俺に命令をするのが聞こえた。

 その声の主は傷だらけで満身創痍。

 見たこともない大きな白い翼はまるで天使の様で、こんな場であるにも関わらず思わず美しいとさえ思ってしまう。


「そうだな。もう楽しい時間はお終いだな。我が愛しのご主人様はこの戦いの終幕を望んでおいでであるからな」


 ヴルディがトドメをさそうと放った斬撃を片腕で受け止めて、驚愕の表情で顔を歪めているヴルディの腹を仕返しとばかり思いっきり殴り逆サイドの壁へとブチ飛ばす。

 折れていたはずの肋骨はいつのまにか痛みは消え失せ、寧ろ力が漲って仕方がない。


「はぁ、人の目がある場所でこの姿にだけはなりたくはなかったんだがな」


 頭には漆黒のねじれた二対の角。

 全てを見通し、そしてその眼から状態異常を撒き散らす黄金に光り輝く魔眼。

 まるでドラゴンであるかの如く雄々しさと羽ばたく度に暴風と雷を産む二対の漆黒の翼。

 そして、俺が半年かけて作った魔族型専用の漆黒の、魔族の王をイメージして作った衣服に漆黒の愛刀。


 その姿、まさに魔族の王そのものである。


 そして俺は最後に魔族限定大会で優勝し、手に入れる事が出来た優勝者プレゼントであるスキル、魔族の皇帝を一つだけ開けていた自身のスキルスロットへ装備する。


「な、なんだお前のそのふざけた姿は………」

「これが俺の本来の姿だ。本来ならば貴様になど見せるつもりも無かったのだがな、我がご主人様のご命令ならば仕方あるまい。この姿を見れた事を感謝して、そして死ね」





 何だ? あいつの姿は?

 あの角一つ取っても大貴族だと言われても疑わないであろう。

 それが角だけでなく魔眼、翼、魔術付与を施された衣服、魔剣、それら全てが規格外の物である事がみただけで理解させられる。


 我ら魔王様ですらあれ程の部位は角と翼のみである。

 これではまるで我らが魔王様が子供のようではないか。

 冗談ではない。そんな事到底受け入れられるものではない。

 であればコイツは一体全体何者なのか。

 あれ程の者が何故今まで一つの情報や噂すら無く、今までどこで何をしていたのか。

 しかし、それら疑問などどうでも良いと言わんばかりに、本能がうるさいくらいに逃げろと俺に訴えかけてくる。


 なんたる屈辱。


 これ程の屈辱はあの魔王様ですら味わった事すらなかった。

 それほどまでに恐怖が俺を支配している、その事を俺のプライドでもって何とか耐えることが出来ているに過ぎない。

 魔族ではなく化け物だと、そう言ってくれた方がまだマシである。


「来なさい、我が娘達よ」

「「「ここに」」」


 そして化け物は十二名もの人属を呼び寄せた。

 普段であれば、人属、それも女性が十二名集まって来た所で羽虫に等しく鬱陶しいと感じる事はあっても脅威としては何も感じないのだが、あの化け物が呼び寄せた人属その一人一人から明確な恐怖でもってその存在が俺を襲ってくる。


 その恐怖が、間違いなく目の前の人属の女性一人にすら勝てないであろう事を物語っている。


「すまんな。当初言ったようにお前たちにはこの戦闘に参加させるつもりなど無かったのだがな、我がご主人様の命令により俺は全力で戦わなくてはいけなくなった。それは即ち俺の剣であり盾であり目であり手であり足であり我が強さの一部であるお前たちもこの戦いで参加させないといけなくなった訳だ。故に今回この戦いは全力で戦え、としか言えない。しかし約束しよう。この俺が絶対、誰一人死なせやしないと」

「ご、ごじゅじんざまぁっ!! そのようにわだぐぢだぢのこどをおもっでくだざりぃっ!! ひっくっ………わたくしはっ!! わたくしだぢはぁーっ!! じあわぜものでずぅーっ!!」

「「「じあわぜものでずっ!!」」」

「あーはいはい、お前たちの気持ちは分かったから。絶対誰一人として死ぬんじゃないぞ?これは命令だ」

「「「はいっっ!!」」」

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