第13話廃棄になる理由

 だが、俺のもとに来たのならばできる限り事はしてあげるつもりでもある。

 


「ではこちらにサインをお願いします」



 あれ以降はスムーズに進み衣服込みで合計金貨十枚──といってもほとんど衣服の値段ではあるが──で彼女達を購入することが決まっり、書類に日本語でサインを済ませる。


 基本的にサインを書く書類は魔法を組み込まれており何語でもいいらしく実に便利である。



「ありがとうございます……確かに、サインは頂きました」



 デモールがそういうと従業員であろう女性数名が先ほどの奴隷たちと購入した衣服を持って部屋へ入っていく。


 その瞬間俺を見た従業員の口からは小さな悲鳴が聞こえたのだが何ごとも無かったかのように瞬時に切り替えて部屋を後にする。


 その後奴隷達一人一人と奴隷契約を済ませ、奴隷商を後にする。


 その際デモールには魔族である俺がこの街に居ることは内密にしておくように釘を刺そうとしたら先に内密にしてくれるとの言葉を貰った事から身分を隠して来る客はやはり多いのだなと思ってしまう。


 そしてディアは人気の無い路地裏へ彼女達を連れてくるとゲートを開きこの中へ入って行くように促す。


 彼女たちは始めこそ戸惑ったもののここまで来た足取りと同様に力なく歩きゲートへ一人一人入って行く。


 そして購入した奴隷達二十名が全員ゲートへ入った事を確認してディアもゲートへ入り、そしてゲートを閉じる。


 そこには先ほどよりかは幾分か目に力が入りしかし呆然と立ち尽くしている彼女達が目に入って来る。


 その姿は先ほどまでの死人の様な雰囲気とは違い、彼女達が人間であると購入し始めて実感できた。



「凄いだろ?」

「ご、ご主人様……ここは一体……」



 未だ辺りをきょろきょろしている少女に俺は自慢する。

 そんな俺に奴隷の中で最年長であろう女性が話しかけて来る。

 その彼女には片目が無い。



「ここは俺の拠点であり俺の財産の全てがここにある」



 そう、ここは彼女に言った通りディアのゲーム時代の拠点である。


 その部屋──正確には西洋風の館なのだが──はゲーム時代凝りに凝った内装にしておりまるで大貴族の一室と言われても納得してしまいそうなレベルである。



「そして今日からはお前たちにも住んでもらう。部屋は一人一室ずつ与えるから後で各々好きな部屋を決める様に。でも、その前にお風呂にご飯だな」

「なっなっな、………っ」



その俺の言葉を聞き話しかけてくれた女性は口を鯉のようにぱくぱくと動かし驚いてはいるがどれから指摘すれば良いのか分からないといったようである。



「いけませんご主人様っ!奴隷である私たちにこのような贅沢な扱いをして頂く必要はございませんので何卒ご理解のほどお願い致しますっ!」



 やはりこの者は年長なだけあって奴隷というものはどういうものか、また自分たちはその奴隷の中でどのような立ち位置であるのかという事を理解しているようである。


 それはひいてはここで捨てられれば次はないという事も理解しており、また奴隷に贅沢をさせるぐらいであればメイドを雇った方が世間体的のも賢いお金の使い方であるという事も理解しているようである。


 そして自分たちが自分自身の力で生きていくことができないという事も。



「私達には野菜の切れ端のスープと黒パンを一日一食、週一回身体を濡れたタオルなので拭く程度で十分なのですっ!」



 理解しているがゆえに好待遇というのはその分彼女達──年長組に限るが──は近い将来捨てられるのではないかという恐怖が付きまとうのだろう。



「あー、却下だ。お前たちはみすぼらしい格好で外を出歩き、そのご主人様である俺の顔に泥を塗りたくるといのか?」

「め、めっそもございませんっ!」



そんな彼女の提案──一般的な奴隷の扱い──を却下し、その行いをしたがゆえに俺に恥をかかせるのかと逆に質問で答えると彼女ははっとした表情をし、それについて土下座する勢いで否定する。



「なら毎日遠慮せず風呂に入ること。もちろんその為衣服類は上等な物を用意するし食事だって一般的なものを朝昼晩、計三食食べてもらう。」

「で、ですがっ!」



 とりあえずは一般人と同じ生活レベルの環境下で彼女たちには生活してもらうつもりでいるのだが、それを聞いて彼女が食い下がる。

 先ほど土下座する勢いで理解してくれたのではないのかと思わなくもないのだがやはりいままで培った常識と奴隷としての職業病みたいな物だと思うことにする。



「だがお前の気持ちもわからないでもない。自分たちを捨ててメイドを雇うのではないかという事を考えているのだろう?」

「は、はい……」

「なら大丈夫だ。なぜならこの場所は先ほども言った通り俺の拠点だった場所であり誰にも知られるわけにはいかない。しかし、奴隷であるお前たちはその契約上この世界で誰よりも信頼における者たちである。その為お前たちを捨てるような事はないしメイドを雇う理由もない」

「しかし、私たち半数程の者は皆何かしらの欠損がございます。ご主人様ほどの魔族であれば同じ奴隷の、もっと上質な者たちを買うこともできるはずです」

「それについては風呂から出てきてから教えるとしよう」



 そして彼女、ひいては彼女たちがここまで自分たちの価値を下げてしまっているのかという最大の原因はやはり体の一部の欠損であろう。

 耳やしっぽ、目や手、指、足、目立つやけどの跡などなど。

 奴隷になる者たちは各々理由があり、さらにその中でも廃棄品である彼女たちは廃棄品である理由がやはりある。

 でなければ幾ら女性であるからと言って廃棄になる理由が無い。



「それでは浴場へ案内するからついて来るように」

「は、はい」



 とりあえずここで話していても先に進まないため彼女たちを浴場へ案内するべくついてくる様指示を出すと俺と受け答えをしていた女性がそれに返事をし、他の者は相変わらず暗い表情でトボトボと俺の跡を着いてくるのが見える。


 それでもたまに辺りを見渡しては驚いている姿が見えるのでそんな彼女達の一挙手一投足が何だか微笑ましく思えて来る。



 「ここが浴場だから覚えておいて欲しい。そしてこのカゴに自分の衣服を入れてもらって風呂には入るように。今日に関しては今着ている衣服は回収するからここに皆まとめて入れてくれ。着替えはこちらで新しく用意する。では脱いだ者から浴場に入って来てくれ」



 そんなこんなで脱衣所までたどり着き簡単な説明を済ましたあと先に浴場へ入り彼女たちを待つ。


 数分後、浴場のガラスの引き戸を開けながら恥ずかしそうに一人また一人と大事な部分を隠し入って来る彼女達の姿をみて年頃の人間らしい反応に多少安心してしまう。


 しかしながらその身体は骨ばっており彼女たちにはある意味では失礼と分かっていても予想していた通り欲情するには至らない為、俺の精神的に我慢する必要がなくありがたく思ってしまう。


 しかしながら奴隷の時の衣装もなかなかに際どい衣服であったため今更だろうと思うもののその一枚があるかないかで精神的に全く違うという事も理解できるために、早くこのイベントを終わらせるべく直ぐに次の説明へと入る。



「では君、ここに座ってくれ」

「はい」

「一度説明するから良く聞いておいてくれ。火傷したりするからな」

「「は、はい」」



 年長組であり俺と唯一会話をしていた女性をシャワーや蛇口などが設置されている前に置かれているプラスティック製の白い椅子に座らせ、これらの取り扱いについて説明する旨をつたえる。


 すると彼女たちは声は小さいものの今度は返事をしてくれて、それが少し嬉しく思うも先に進むべく説明を続ける。



「この赤い色の方向へひねればひねる程熱くなっていき、逆に青い方向にひねれば冷たくなっていく。最初は慣れていないだろうからこの様に青い部分からはじめて手で温度を確認しながら徐々にお温度を上げて行ってくれ。くれぐれも赤い部分からは始めないでくれよ?火傷するからな」

「「はいっ」」

「そして、こいつを蛇口のマークにひねればこの様に蛇口から、逆にシャワーのマークにひねればシャワーから水が出てくる。そして、この白い筒に入っているのが身体を洗う石鹸、この青の筒に入っている石鹸が髪の毛を洗う石鹸が、そしてこのピンクの筒に入っているのが髪の毛を美しくする液体が入っている。口で言ってもいまいち理解できないと思うから一度君を使って実際に使用しているから皆覚える様に」


「「はいっ!」」



 やはり女性だからであろうか。


 体を奇麗にする道具等の説明を聞くようにという俺の指示に今日一番の返事をしてくれ、その目は皆真剣そのものである。



 「ではこの身体用の石鹸だが、石鹸とは言うものの液体なんだがな、これをタオルにのせ、水分を含ませて泡立てると、あとは知っての通りタオルで体を隅々までこすっていく。そしたら、シャワーで泡を落として身体は終わりだな」

「あ、……んんっ、」



 石鹸もといボディソープの説明をしながら先ほど座らした女性の身体を満遍なく洗っていく。


 その間くすぐったいのか時折声が出ているのだがそこはぐっと我慢して頂きたい。


 そしてボディソープに続き、シャンプー、リンスと使い方を説明しながら実践していく。


 そしてそれら全てが終えたころ、気持ちよさそうに弛緩した表情を浮かべる女性と見違えるように奇麗になった身体と輝きすら出始めた髪の毛がそこにはあった。



「では先ほど俺が説明した通りにやればいいから後は各自身体を洗うように。それと言い忘れたが湯舟には身体を洗ってから入るようにな」



 大体の事は説明したためここに異性がいては落ち着いて身体も洗えないだろうとそそくさと出ようとするのだが、その腕を恐る恐るといった風に先ほど洗ってあげた女性とは別の女性が俺の服を遠慮がちに掴むと意を決したような、そしてどこか恥ずかし気な表情を向けて来る。



「どうした?」

「わ、……私も…洗っ…く…さい」



 それは緊張のためか声が小さく実に聞き取りづらい言葉だったのだが彼女が言わんとしていることが分からないと突っぱねるほどの事でもないと思い優しく微笑むと承諾する。


 すると彼女は緊張した表情から一転、ほっとしたようなそれでいて幸せそうな表情を浮かべた。


 そして結局俺は何故か奴隷全員の身体を洗ってあげることになったのであった。







「風呂は気持ちよかったか?」

「「はいっご主人様!」」



 あれから一刻程して彼女たちは風呂から出て今は始めに連れてきたリビングにて俺の前で整列していた。


 風呂は心の洗濯とはよく言ったもので彼女たちは身体だけでなく表情も幾分ましになったように見える。


 そのせいか返事もその声に力強さを少しではあるものの感じる程である。



「それはよかった。風呂も入ったし次は食事と行きたいところだが折角奇麗になったのだ。だったら最後まで奇麗な状態にしたいよな?」



 おれの言っていることが何となく理解できるのだが、彼女たちの常識がそれはあり得ないと否定し、結局俺が言っていることが理解できないと言った表情をみな一様に浮かべる。



「ではみんな、ここに一か所に集まってくれ」



 まあ、こればかりは論じるより実際にやってみせた方がいいだろうと思い説明する事はせず一か所に集まるように指示をする。



「水魔術段位八【広範囲完全回復魔術】」



 そして俺はいわゆるエリアハイヒールを詠唱し彼女達の身体を一気に元の姿へと治す。


 失った目、腕、足、耳等は勿論、火傷や古傷、病気など一気に治癒され元通りの姿へと彼女達を癒していく。

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