第11話友達

「その、なんでマルメティアはわたくしに謝ろうと思ったですの? ……む、無理にとは言いませんわ。言いたくないのでしたらこの話は無かった事にしましょう」



これはマルメティアに謝られた時からずっと疑問に思っていた事である。


なぜ、あの喧嘩した日からたった一日しか経っていないというのに謝罪をするような考えに至ったのかわたくしはその理由を知りたかったのである。


しかし、それを無理に聞こうとも思わないためマルメティアが言いたくないのならば諦めようとも思う。


「その話ですが……だ、誰にも言わない、私達二人だけの秘密、内緒にして頂けるのでしたら……その、話しても良くてよ?」

「わ、分かりました二人だけの秘密ですね。約束しますわ」


そしてわたくしに謝罪をした理由を聞かれたマルメティアはほんのりと頬を染めてチラリチラリとわたくしを伺うように、そして話たそうに見てくる。


そんなマルメティアを可愛いと思いつつもマルメティアの出してきた約束事を受け入れる。



「わ、私……実は、さ、さ……最近気になる殿方が居るのですわっ」



マルメティアは私の返事を待っていましたとばかりに口を開くのだが、そこから数度躊躇った後意を決した様に早口で喋り終えると「つ、ついに言ってしまいましたわー」と顔を真っ赤にしてきゃーと姦しくも可愛らしい声で叫ぶ。



「そ、そうですか。それはおめでとう?ございますわ。そ、それでその殿方と何かあったんですの?」



そんないやんいやんとクネクネ身体をくねらせるマルメティアには一度話を戻して続きを言ってもらうよう催促する。



「お、お見苦しいところをお見せしてしまいましたわね。その気になっている殿方なのですけど、誰かの家に使える執事らしいのですわ。私も何度か今の給料より高い給金で雇うと申しましたが、全部振られてしまいましたの。けれどそれでこそ私の思い人ですわね」



マルメティアは「おほんっ」と咳を一つし調子を整えると続きを言い始めたのは良いのだが話の本筋とは関係ない話をしだす。



「し、執事っ!? その、……じ、じつわですね……わたくしも最近気になっている殿方を執事として側に置いているのですけれどもそれがもう唐変木でして、乙女心と言いますかわたくしの気持ちに全く気付く素振りを見せないと言いますか、兎に角鈍いんですのっ!鈍感過ぎますっ!!」

「あら、シャルロッテもですのねっ!! 私のお慕い申している殿方も鈍感でしてよっ! 私がどれ程勇気を出して真っ白いハンカチを渡したと思っているのかしらっ! た、確かに、偶然を装ってわざと落とした私も私なのですが、普通は気付きましてよっ!」



マルメティアの言う「気になる方」がいつの間にか「お慕い申し上ている」と変化しているのだがその事にシャルロッテもマルメティア本人も気付けない。


それ程までに二人の話は盛り上がりを見せ始める。



「それにしてもその方は酷い唐変木ですねっ! 普通ならば女性が白いハンカチを、例えワザと落として拾わしたとしても普通ならば気付くものですっ! というか寧ろ最近では女性がハンカチをワザと落として男性に拾わすという形をよく聞きますっ! 拾ったハンカチが純白の時点でなんで気付けないのかしらっ!」

「まったくその通りですわっ! 一体、どれ程勇気を出して真っ白なハンカチを落としたか一度じっくりと話して差し上げたい程ですわっ!」

「わたくしの執事もほんと唐変木で、わたくしの気持ちなんてこれっぽっちも気付いて無いのでしょう。ええ、きっと。先に惚れた方が負けとは良く言ったものですっ!」

「まったくですわっ!」



森の中、月と星々だけが辺りを照らす時間に女性二人の声が姦しくも響きわたる。


普通ならばどちらかが火の番をしながら野獣や魔獣、そして盗賊と言った外的をいち早く発見して寝ている者に知らせる為にもどちらか一人は見張り番として外で待機しているのが常識である。


しかしマルメティアの風魔法【見えざる壁】をテントの周り役半径100メートルで展開しており、この見えず触れない壁をマルメティアが指定した大きさ以上の何かが通過した時マルメティアにシグナルを送る事が出来るという最早魔術と言うよりセンサーアラームに近いものを展開している為二人は思う存分に恋話しを出来るのである。


ある意味今の彼女達にとっては魔術や野獣と言った者達よりも同級生達の方が脅威的であろう。


そして彼女達の姦しい声のお陰で魔獣や野獣達は警戒してこの周辺から遠ざかっており、最早【見えざる壁】を展開し続ける意味がない事に彼女達は気付けない。


ちなみ盗賊などはまず出ないといえよう。


学園の生徒を合宿させている森という事は言い方を変えれば学園が管理している森という事であり、更に言い方を変えれば帝国が管理している森でもある。


そんな場所で行動するだけでもリスクが高すぎる上に学生に何かするようものなら一生帝国の地は踏めないと思わなくてはならない。



「それで、シャルロッテと喧嘩した日にその殿方に偶然にもお会いしましたので……その日の喧嘩内容を殿方に説明したのです」

「そ、それで…その殿方は何て言ったんですの?」



マルメティアの語る話のクライマックスであり最も知りたかった事と言うのに加えて色恋まで織り交ぜた内容の肝、それが何なのかシャルロッテは気持ちを抑えきれず前のめりに詰め寄り続きを催促する。


そのシャルロッテに気を良くしたのかマルメティアはもったいぶった様にタメを作り、そして話し出す。



「平民無して貴族あらず、貴族無しても平民あり、そして平民無くして国作れず……そう言って下さったんですの。今までは弱き者を生かしてやっている守ってあげていると思っておりましたのですが、実は逆で弱き者達がいるから国があり貴族がある。すなわちわたくしは弱き者と思っていた者達のお陰で貴族として生きる事を許されていると気付かせてくれたのですわ。そうしたらシャルロッテさんの魔杖を奪おうとしたあの行為は単なる奪略ではないのかと思うと謝りたいという気持ちが抑えきれなくなり居ても立っても居られず……」



あの時の光景と衝撃を思い出しながらマルメティアは喋る。



「それに最後に「人間着る服は違ってもオギャーと産まれていつか死ぬ。なのに貴族ってだけで偉いと言えようか? それに、その人が偉かったかどうかは死んだ後に決まると、俺は思う」とも仰ってくださいまして、私……目から大量の鱗が落ちましてよっ!!」

「わ、わたくしも目から鱗が落ちるのが止まりませんっっ!」



マルメティアもシャルロッテも良くも悪くもお互い貴族制度というシステムが存在するのが当たり前の世界で生き、立場は違えど同じ貴族故にお互いに突き刺さる何かがあったのだろう。


しかし、とシャルロッテは少し引っかかる所がある事に気付く。


シャルロッテが言う男性の言葉がまるでディアが良いそうでであり、実際にディアに言われた様な気分になってしまっている自分がいる事に。


しかしそこは花の十代。


そんな引っかかりはするものの核心が持てない事よりも色恋の方が優先順位は高い。


それはマルメティアも例外ではなく、それから小一時間執事に恋するという共通点で二人は盛り上がるのであった。





朝霧がまだ辺りを包み朝特有の肌寒さがかえって心地よい季節でもあるこの時間、シャルロッテとマルメティアは既に起床しており各々の仕事をテキパキとこなしていく。


シャルロッテはテントを片付け山菜と枯れ枝採り、マルメティアは未だぎこちなくも慣れ始めたカマド作り。


そこには昨日以上に息の合った二人の姿が見える。


カマド作りと言っても昨日作っているカマドをそもまま使えばいい為やる事と言えばカマドの中にある火の消えた枝の中から完全に炭と化した燃えカスとまだ燃え切れていない枝と分けて行くだけなのでマルメティアの仕事はカマドを作ると言うより燃えカスを整理して火をつけ直すぐらいである。


燃え切れていない枝は少し太くても燃えやすい。


燃え尽きた炭の部分を中心に寄せ落ち葉落ち葉なども利用して火の魔法で着火する。



「ふふん。当然ですわ」



そんな声が聞こえた頃、私も少し太い枝や山菜などを積み終え戻って来る。



「スムーズに着火できたみたいですわね」

「一から着火させるよりかは幾分マシでしたわ。あと、やはり私の才能でしょう………なんてね」


そして二人でどちらからともなくクスクスと笑い合う。


昨日の一夜を開けてわたくしとマルメティアは軽い冗談を言い合える仲になったのはやはりお互いに好きな異性の話をした事が大きいだろう。


それに、お互いの価値観や考え方を知れたのも大きいと思う。


もし友達が出来たらこんなんだろうかとも思うけれど、多分マルメティアとこうしてお話しできるのは合宿中だけであろう。


合宿が終われば元どおりの日常が待っていると思うとそれはそれで寂しく思う。


でもわたくしとこのように話してはマルメティアに迷惑をかけてしまう事は目に見えている為我慢するしかない。


わたくしのわがままで迷惑はかけたく無い。



「今あなたが考えている事、言いましょうか?」

「……うん?」

「合宿が終わっても…と、友達でしてよ。わ、私も本当の意味で友達と言えるのはシャルロッテが始めてですし……」

「う、うん」



後半は尻すぼみになり聞き辛かったのだがそれでもマルメティアが言いたい事は分かったし嬉しくも思う。


しかし、お互いに合宿が終わっても今の関係が続けれるのか確信が持てずこの日の朝食は少し静かな朝食を過ごした。




朝食を食べ終えた後は燻っている燃えかすを、横に掘った穴に入れ水魔法をかけた後埋めて行く。


それが終わるとテントを手際よくかたずけ目的地までひたすら歩く。


しかし、目的地間近という所でマルメティアのスピードが少し落ちた為一度小休止がてら様子を見る事にする。


体力はまだありそうではあるがスピードが落ちた原因、多分靴擦れかもしれませんわね。


そう思いマルメティアの靴を脱がすと右側の踵少し上の部分の皮膚がめくれ赤く腫れ上がっていた。



「うぅ、申し訳ないですわ」

「こればっかりは仕方ないです。とりあえず傷口に効く薬草を今日の朝ついでに詰んでおりましたのでそれを当てて包帯を巻いておきましょう。包帯を一枚噛ませるだけで大分楽になるかと思いますわ」

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