第7話悔しいという事
実技テストの後はペーパーテストである。
科目は歴史、数学、魔術、社会の四種類、一科目につき制限時間は一時間で行われる。
これら科目は主に、歴史はこの国が出来てから今までの事柄を、数学は計算式を、魔術は術式の仕組みとその歴史を、社会は周辺国家との関係から帝国の現在の状況を問題にしたものが出される。
そして今回も躓く箇所もなくペーパーテストを終えた。
強いて言うとすれば数学のテストはディアのお陰で大分楽に解けた事ぐらいだろうか?
「ふー……」
授業終了の鐘が鳴り、そんな事を思いながら誰にも見られない様に、また聞こえない様に少し長いため息を吐き少しリラックスする。
今は数学のテストが終わりこれから昼休憩である。
わたくしは鞄を手に持ち、ディアが作ってくれた魔銃剣用のケースを背負うとそそくさと教室を出て行く。
昼休憩。
この昼休憩中の教室、これはかなりキツイ時間である為教室から抜け出し出来るだけ人目の付かない場所へと移動する。
その時一緒に私物を持って行くのは盗まれない為と悪戯されない為である。
初めはトイレでお昼ご飯を食べていたのだけれど、あこはダメだ。
人が来る。
どんなに使用度が低そうなトイレであろうと来る時は来る。
それがトイレである。
狭い空間というのは心落ち着く物があるのだが、いつ人が入って来るか分からないというストレスは少なからず感じてしまうものである。
そして探しに探した結果、裏庭の雑木林、その更に奥。
私有地ギリギリの場所に開けた場所を見付けて以来そこで昼食を取るようにしていた。
ここで昼食を取るようになって一度も人と会っていない私の、寮の自室以外で唯一の心休まる場所である。
そしていつもの特等席、丸太を横に切り足を両端に付けただけの椅子に座るといつもの弁当箱を取り出し蓋を開ける。
「わあぁ…っ」
しかし、中身はいつもと違い今日はディアの手作り弁当である。
寮のみんなは朝厨房の方達が作った弁当を朝食を食べ終えた後食堂にある弁当箱置き場で自分の名札がついた弁当箱を持って行く決まりになっているのだが、今日はわたくしだけ特別である。
いや、これから毎日特別だと思うと自然と笑みがこぼれて来る。
そして弁当箱を開けるとそこには可愛い動物さん達がいっぱいいた。
「可愛い可愛い可愛いっ!!」
ブタさんに羊さん、ヒヨコさんにタコさん。
どの子も可愛くて食べるのが勿体ないし可愛そうと思ってしまう。
「ご、ごめんなさいね……おっ、美味しいっ!?」
なんなんですか!この美味さはっ!?
ライスを丸めて可愛い何かの動物の形をしたもの、カラフルで可愛らしい串が刺さった物に茶色い塊、タコさんの形をした小さなウインナー、ハートの形をしている卵の生地を丸めて固めた様な食べ物、etc。
その全てがまさに絶品であった。
冷めていてこれなのだ。冷めて無ければどれ程の美味さなのかと恐怖すら覚えてしまいそうである。
「………」
そしてそれ程までに感動してしまう程の美味しい物でお腹を満たした幸福感とは別にほんの少しの寂しさが胸を突く。
見た目もさることながら味は格別と来ている。
これ程のお弁当である。
この感動を誰かと分かち合いたいと思ってしまうのは仕方ない事であろう。
そう思ってしまうとその小さく刺さった寂しさが、いつのまにかその刺さった棘が大きくなり痛みを増して行く。
「貴女、いつもお昼時は姿が見えないと思っておりましたら……成る程、こんな辺鄙な場所でご飯を食べてましたの」
「………ま、マルメティアさん?」
このディアが作ってくれたお弁当の感動を誰かと共有したいという思いが強く突き刺さり始めたその時、枯れ草を踏み締める足音が聞こえそちらを振り返ると同時に足音の主、マルメティアさんが声をかけてきた。
「………」
しかしその後マルメティアさんは私を睨むだけなのだがその口はパクパクと何かを言いかけては止めているのが見える。
「え、ええと……な、何でしょうか……?」
そんな彼女が不備に思い言い出しやすい様に問うてみる。
「な………な、何で貴女なんですのっ!?」
「な、何がでしょうか?」
「何がでは無いでしょう!!実技で見せたあの魔杖の事ですわっ!!」
「ひぅっ!?」
「あの魔杖はどう見ても持ち主を選ぶ程の技物!!それがどうして私では無くて魔術の才能が全く無い貴女が選ばれるんですのって聞いているんですわっ!!」
そうは言われましてもわたくし自身もまさかこれ程の物になっていたなんて想像も出来なかったぐらいである。
なぜと言われればディアに作り変えてくれたとしか言いようが無い。
その事を知らないマルメティアさんは私の肩を掴んで激しく揺さぶって来る。
「黙ってないで何かおっしゃりなさいな!!」
「そ、そんな事言われましても作って貰ったとしか言えません!!」
「つ、つつつっつ、作って貰ったですってっ!?嘘おっしゃい!!」
「嘘じゃないです!」
「嘘じゃないとおっしゃるなら作った方をお教えになってはどうですのっ?」
「嫌ですっ!!誰が好き好んでマルメティアさんに教えなきゃいけないんですのっ!?」
絶対に嫌ですっ!
今までわたくしの事を存在しないかの如く扱っているかと思えば刺さるかと思う程睨みつけたり侮蔑の視線を向けて来たうちの一人であるマルメティアさんに教えてあげる事なんて何一つ無い。
むしろさん付けするのも馬鹿らしい。
わたくしがたまたまあれ程の魔銃剣を手に入れる事が無ければ一生話しかけてすら来なかったくせに。
そう思えば思うほど今までの事を思い出し怒りが湯水の如く湧き上がって来る。
魔銃剣一つで掌返したかの様に声をかけて来るという事は結局わたくしには価値が無いと言っている様なものでは無いか。
テッドと言いマルメティアと言いわたくしを人間として見ていないのではないかと思うと余計に腹が立って来る。
「貴女って人わっ!!」
その時乾いた音とともにわたくしの頬が痛みと共に熱くなる。
叩かれた。
そう思った時にはわたくしはマルメティアにやり返していた。
◆
「シャルロッテお嬢様、遅いお帰りだな」
「たまにはわたくしだって遅くもなります」
いつまでそうしていただろう。
最終的にマルメティアにマウントを取られると一方的に叩かれたわたくしは昼休憩が終わっても授業には出ず、そのまま同じ場所で倒されたままでいた。
その間声を殺して泣き続け、気が付けば周囲は薄暗くなり始めていた。
「……全く、飛んだお転婆お嬢様だな」
「う、うるさい」
何時間泣いただろうか?兎に角一生分泣いた気がするが、そのおかげか頭はやけに冴えているのだが気持ちは萎えきっており心の中は空っぽでほんのすこしだけ仄暗い。
そんな私をディアは何も聞かず頭を撫でてくれる。
すると何故か心の中に暖かい物が入って来る。
「顔にいっぱい泥や痣を付けて来てからに。可愛い顔が台無しじゃ無いか………ほら、可愛い顔に戻してあげるから」
「……うん」
ディアはわたくしに回復魔法をかけた後水で濡らしたタオルで顔を拭いてくれる。
それでも叩かれた顔の痛みは何故か引いてくれない。
「シャルロッテお嬢様が厨房に来ないもんだから一応今日の分の夕食は俺のストレージに入れてあるけど食べるだろう?ストレージだからあったかい──」
「わたくし……喧嘩しましたの」
「……そっか」
ディアは責めるでもなく叱るでもなく、只々只々優しく頷き返してくれる。
「でも……魔銃剣を使わなかったとはいえ、歯が立たなかった……勝ちたかったっ!!せめて一矢報いたかったっ!!!悔しいっ!悔しい悔しい悔しいっ!!」
そしてわたくしははディアの胸でもう出ないと思っていた涙をぼろぼろと目から流しながら嗚咽を隠そうともせず只々泣き続けるのであった。
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