第19話よく喋る筋肉ダルマ
「それが何か?」
目の前で好戦的な笑みを浮かべている、黒いツノが二本鬼のように額に付いている男性の問いには答えずそのまま蹴りを入れ吹き飛ばす。
その隙にマルメティアと生徒会長を両脇に抱えてシャルロッテがいる安全圏へと一気に運ぶ。
「大丈夫ですかっ!?ディアにマルメティアっ!それに生徒会長様もっ!」
「だ、大丈夫ですわっ!」
「私は大丈夫です。しかし、あの魔獣の群れは大丈夫とは言い難いですね」
安全圏といえど一時的な場所である事には変わりなく先程蹴り飛ばした男性の姿を見た者は皆「魔族だ!」と叫び我先に逃げようと軽いパニック状態である。
そしてそれを増長するかのよう空間が縦に割れ魔獣が街中へ雪崩れ込む。
「何蹴飛ばされてるんですの?だらしないですこと」
「ったく、うっせーな。少し手加減し過ぎただけだ黙ってろ。しかし、不意を突いたとはいえこの俺を吹き飛ばせる奴が居るとはなっ!嬉しい誤算だぜっ!!」
「はいはい。ホントあんたの頭の中は強者と闘う事しか考えて無いんですから。その内足元を掬われても知りませんからね。じゃあ私は行くからしっかり仕事は果たしなさいよ?」
「ったくいちいちお前は俺のオカンか。分かったからさっさと行ってこい」
その縦に割れた空間から女性型の魔族がもう一人現れると先程俺が蹴飛ばした魔族と会話をしだすと女性の方はそのまま姿を消し、男性の方はオモチャを見つけた男の子のような笑顔でこちらに歩きながら向かって来るのが見える。
「シャルロッテ様、今日この時ばかりは文字魔法を使って構いませんからマルメティア様、生徒会長様と一緒にお逃げ下さい」
「ディアはどうするんですの?」
「あの魔族を倒すか最悪援軍が来るまで抑えておく」
「大丈夫なんですか?あの魔族は恐らく七魔族の一人であるヴルディ・ウールの可能性が高い、いや間違いないでしょう。悪い事は言いません。一介の従者一人で勝てる相手ではありません。私達と一緒に逃げましょう」
「そうですね、私は生徒会長様が思ったいるよりも強いですよ?ですからここは私に任せて下さい」
「………分かりました。貴方を信じます。直ぐに増援を呼びますのでそれまでは絶対死なないで下さいよ?それと私は生徒会長ではなくアゼリア・フォーゲルです」
俺があの魔族を抑えている間に逃げる様にシャルロッテ達に言うと生徒会長であるアゼリアがあの魔族の正体を知っているらしく一緒に逃げようと提案してくるが俺はそれを断る。
そしてシャルロッテ達は俺を心配そうに見つめるものの、援軍を呼びに行くべく一気に駆け出しこの場から去っていく。
そのことを確認した後、生徒会長曰くヴルディ・ウールが玩具を見つけた子供のような表情で俺の元へ歩いて来ている事を確認する。
しかしその次の瞬間にはヴルディ・ウールは俺の目の前に現れていた。
ヴルディ・ウールは五十メートルは離れている場所からたったの一蹴りでここまで一気に跳躍して見せたのである。
それと同時にヴルディ・ウールはとどこから出したのか両の手で握りしめた大剣を振り上げていた。
「っ!?」
「人間の癖に良く反応したじゃねえかっ!こいつは楽しめそうだぜっ!!」
型や技術などといったものは何も感じられない、ただただ己の肉体により力任せに振り下ろされた大剣を俺は寸前のところでかわすと一気に距離を取る。
この一連の流れにヴルディ・ウールはより一層気を良くしたのかその口角は更に上へと上がっていく。
ヴルディ・ウールは大剣を時に両手時に片手で斬撃を繰り出し、時に空いた手で殴り、蹴りと力任せに攻撃してくる。
その攻撃は力任せであるというのに一撃一撃が鋭く重い。
「どうしたどうしたっ!?避けてばかりいないでもっと反撃もして来いよっ!その方が俺が楽しめるからよっ!!」
そんな嵐のような攻撃のラッシュをヴルディ・ウールは繰り出しながら俺をさらに挑発してくる。
それにより生じたほんの僅か、しかし一瞬の隙を突いて俺は炎魔術【豪炎弾】をヴルディ・ウールの顔面目掛けて打ち込む。
俺の魔術は確かにヴルディ・ウールにヒットした感触があり、その時の爆風と衝撃で辺りは砂ぼこりと煙に包まれる。
「なんだ、やれば出来るじゃねぇかよ人間」
この視界が悪くなっている状況を利用し一旦距離を離れ立て直そうとしたその時、立ち込める煙の中からヴルディ・ウールが一気に抜け出し俺へと蹴り技を撃ち、俺は突然の事で対処できず闘技場の端まで吹き飛ばされる。
隙を突いたつもりが逆に隙を突かれ一撃を食らうなど、笑い話にもならない。
それほどまでに戦い慣れしておらず、攻撃が当たったことにより想像以上に喜んでいた自分に気付く。
「さっきのお返しだよ。しかし俺の蹴りを食らってまだ立てるだけの力があるとは大したもんだ。しかし楽しい時間はすぐに終わるもんだな。その腕じゃもう試合にすらならねぇ………ぐふぅっ!?」
「誰が試合にすらならないだって?」
ヴルディ・ウールの一撃をガードするために使った俺の左腕は見事に曲がっており、その事を指摘されるのだがそんな事などお構いなしに一気に距離を詰めるとその腹へ折れたはずの左腕で殴り、そして吹き飛ばし返す。
PvP戦において状態異常の放置は致命的である。
状態異常を放置し続けるという事はその間中相手は常にアドバンテージを得ているという事になる為他人に指摘されたから治しますでは上位ランキングどころか中堅プレイヤーでも勝てないであろう。
「これでも喰らっておけ【コキュートスの監獄】」
そして俺はヴルディ・ウールへ追撃の魔術、【コキュートスの監獄】を放つ。
この魔術は相手プレイヤーを氷の檻に閉じ込め、その檻に閉じ込められている間継続的に相手にダメージを与えるというものである。
「ふむ、この檻に閉じ込められている間はダメージを喰らうようだな。小癪な真似しやがってからに」
そう言いながらヴルディ・ウールは氷の檻に攻撃を加え一か所亀裂が入る。
この【コキュートスの監獄】は耐久値が高く体制を立て直す為のその場しのぎとしても重宝されており対策をしていない場合はそう簡単に破壊されるような物ではない為、たったの一撃で亀裂が入る事にヴルディ・ウールの攻撃力の高さに改めて驚かされると共にあの威力の攻撃であるならば俺の腕が折れたのも納得である。
そんな事を考えている内にヴルディ・ウールは【コキュートスの監獄】を破壊し、のそりと崩れた檻から出てくるのが見えた。
「まさか魔術で俺の一撃を耐えきるだけの耐久を持つ物を生み出すなんてやるじゃねぇか。まあ、この俺を捕まえるにはちと耐久が足らなかったようだがな。しかしこれで再確認したぜ。やはり戦いは己の身体を武器にして戦う方が隙が無く強えーって事にな」
「良くしゃべる筋肉だるまだ」
体格とその言動からヴルディ・ウールは脳筋であろうと思ってはいたのだが、どうやら思ってた以上に脳筋であることが分かった。
そのヴルディ・ウールがにやりと口角を上げる。
「さあ第二ラウンドと行こうぜっ!久しぶりに骨があるやつと戦えるんだ。頼むから簡単に壊れるんじゃぁねえぞっ!」
「そしてバトルジャンキーかよ」
そしてヴルディ・ウールとの第二幕が始まるのであった。
◆
「シャルロッテはこれからどうするんですの?」
生徒会長様とわたくし、そしてマルメティアと一緒に避難誘導をし、それも落ち着いてきたころマルメティアがこれからの事を聞いてくる。
「そうですね、わたくしはこの突如現れた魔獣達の駆除とその元凶見つけこの魔獣が湧く状況を終わらせようと思います」
「ではわたくしもシャルロッテの手助けを致します………わ……」
わたくしの考えを聞き案の定というかマルメティアも一緒にわたくしと行動をすると言い出したのでディアに教えて頂いた文字魔術で【眠】と書くとそれをマルメティアへ放ち強制的に眠らせる。
「シャルロッテ様、先程の魔術は一体………」
私が使った見たこともないであろう未知の魔術に生徒会長様が驚きを隠せない表情で聞いてくる。
「これは文字魔術というものです。今はそれ以上の事はお伝えする事は出来ません事をお許しください」
その問いに倒して全ては答えれない事を謝罪する。
この魔術はディアに教えてもらった私の大切な魔術であるのは当然の事なのだが、またこの魔術はディア又はその一族や関係者によって隠し続けられて来た魔術である事が伺える。
そんな魔術をディアの了解を得ずに他人の教えるほどわたくしは恥ずかしい存在に成り下りたくはない。
「分かりました。今は聞かないでおきましょう」
「ありがとうございます。それと、申し訳ございませんがマルメティアさんを安全な場所までお願いできますか?」
「本当は貴方も連れて行きたいのですけれども………その表情を見るに何か策がある様ですね。ただ、これだけはお願いします。ヤバそうになったら直ぐに逃げて下さい」
「分かりました。ではよろしくお願い致します」
そう言うと生徒会長様は召喚術で人の背丈よりも大きな銀狼を召喚するとマルメティアを咥えさせて安全な場所へと向かっていく。
「さてと………」
そして私はそれを見届けると文字魔術で【翼】と書き自分自身に魔術をかける。
すると私の背中には白く大きな翼が生え、そして次の瞬間には力強く飛び立つと街全体を見渡せる高さで一旦止まり、自身へ【探索】を文字魔術をかけこの魔獣発生の原因を探す。
「見つけたっ!!」
するとこの街に一箇所だけこの街でない別の場所に通じる穴が開いている場所を見つけ、そこを注意してみると魔獣が穴の向こう側から続々と出て来ている光景が目に入る。
そして私は魔銃を取り出すと【閉】と文字魔術を施した魔弾を詰めて射ち放ちその穴を強制的に閉じると残った魔獣を倒す為閉じた穴のあった場所へ一気に飛び立ち、魔獣達を見下ろせる場所から魔銃を構える。
「成る程、私が数年かけて用意した転移門を無理矢理閉じたのは貴女なのねぇ」
「だ、誰ですか………っ、なっ!?」
標準を合わせ魔銃のトリガーを引こうとした瞬間誰かがわたくしへ話しかけてくる
そして声のした方へ振り向くと、そこには炎の球が私の顔面へ迫る景色が広がっていた。
「あら、避けちゃったのねぇ。可愛そうに。あれで苦しまずに死ねたのにねぇ」
「あなた、魔族ですね」
「ええ、そうよ。それがどうしたって言うのかしらぁ?」
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