第16話任務を与えられた犬のよう

 そう言うとエルザは手に持っている刃渡りの短いナイフを十字状の鉄板にベルトで固定されている男性の太ももへと躊躇いもなく突き刺した。


 男性は猿ぐつわをされており私達がいる部屋にはくぐもった叫び声が響き渡り、刺された男性は異様に太った体と大きく出たお腹を苦痛により揺らす。


 その叫び声を私はは恍惚な表情で数秒間堪能するように聞くと、男性に刺したナイフを捻り再度叫び声を上げさせながら引き抜く。


 引き抜かれたナイフには金色の輝きを赤色で鈍らせていた。

 


「自分が弱者から奪いとった財で買ったこのナイフで刺される痛みはどうかしら? 格別ではなくて?」



 エルザは男性にそう問いかけるも男性は猿ぐつわのせいでまともに声を発する事ができず恐怖の感情のみが伝わってくる唸り声のような返事しか返ってこない。



「うん、とっても嬉しいようね。じゃあもっとしてあげないとねっ!」



 そう言いながら私はは何回も何回も何回も金のナイフで男性の両の太ももを刺していくと同時に男性の悲鳴じみた唸り声が私の脳を溶かしていくかのような激しい快感が襲い、次いでその快感が私の全身を駆け巡っていく。


 人間という下等種族相手に権力を笠に偉ぶり平民相手に自らの欲望のままに行動するこの生き物相手に圧倒的暴力で権力がいかに無力であり人間という種族がいかに弱い種族であるかという事を気づいた瞬間のあの表情。


 そして痛みにより一生脳内に刻み込まれる事を考えると私の下半身はいつの間にか濡れ出してしまう。



「ホントにお前のその性癖だけは俺には分からないわ」



 そんな私の至福の時間をヴルディがぶち壊していく。


 こいつとは以前から合わない合わないと思ってはいたが心底合わないみたいであると心の底から思うと共にいつかこの人間のようにいたぶりつくしてやると心に深く刻んでおく。



「そんなんだからあんたは彼女が未だに出来ないのよ」

「彼女などいらぬ。そんな俗物なものを作るから弱くなり、またそういう思考を持っている限り強くなれないだろ。そんな事にうつつをぬかす時間があれば鍛錬の一つや二つした方がどう考えてもマシだろうが。それにエルザ」

「なによ?」

「そう言うお前こそ彼氏などいないだろ。人に言う前に自分自身に彼氏がいない事を考えてから言いやがれ」



 何を言うかと思えばこの私に彼氏が居ないと言いやがった。


 そもそもコイツは何も分かって居ない。


 私は彼氏が居ないのではなく作らないだけであるのだから。


 この私レベルになれば作ろうと思えば彼氏の一人や二人くらい簡単にできるのである。


 その事を理解出来ていない時点でウルザがいかに頭が悪いかと言う事が理解出来るというものである。



「まったく、この私の美貌を持ってすれば彼氏何て直ぐに出来るのだけれどもあえて作らないだけという事に気付けない程アナタは脳みそまで筋肉になってしまったのかしら?それに何よりこの私の彼氏が烏合の衆供で良い訳がないじゃない。其れこそ王族、それも魔王クラスの魔族じゃないと私の彼氏は勤まらないわよ」



 そんな脳みそまで筋肉に侵された可哀想なこのゴリラ………ウルザに、いかにこの私が価値のある女であるかを教えてあげる。


 しかし当のウルザは可哀想な者を見る目でこの私を見ていた。


 いかに人族ではなくゴリラのメスが好きであろう、人族のオスが好む一般的な異性の好みがかけ離れているであろうウルザであろうとこの私をその様な目で見る事は許されない。



「……何よその目は?殺されたいの?」

「そっか、脳みそが病気なんだなお前。忘れてたわ」



 今、拷問にかけていた男性が私の表情を見て小さな悲鳴を上げるのが聞こえた。


 この私の顔を見て悲鳴を上げたコイツは後で殺すとしてまずは目の前の筋肉ダルマゴリラを始末する事が先決であろう。



「………それが貴様の最期の言葉にさせてあげましょうっ!」

「コレは………早くディア様に伝えなくては」



 エルザとウルザが打撃と魔術で攻撃しあっている中、部屋の角、ディアからお借りしたオートスキルが付与されたいくつものアイテムを身に付けたメイドが音も無く消えて行った。


 その事にエルザもウルザも誰も気づく事はなかった。





「ご主人様、私達のいる街の東側にある隣街へ近日、魔族の軍が攻撃に来るそうです」



 ディアは思う。


 確かにこの奴隷メイド達にはスパイになれとは言ったものの、何故この短時間でここまで優秀に育ったのかと俺は不思議でならない。


 そもそもの始まりは当初奴隷メイド達が何かに怯えている様に感じた事から始まる。


 その事を不思議に思った俺は奴隷メイド長のエマへ問いかけた。


 ちなみ彼女を奴隷メイド長に任命した理由は、この奴隷メイド達の中で一番の年長者であるというだけである。


その彼女は当時こそ三十半ば程の年齢に見えたのだが今は失われた片目も再生しておりカサつきパサパサであった肌や髪の毛も今では潤い艶やハリを取り戻している為実年齢通り、十八歳の年齢に見える。


 その奴隷メイド長であるエマは俺に声をかけられ栗色の綺麗な長髪を後ろにまとめたポニーテールが犬の尻尾の様に揺れている気がするが気のせいであろう。


 しかしその嬉しさを身体いっぱいで表していたのも一瞬で次の瞬間には暗い表情となり一呼吸置いたあと静かに喋り出した。



「私達はご主人様に買われてから今日で二週間程経ちます」

「そうだな」



 俺はそう相槌を打つと目で続きを促す。



「その間私達は何もしておりません。勿論、ご主人様と共に強くなる為の鍛錬は行なっておりますがご主人様の為に何かをするという事が一切無いのです。……それは私達にとってとても不安な事なのです」

「そうか……」



 メイド長の言わんとする事を俺は理解し、思考する。


 結局のところ彼女達奴隷メイドは現環境が余りにも好待遇過ぎ、今の環境を与えてくれる俺に対して何か対価を払わないと捨てられるのでは無いかという不安を抱えているのであろう。


 それは今の環境が彼女達にとっていい環境である証拠でもあり、またいい環境であると感じれば感じるほど彼女達に不安としてのしかかっているのであろう。



「………そうだな、お前達にはまだ言っていなかったが最終的には俺の影、即ちスパイとして活動してもらうつもりである。その為の毎日の戦闘訓練であるからより一層真剣に取り組む様にな」

「は……はいっ!!必ずやご主人様の優秀な影として活躍成長してみせます!」



 そしてエマは俺の話を聞くと先程までの不安な顔は一瞬にして消え去りやる気に満ちた表情と共にポニーテールも左右に力強く揺れ出した。


 正直言って彼女達を本気で俺の影にするつもりは無いのだが、これで彼女達の不安が少しでもマシになれば良いかな───


───何て事を考え軽い気持ちで言ったのだが、当の奴隷メイド達は俺の想像以上にそれを間に受け俺が思っている以上に立派な影へとものすごい勢いで成長しているみたいである。


 そして何よりも俺が貸し与えた装備品の数々と各種アイテムがこの世界で一般的に流通している物よりもはるかに高性能過ぎていた事であろう。


 この点に関しては自分自身の確認ミスであるのだが彼女たちのあまりにも高すぎる忠誠心かつ向上心に関してただただ驚くばかりである。


 そもそもの間違いが奴隷というものは生産性が無いものとはなから決めつけていたからに他ならないのであるが、前世の日本においても生産性の低い社畜もいれば生産性の高い社畜もいた事を思い出す。


 そして生産性の高い社畜は総じて会社への忠誠心が盲目的に高いという事も。



「あ、あの………」



 過去の記憶をさかのぼっていたらおずおずといった感じで不安そうなか細い声が聞こえてくる。


 恐らく俺が何の反応もない事と俺自身が魔族であるという事により感じ始めた不安にエマは耐えきれなくなったのであろう。


 しかし、出会った当初であればこのように気軽に声をかける事すらできなかったであろう状況から比べればそれはそれで嬉しい事なのだが、その事は一旦置いておいてエマへ返事をする事にする、


「ああ、すまんな、少し考え事をしていた」

「い、いえっ!とんでもございませんっ!むしろご主人様の思考を中断させてしまい申し訳ございませんっ!!」


 そしてエマは取り返しのつかない失敗をしてしまったかのような表情にて青ざめた顔を何度も下げ謝罪し始めたので頭を下げるのを即座に止めさせ優しく頭を撫でる。


 たったこれだけの事でエマの表情は幸せに満ちておりポニーテールが揺れ始めるのでちょろい奴隷メイドである等とは口が裂けてもいないが、それはそれで可愛くもあると思ってしますのは致し方ない事であろう。


 そう、致し方ないことなのである。


「そうだな、相手が魔族であろうが人属であろうがその種族に関してはあまり問題ではない。しかしながらこの俺の周りを害するのであれば容赦はしないが………現段階では俺の周りには被害が無い為今のところは何もすることはない。しかしながら監視しないという選択肢はない。お前たちには苦労をかけてしますが引き続き監視を行いどんな些細な事であれ俺に報告をしてくれ。あともし少しでも危ない場面になったならば抗戦はせず即座に撤退をするように。最後の件に関してはあまり使いたくはないのだが奴隷のある時としての契約命令である」

「はっ、はいっ!分かりましたっ!!」

「ではそろそろ食事にしようか」

「はいっ!」



 そしてエマは任務を与えられた犬のように返事をするのであった。

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