第18話わたくしは思うのですっ

 しかしながら、それはそれで心があったかくなって行く。


 ほんの数ヶ月前の自分ではマルメティアとここまで仲良くなっていると言われても絶対に信じないであろう。


 これもそれも全てディアのおかげである事は間違いない。


 しかしながらこの事をあの魔族の王様に言っても自分は何もしていないと言うであろう事が目に浮かぶ。


 そんなディアに私は大会で優勝をプレゼントしてみせると心に誓う。





 あれから私は何とか大会を勝ち続け現在準決勝である。


 そしてマルメティアも勝ち進んでいる為にここでお互いが勝つ事が出来れば決勝戦で当たる事になる。

 それはとても素敵な事だとわたくしは思う。


 しかし、その未来を築く為には目の前の生徒会長を倒さなくてはいけない。



「良くここまで勝ち進んで来ましたね」

「あ、ありがとうございます」

「あなたの事は調べさせていただきました。あなたはこの学園に入学して今まで成績は最低ランク、この大会も毎年一回戦敗退。ここまで勝ち進んでくれたおかげはその見たこともない魔杖のおかげですか?もし良ければ触らして頂いても良いかしら?」

「いえ、いくら生徒会長様でもその申し出は断らせて頂きますわ」



 生徒会長様は私を褒め称えてはいるもののその実生徒会様の視線は物欲を抱き終始私に魔剣銃に向けられていた。


 そして生徒会長様は自身の欲望のまま私の魔剣銃を触らして欲しいと聞きながらその手は既にわたくしの魔剣銃へと伸びて来ていた。


 わたくしはその手を払うとキッパリと断る。



「………それもそうですね。そう簡単に家宝又は同等の魔道具を他人に触らせる訳にはいきませんものね。ではわたくし、ミーシャ・トア・ルイツがお相手致します。お互いに全力を尽くしましょう」

「シャルロッテ・ヨハンナ・ランゲージです。ミーシャ様の胸を借りるつもりで挑ませて頂きます」

「両者、定位置へっ!」



 わたくし達の会話が終わった事を見計らったのか審判の声がかかるとわたくし達は試合開始前の定位置へとお互いに向かう。



「お互いに例っ!………始めっ!」



 始めに仕掛けたのは生徒会長のミーシャ様。


 若干十七歳にして無詠唱魔法を扱える天才である。


 その天才が予備動作や詠唱無く水魔法水球を放ってくる。


 この水球は水属性の中でも初級魔法に位置付けられた魔法であり比較的簡単に習得できる魔法であり、またダメージもそこまで大きくない。


 しかしダメージは少なく初級魔法だからと言って喰らってしまえば全身ずぶ濡れになり衣服などの重さなどで身体を動かしづらくなってしまう。


 それは微々たるものかもしれないが動きづらいという事は疲れやすいという事でもある。



「ファイアッ!」



 その水球をわたくしはファイアで相殺すると次の瞬間大爆発が起き闘技場が水蒸気と煙幕、そして土煙りにより視界がゼロになる。


 そんな視界の中、ミーシャ様は的確にわたくしへと土魔術であるアースバレットを撃ち抜いて来る。


 それを何とかギリギリで避けるもその先には土魔術で作られた落とし穴があり、そのそこには同じく土魔術のアースニードルが設置されていた。


 どうやらわたくしはミーシャ様に良いように誘導されていたみたいである。


 しかしそのまま落ちるわけにも行かない為、わたくしは氷魔法を下へと落ち込み氷の柱を作り出すとそれを足場に落とし穴から抜け出して行く。



「あら、氷魔術まで扱えるなんて凄いわね。わたくしでも水、風、土のトリプルですのよ?あなた、わたくしが卒業したら生徒会長をお継ぎになってみては?わたくしが強く推薦させて頂きますわよ」

「いえ、結構ですわ。それに、次の生徒会長になられるのはわたくしではなくマルメティアを先輩にお勧めいたします」



 視界が晴れてわたくしとミーシャ様は軽く会話をする。


 その間ミーシャ様は恐らく後ろ手にしてわたくしから隠した指先を使い恐らく何らかの魔法陣を展開しているだろう事は容易に想像出来た。


 そしてわたくしもただ待っているだけでなくディアから教えて頂いた製造魔術の一つ、弾丸製造を使い弾丸を十発作ると、その弾丸の半分に文字魔法にて弾丸へ属性を付与し、残りは何も書かずにそれぞれ腰につけたホルダーへ属性別に収納して行く。


 文字魔法については弾丸への使用のみディアから許しが出ているのでそのれ以外の用途では封印している。


 弾丸に込めれる魔術系統は属性のみ。


 それでも本来ならば一属性どころかどの属性ですら満足に扱える事が出来なかった以前のわたくしではけして見ることの出来なかったであろう今この景色を目に焼き付けながら、その先の景色を目指す為に頭をフル回転させて行く。


 今ミーシャ様が発動させようとしている魔術は恐らくトラップ系の魔法陣。


今回は恐らく爆発系の物であろう事が周囲のマナの感覚から伺える事が出来る。


 これは元々わたくしの魔力量が少ないという欠点を克服する為にディアより空気中のマナを使うという技法を教えて頂いたからこその推理である。


 この技法があったからこそ開幕時のミーシャ様のアースバレットを避ける事が出来たのである。


 そもそも空気中のマナは扱い難く、この空気中のマナを使い魔術を扱う事はマナを安定させるだけで普通に自分の魔力を扱い魔術を行使する以上に魔力を消費してしまう為マナを使って魔術を扱う事はまず無い。


 しかし、わたくしの場合は魔剣銃に使う弾丸にただでさえ少ない魔力ではなくマナを込める。


 込めるだけであるからしてマナを使って術式を組み上げるなどというめんどくさい作業がなくなり、結果わたくしはほとんど魔力を使わずに弾丸を作る事が出来るのである。


 それでも弾丸を作るのに魔力を消費する為無駄撃ちは出来ない。



「では、行きますよっ!アースバレットッ!!」



 反撃の準備が出来たのかミシェル様が掛け声と共にアースバレットを撃ち出して来る。


 先程と違い視界が晴れているため土の弾丸が見える分避けやすいのだが条件は相手も同じ。


 視界が開けている分正確に狙いを定め、フェイトを交えて攻撃を仕掛け来る。


 少しでも気を抜けば致命傷の一撃を喰らってしまうだろう。



「いつまでちょこまかと逃げ回っているんですか?早く当たってくださいな」

「バカ……言うなっ、ですわっ!!」



 しかしながらこのままではジリ貧なのは間違いないだろう。


 ここは一か八か賭けに出るしか無い。


 わたくしはそう判断すると一気にミシェル様目掛けて駆け出す。



「その判断は悪手でしてよ。やはり、私が推理した通りシャルロッテさんは実戦慣れしていない。その判断は正しかったようですね。アースバレットレインッ!!」

「そんな事、わたくしが一番分かってましてよっ!そして此処でアースバレットを複数撃つ魔術、アースバレットレインを使って来る事も想定済みですわっ!!ウィンド!」

「なっ!?」



 この大会でミシェル様はアースバレットレインを使った事が無いのだが、アースバレットを使いこなすミシェル様がアースバレットレインを扱えない筈がない。


 故にこの場面でミシェル様がアースバレットレインを使うであろう事は想像出来た。


 後はタイミングよく風魔術を撃ち土の弾丸の軌道を反らす。


 しかしながら全ての軌道を変える事は出来るとは思っていない為何発は喰らう覚悟と一本踏み出す勇気を持って足を止める事なく前へ駆けてゆく。



「ぐうぅっ!」



 アースバレットレインの弾丸を左肩と右太ももに喰らうもグッと堪え、それでも前へと進む。



「今ですっ!ファイヤッ!」

「なぁっ!?」

「やっと、捕まえました」



 そしてアースバレットレインが撃ち終わったその一瞬を狙い、ミシェル様とは正反対へとファイヤの弾丸を撃ち込み、その反動を利用して一気にミシェル様まで駆け抜けるとその勢いのまま背後を取りミシェル様の腕の関節をキメ、背中に魔剣銃の銃口を向ける。



「終わりですわっ!!エレキッ!!」



 そして電撃の魔弾をミシェル様の背中へ撃ち込み、わたくしの意識が途切れた。





 目がさめるとわたくしはいつのまにかベッドで寝てた。


 部屋の作りから恐らく医務室であろう事が伺える。



「よく頑張ったな。此処まで勝ち進んだんだ。上出来だろう」

「わたくし………でも、負けてしまいましたわ……」



 ディアに頭を撫でられながら優しくされると感情を抑える事が出来ず思わずディアの胸で泣いてしまう。



 不意に香るディアの匂いに思わず肺の奥まで息を吸ってみたり、ディアの胸にぐりぐりと頭を擦り付けたりとかはしましたがそれはそれこれはこれとだろ思うのです。わたくし。



 ぶっちゃけ負けた事は悔しくてたまらないのも確かではあるのですが逆に少し前までのわたくしでは決して見る事が出来なかった景色を見れた事に少なからず興奮と嬉しさを感じているのも事実である。



 その景色を見させてくれたディアの胸に今抱きつき、香る匂いにとろけそうになったとしても、そして自分の頭をディアの胸にぐりぐりと擦り付けてしまうのは致し方無いというものだとわたくしは思うのです。


 わたくしは思うのですっ!



「ここまで元気なら大丈夫だろう。ほら、マルメティアの決勝応援しに行くんだろ?」

「そ、そうでした。けしてディアの匂いに興奮してしまい忘れてしまったとかではないですからねっ」

「はいはい。じゃあ行きましょうかシャルロッテお嬢様」



 先程までセクシーな女性に抱きつかれていたというのにいつもの様に余裕のある、それはまるで父が娘を愛でるかの様に、または兄が妹を見るかの様な雰囲気と表情でわたくしへと手を差し伸ばして来るディアに少し、ほんのちょこっとだけムッとする。


 しかし次の瞬間にはディアの手を握れる事の嬉しさの方が勝ってしまいムクれた表情はによによとしてしまう。





「凄い人ですわね」

「シャルロッテお嬢様の時もこんぐらいの人が観に来てたぞ」

「ほんと……ですの?」

「こんなことで嘘を言っても仕方ないでしょう。この学園の四強が決まるんだから当たり前じゃないですかね?」

「し、試合に集中する事でいっぱいいっぱいで全く気付きませんでしたわ」



 闘技場、その観客席にはこの学園の学生だけではなく様々な年齢方たちが観戦に来ている事が伺え、座る席を見つけ出す方が難しい程である。

 

 そしてわたくしとミシェル様の試合もこれと同等の観客席がいたというその事実に今更ながら緊張感が襲って来る。



「あ、始まるみたいですよディア………ディア?ちょっとっ!?」



 マルメティアとミシェル様が闘技場の中央へと移動し始めたその時、隣に座っていたディアが急に立ち上がってかと思うと闘技場の中央、マルメティア達がいる方角へ一気に跳躍した。


 どうしてその様な事をしたのかと疑問に思うもその答えは想像もしえなかった最悪の結果でもって分かってしまった。





「貴様……今マルメティア様に何をしようとした?」

「俺様の一撃を素手で受け止める事ができる奴と出会ったのは久しぶりだぜっ!!」

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