第10話一人じゃない昼食

 この森自体に余り人は入らないのか少し見渡せばそこかしこに食べられる野草が自生している。


 その中でも、きのこ類も摘んで行きたいのだが鑑定できるスキルが無いため当たった時を考えれば怖いので強い意志を持ち後ろ髪を引かれつつもスルーである。


 そして山菜類を十分な量を摘んでくると次はカマド作りである。


 カマドは汁物と主食用にに二つほど作りたい。



 少し開けた場所を見つけるとまず適当に草を刈って行く。


 といっても生い茂る木々に囲まれているので開けた場所と言えども背の高い雑草類は意外と少ない為その作業は十分程度で終わる。


 雑草と聞くと何処でも生える生命力の強い植物だと思われがちなのだが意外にもそうではない。


 天敵である草木がいない限られた場所にしか自生できないのである。


 その為森の中では木々に日光や空気の流れを遮られてしまう為背の高い雑草はもはやその武器を奪われたも同然で、かわりに膝よりも低い雑草が自分の居場所を見つけたかのように、まるで緑の絨毯の如く生い茂っている。


 その絨毯へマルメティアと一緒に集めた石を組み上げて行き二つのカマドを作る。


 その中に入れるは常緑針葉樹の落ち葉。


 常緑針葉樹の落ち葉は簡単に火が着き、燃え上がるのだがそれと同時に火が消えるのも早い。


 その為、常緑針葉樹の落ち葉の周りに乾いた小枝を三角のテントの様に隙間を開けて組んで行く。


 その上に、今度は太い枝を同じ用に組んで行き準備は完成である。


 あとはファイアの魔法を使い火種である常緑針葉樹の落ち葉へ火をつける。


 後は適度に風を送ってやれば太い枝に火が移って行く。


 それを見届けるとあらかじめ作っていた二本の支えに鍋と予め水でといてきた米という穀物を入れた飯盒の取っ手に通した棒をその支えに設置する。


 飯盒は泡が吹き出し切るまで放置して、それまでにスープの準備である。


 こちらは味噌という調味料を使いスープを作って行く。


 米という穀物も味噌という調味料もその両方、ディアに教えていただいたものである。


 それを考えると何故かディアに見守られている気分になり三日間やっていけるだけの勇気をもらえた気がした。



 それでも寂しいものは寂しいのですけれども。



 そうしているうちに飯盒から泡が吹き出して終わったらしく弱火にし、そしてわたくしは細い棒の先を飯盒の蓋の上に置くと神経を棒の先に集中させる。


 クツクツと振動が伝わってくればまだ中の水分が多く、振動が無ければ今度は完全に火から離し半刻程放置する。


 そして蒸し終わる頃には二人分の料理が完成である。



「な、なんですの。この嗅いだことのない美味しそうな香りは……」


 料理が出来上がりつつあるなんとも言えないこの匂いにマルメティアが「もう我慢できない」という顔をしながら、今作っている料理について聞いてくる。


 その姿はどことなくそわそわと落ち継がない様に見え、この料理に出会った頃のわたくしもこんな感じにディアからは見えていたのかしら?と想像してしまう。




「これはわたくしの執事に教えて頂いた料理なんですよ?凄く美味しいので期待しててくださいまし」

「そ、それまで何か他に手伝う事は無いのですのっ?」

「そうですね、もう後はご飯というものが炊けいれば終わりですので待つ事が仕事ですわね」



 漂う美味しそうな香りに待ちきれず早く食べたいからなのか、手持ち無沙汰が落ち着かないのか、それともその両方か、マルメティアはそわそわとしながらも何か手伝える事は無いか聞いてくるのだが味噌汁に具材を入れた時点で後は出来上がるのを待つのみなので大人しく待つように指示する。



「できましたわ」

「や、やっとですのねっ!!」



 二分後、わたくしは料理が完成した事を告げると「待ってました」とばかりにマルメティアがお皿とフォーク、スプーンを持ってやって来る。


 いつ何時も貴族として模範の様な立ち振る舞いをしているマルメティアの年相応なリアクションに少しびっくりしつつも悪い気はしない、むしろそれが嬉しくも思う。



 はやく、はやくとオーラを出して来るマルメティアに見守られながらわたくしは飯盒の蓋を素手では流石に開けれない為厚布を敷いて開ける。


 うまく炊けているのか?


 そんなもしもがわたくしの心臓をドキドキと加速させる。



「よ、良かった……上手く炊けてるみたいですね」



 わたくしの心配もいい意味で無駄に終わりご飯と山菜の味噌汁を二人分よそうと待ちに待った昼食である。



「いただきます」

「我が国の恵みと繁栄に感謝を」



 お互い各々の食事の前の挨拶を済ませる。


 ちなみにこの「いただきます」はディアの真似である。


 わたくしの食事の為に奪われた命に感謝するという意味を知った衝撃は辺境貧乏貴族故に様々な命の上で生かされているという事が分かるが故に大きく響き、それ以来ディアの真似をしだした。


 そうは言っても辺境で貧乏でも貴族なのでマルメティアの挨拶を言うのが正しいとは思うが食事前の挨拶は決まってないので今日も食事前に「いただきます」と食材の命に感謝をする。



「は、初めて味わう味のスープですわね。このご飯という食べ物は仄かに味はするのですけど味がないですわ……」



 昼食を取り始めるとマルメティアが興味津々といった感じで味噌汁から手をつけ始め、ついでご飯と食べて行く。


 味噌汁を一口飲むと温かい飲み物に心落ち着かせたのかどことなくマルメティアの雰囲気が柔らかくなる。


 何だかんだ言ってもわたくしと同い年、まだ成人したばかりのマルメティアにとって合宿と言えども森の中で数日を過ごすという状況に少なからず緊張していたのだろう。



「そのスープをご飯にかけて食べてみてください」

「………っ!!な、成る程ですわっ!!は…はしたない気もしますが今は合宿中ですもの。少しぐらい行儀が悪くても問題ないですしね……」


 

 そしてわたくしはマルメティアにわたくしお気に入りの食べ方を進める。


 するとマルメティアは少し考えた後頭の中でその味を想像したのかすかさずご飯をスープの中へ入れていく。


 その姿は悪巧みをする子供のようだと思ったのだがそこは指摘せずにわたくしも黙ってスープの中へご飯を入れていくとマルメティア同様にスプーンで一気に平らげていく。


 他人の目を気にせず食べる爽快感にハマってしまいそうだ。


 マルメティアも「ま、まあまあですわ!まあまあですわ!」と言いながらも止まらないスプーンを見れば食事に満足しているのがうかがえる。



 そして、この件に関してはわたくしとマルメティア、お互い共通の秘密にしなければならないとマルメティアと目線を交わして意思疎通をして昼食を食べ終えた。




 昼食を終えて役四時間が経過した。


 わたくし達は地図と方位磁石を使い目的のアイテムが置かれている場所へと向かったのち、現在は夜食の為のかまど作りと寝床作りの真っ最中である。


 かまど作りはマルメティアが、寝床作りはわたくしの担当と振り分けて作業を開始する。


 マルメティアは昼食時にわたくしの指導の元二箇所のうちの一箇所を一度作っているので予習復習も兼ねてあーでもないこーでもないと思い出し、四苦八苦しながらも頑張って作っている。


 そのマルメティアに負けないようにわたくしも寝床作りを開始する。


 と、言っても三本の木にロープを括り付けて終わりなのだが。



「寝床が完成しましたので夜食の準備を始めますね」

「い、いくらなんでも早すぎるのではなくて?」

「うーん、確認します?」

「もちろんですわっ!」



 その早さにマルメティアも疑心暗鬼なのだが出来たものは出来たので一度見てもらった方が早いだろう。


 そしてわたくしは三角形型のシーツの様な物の角から伸びるロープを三本木に巻きつけ、その上には同じ仕組みで出来た屋根を同じ様に三本の木へ括り付けて設置しただけの簡易テントをマルメティアに見せる。


 このテントの利点はなんと言っても木にロープを括り付けるだけの簡易さは勿論寝床であるシーツが地面に接していないところである。


 寝床が地面に接していないのでダニなどの小さな虫の進入や凸凹とした形状の地面や小石による寝づらさなどに悩まされる事が無いので気持ち良く寝れる。


 そして設置するにあたって当然骨組みなども無くその分当然軽い。


 いい事尽くめである。


 しいてデメリットをあげるとするならば木などロープを括る物が無い場所には設置できないという点ぐらいであろう。


 勿論、蚊や蝿対策に網の細かいネットを屋根から垂らし寝床とくっ付ける事により蚊帳の様に飛んでくる虫に対してのバリケードもしっかりと考えられているし雨の場合は水を通さない素材に変えればいい。



「な、なな……なんて画期的なテントですのっ!?私、早くもここで眠れる事が楽しみでしてよっ!」

「そうでしょうそうでしょう」



 そのテントと言うよりハンモックの亜種の様な本日の寝床にマルメティアは目を輝かせて喜んでいる様である。


 そのマルメティアを見て私も鼻が高いというものです。



最後まで悩みましたがディアから貸して頂いて良かったですわ。







「ほんと、今日一日はシャルロッテに頼ってばかりでしたわ」



 夜も更けて私達は今三角形型ハンモック状のテントで二人横に並んで寝転んでいた。


 ちなみ今日の夜ご飯は味噌を使ったスープに山菜を使った炊き込みご飯であり、それらは以前食した時も当然美味しく感じられたのですがそれよりも更にとても美味しく感じられた。



「マルメティア様も、貴族の娘とは思えない順応性でびっくりしましたわ。今日だって一回教えただけでカマドを作り火を起こせるまでになりましたもの」

「貴族の娘といえばシャルロッテ様もですわ」



 見方を変えれば軽い嫌味の様に聞こえなくも無い私のことばにマルメティアは華麗に返して来る。


 その会話のキャッチボールがなんだかおかしくてどちらからともなく「クスクス」と笑い出す。



「あの、マルメティア……一つ聞いてもいいですか?」

「はい、良いですわよ。なんでしょう?なんなら二つでも三つでも聞いてくださっても良くってよ」



 そんな雰囲気のおかげか私はマルメティアに今日ずっと聞きたかった事を聞いてみる事にした。

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