第6話いつもの場所

「次、シャルロッテ!!」


 訓練場にわたくしの名前が声高々に呼ばれる。


 手に握っている、ディア曰く魔銃剣と化した私の元魔杖を握りしめ震える足に力を込め前に出る。


 この実力テストにより今後の立場が決まると言っても過言では無い為ディアの事を信頼してない訳ではないがそれでも不安は消えてくれない。


 それでもわたくしは一歩、また一歩と踏み込んで行く。



 昨日ディアが改良してくれた魔銃剣に勇気を貰いながら。







「どうした?浮かない顔して」

「明日は新学期であると共に実力テストがあるんですの。また嘲笑の的になると共に長い一年間が始まるのだと思えば浮かない顔もしますよ」



 最早愚痴であった。


 もういっそのこと登校拒否したい、なんなら学園を辞めて実家に帰りたいくらいである。


 しかし両親もとい領民からなけなしのお金を出して頂きわたくしの学費などを出してくれているという事実がそれを良しとしない。


 まあそれもこれもわたくしが美しい過ぎるパーフェクトな容姿と思考を持っているからであり天は二物を与えないという事なのだろう。


 わたくしに魔法の才能がないのもそれを考えれば仕方ない事である。



 そんな事を考えている時ディアが心配げに話しかけて来たのである。


 その事からも、さすがの魔王も私の美貌の虜になったと言っても過言では無いだろう。

 つくづく罪な女である。



「ほう……実力テストか。何の教科をやるんだ?数学と科学ぐらいなら教える事が出来ると思うぞ?」

「それらの分野はむしろ大得意です……科学が何なのか分からないのですが。それよりも実技、いわゆる魔法の実技テストが問題なのです。こればかりは持って生まれた才能による部分が大きいので……」



 そもそも魔法の才能が無いに等しいわたくしは勉学の方を重点的に力を入れて来たためペーパーテストは学園トップレベルと言っても良いだろう。



 むしろそこで取らなければ落第もあり得る為頑張らざるを得なかったとも言うのだが……。



「成る程なー……ちなみに詠唱の際に使用する魔杖とかあれば見せてくれないか?」

「はあ……別に良いですけど壊さないで下さいよ?それが無くなってしまうと次を買うお金なんて無いですし、私の為に買ってくれた領民や両親に顔向けできなくなってしまいますので」



 ペーパーテストではなく実技テストの方が壊滅的であると告げた時、なぜかディアが私が使用する魔杖を見せて欲しいと言ってきた。


 杖を変えたところで私の魔法の力量が飛躍的に伸びる訳ではないので少し疑問に思いつつ大切な魔杖をディアに渡す。


 どんな分野でもそうだが素人や才能が無い者が良い道具を揃えたからといって見違えるほど上達する訳がないのだ。


 であるならば金持ちはとっくに自分の子供達を立派な魔術師に仕立て上げている事であろう。



「とりあえず、シャルロッテお嬢様の得意な魔法とか属性とか教えてもらいたいんだが?」



 ディアは私の魔杖を手に取り興味深げに眺めながら私の得意な魔法と属性を聞いてくる。



「得意な魔法や属性どころか威力の低い無属性の魔法を何とか出せるくらいで……それも威力の低い衝撃波数発で魔力切れしてしまうレベルですの」



 自分で言ってて悲しくなってしまう程の才能の無さ。


 火球も水球も微風刃も、兎に角全属性の初級魔法すら扱う事の出来ない現実を再確認しただけである。


 これではただの嫌がらせではないのか?



「むー……意地悪です!」

「それは悪かった。そう睨みつけるなよ」

「あうあう」



 そう思いディアを睨みつけると頭を乱暴に撫でられて有耶無耶にされてしまう。


 しかし頭を撫でられ満更でもないと思ってしまうあたりディアは卑怯だ。


 それに、もっと撫でて欲しいなどと思ってしまうあたり、魔性の手に違いない。



「ほれ、出来たぞ」

「………え?」

「まず、基本形態は銃型にしてみた。これなら無属性でも高い能力を発揮できる上に空いたストレージにアイテムを入れる事により属性付与も出来る。またシャルロッテお嬢様は魔力量が少ないという事だから連射は出来なくなるが空気中に含まれる魔力で射撃できるようにした。そして連射できないデメリットをカバーを想定して近距離に近付かれた時の為に銃剣に型を決めた。ちなみに普段は銃型だがお嬢様の魔力を加えると銃剣に変形する様にしている」

「え?え?……ええっ!?」



 そこには元の原型を留めるどころか寧ろとんでもなく美しい白銀に輝く金で細工された美しい模様が描かれている細い筒の先に短剣が付いた様な見たこともない物に変化していた。


 その、売るととんでもない金額になりそうな物をディアはまるで子供のオモチャを扱うかのように無造作にわたくしの方へと投げ渡してくる。



「はわわわっ!?」

「これでだいぶマシにはなったと思うが所詮元が低レア度の魔杖だからあんまり期待はすんなよ?じゃあ今から扱い方を教える」







 そして現在、地面に印がついた箇所まで歩き、50メートルほど離れた所に立てられている鎧を着たカカシを見据えると昨日の事を思い出す。



「えっと、まずこの眼鏡をかけて……安全装置を外して……」



 その間、嘲笑と罵詈雑言は止まらない。むしろ私の魔杖もとい魔銃剣を見てそれらはより一層強くなって行くのが分かる。


 わたくしでもこの魔銃剣がわたくしに似合わない事ぐらい分かる。


 それでもこれは両親と領民の想いとディアの優しさが詰まった私だけの魔銃剣である。



 まあ、ディアは何も言わず勝手に改良しただけだし彼本人何も言わなかったのだけれども、これ程の魔銃剣…絶対高価な金属やアイテムを使って錬成したに違いありません。



 ディアの事です。



 何も言わなかったのはその事でわたくしが負い目に感じてしまうと思ってしまうとでも思ったのでしょう。


 その優しさが余計に負い目を与えてるので本末転倒です!



 そしてわたくしは目を瞑ると深く息を吸い、そしてゆっくりと吐き出しゆっくりと目を開く。



「ファイヤ!」



 まず打ち出したのはディアから頂いた炎の銃弾。


 射撃と共に魔銃剣から金色の筒、ディア曰く薬莢が弾き出される。



「アクア!」



 そしてすぐさま射撃準備に入り今度は水の弾丸を撃ち出す。



「エレキ!」



 そして最後は雷の弾丸である。


 テスト通り基本的な三種類の属性魔法、わたくしの場合属性魔弾を撃ち終わる。


 正直言うと全て失敗すると思っていたわたくしは早く終えてしまおうと一気に撃ち終える事に集中していた為撃ち出された魔弾の着弾結果をまだ知らない。


 というか、これほどの物を持って来てショボい結果だった時を想像してしまうと前を見れない。



「お、終わりましたっ!」



 兎に角この場から離れたい私は実技の内容を終えた事を告げると魔銃剣を胸に抱きしめ百八十度向きを変え元いた場所に帰ろうと視線を進行方向へ向ける。


 そこには信じられない者を見る学生達と講師の姿が目に入って来た。


 それにつられて魔弾が着弾したであろう場所に目を向けると未だに燃えるカカシ、水圧により鎧が凹んだ水浸しのカカシ、未だにパリッパリッと鎧が放電しているカカシが目に入って来る。


 そのどれも今までのわたくしからすれば、いや一学生としてはとんでもない威力であろう事は一目瞭然である。



 これを……わたくしが……?



「い、イカサマだ!こんなのイカサマに決まっている!その魔杖を俺に寄越せ!お前如きが持っていい代物じゃない!これは俺にこそ相応しい代物だ!これで俺は強くなれる!」

「な、なんなんですかいきなり!やめて下さいっ!これはわたくしにとって大切な……あっ!!」



 そんな静まり返った場に大声で叫び出す男子学生がわたくしの方を指差してイカサマだと言う割には魔銃剣を寄越せとやって来るとわたくしから魔銃剣を奪おうとしてくる。


 イカサマだと言う割には魔銃剣を奪おうとするあたり言ってる事とやってる事がめちゃくちゃである。


 そして男性と女性では力の差で勝てるはずも無く魔銃剣を無理矢理奪われてしまう。



「はは、これは俺のおぉおっ!?」



しかしわたくしから魔銃剣を男子学生であるテッドが奪った瞬間、テッドは魔銃剣に引っ張られるかの様に地面へと身体を打ち付ける。



「ぐっ、このっ、重すぎだろこれ!?ま、まだ重くなって行くっ!?だ、誰か助けてくれ!!手が潰れそうだっ!!」

「か、返して下さい!!」



 魔銃剣の重みで身動きが取れなくてなったテッドのてから私は軽々と魔銃剣を奪い去る。


 騒つく周囲。


 その騒つきは収まる気配を見せずある事ない事各々の想像で会話をしていくのが伺えて来る。



「…………チッ」

「………っ」



 その騒つく周囲の渦中をテッドは耐え切れずいらただし気にこの場から離れて行くと元いた場所に戻って行く。


 そこにはテッドを揶揄う学友の姿とわたくしを睨み付けて来るテッドの姿が見えた。


 テッドはこんな事になっても戻れる場所がある。


 こんなの卑怯だ。



「いつまでそうしているシャルロッテ。邪魔だ」

「は、はい!…す、すみません……」



 そんな、普通の学生とは──という様な光景をまざまざと見せ付けられ、取られまいと胸に抱き握りしめた魔銃剣をより一層強く握り締めた時、先生から邪魔だと言われわたくしもまた先程のテッドの様にそそくさと元いた場所へと戻って行く。


 テッドと違うのは列の最後尾、誰にも目線が合わない場所。



「はい次!マルメティア!」

「は、はいですわっ!」



 そして実技のテストは日常を取り戻したかの様に進み出す。

 いつもと同じ風景。


 一人最後尾で存在感を消す事だけに集中する。


 しかし、未だ胸に抱きしめた魔銃剣の感触だけは普段と違い温もりを感じる気がした。



「……チッ」



 そしてその姿のシャルロッテを見てテッドは舌打ちを一つ、悔しげに打つのであった。

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