第4話なんだかんだで役得には変わらない

 今俺はストレージから出したトランプを使い召喚主であるシャルロッテ御嬢様とポーカーを嗜んでいた。


 どうやら俺はゲームのキャラクターの姿と能力、所持品などを所持している状態でこのシャルロッテ御嬢様に召喚されたみたいである。



 とはいえいきなり召喚されたのだが向こうでは疎遠になった学生時代の旧友と呼べる者はいるのだが現時点で友達と呼べる存在はおらず、仕事の休みは平日の週休一日の為旅行どころかホワイト企業に勤めている旧友達とも遊べない。


 もちろん異性との出会いも無く結婚などしておらず、30半ばの俺には親と呼べる存在も生きてはいない。



 いや、厳密には産みの親と呼べる者はいるのだが同年代の金持ちと不倫の末に離婚した瞬間再婚した者は親とは呼ばないし呼びたくもない。


父とは年の差婚であったため気持ちはわかるが、それでは本能のまま生きる動物と何が違うと言うのか。


 複数の男性を愛したいのであればそれが認可されている国に行ってするべきである。


 その為心残りと言えば残して来た職場の後輩ぐらいのもので、ある意味目の前の御嬢様にはデスマーチから抜け出してもらい感謝している節はあるが、なまじ美少女なだけに御嬢様の御父様から子作りプレッシャーを受けるのは非常に辛い日々を送っているとも言える。


 あの日から同じベッドで寝ている身としては蛇の生殺しである。



 しかし、その果実は「トラップだけど引っかかってしまってもお咎めは無いよ。そのかわり逃しもしないけどね」とデカデカと書かれているのである。


 未成年に手を出すのは犯罪だという日本人としての常識とシャルロッテお嬢様のお父様からのプレッシャーにより何とか我慢できているに過ぎない。



「むむむむっ…」

「なら俺は更にチップを追加でベットする」

「むむむむむむっ………こ、この自信……余程良い手なのでしょう。ですのでここは降りますわ。戦略的撤退というやつですっ!!」



 だからこそのポーカーである。


 もちろんお互いに賭けているものは存在する。


 俺の場合は『一週間だけシャルロッテ御嬢様が寝るベッドではなくて床で寝る』という事を賭けており、お嬢様の場合は『頭を撫でる』というのを賭けている。



 そんなもの命令すれば良いのでは?と聞いみると「それは友達に対する扱いではないですよね?私は友達に撫でて貰いたいのです!」とフンスと鼻息荒く語っていた。


 こちらとしてもシャルロッテ御嬢様ほどの美少女の頭を撫でる事は願ったり叶ったりである為寧ろご褒美なのだが、まずは蛇の生殺し生活からの脱却が最優先事項である。


 そのシャルロッテ御嬢様は「フォールドですわ!」と自らの手札を自信満々に捨て場に捨てる。


 その手札はツーペアである。



「ではこのチップは頂こう」


 ちなみに合計点数ではなくチップの総数で勝敗を決めるルールにしており、フォールドする事にリスクを伴わせる為にチップを一枚賭けるという特別ルールでプレイしている。


 当然チップがゼロになっても負けであるしベットする場合は二枚からである。


 そして俺はそのルールに従いチップを一枚シャルロッテ御嬢様から頂く。



 ワンペアを捨て場に捨てながら。



 ちなみチップ代わりはお嬢様と一緒に厨房で頂いた蛤の様な二枚貝の貝殻である。


 厨房に行く際は、角や魔眼に翼は装備品枠のアイテムの為外し、シャルロッテ御嬢様の執事という事で挨拶している。


 角や魔眼、翼を外せると知ったテッド様から正式に執事としてもシャルロッテお嬢様に仕えるよう言われている為嘘は付いていない。



 しかし今の所給金が無いので職業として執事とは言えない為執事の様な者 (ヒモ)が正しい表記である。



「わ……ワンペア……だっ、騙しましたねっディア!?」

「いや、これ騙し合いのゲームみたいなもんだしな。それに俺のワンペアはツーペアすらも退けれるポテンシャルを持っていると信じていたし事実そうなっただろう?即ち俺は何も嘘をついていないし……そもそも俺の手札がツーペア以上だと言った覚えもないのだがね」



 俺の手札がワンペアと知り異議申し立てをしてくるシャルロッテ姫なのだが、そもそもそういうゲームなのでその申し出はピシャリと跳ね除ける。


 もともとポーカーや麻雀などといったものは学生時代に嫌と言うほどやって来た経歴がある俺からすればシャルロッテ様は捨てるカードが素直過ぎる上に感情が表情に出やすく、有り体に言えば鴨がネギを背負っている状態でしかない。



 もともと友達がいなかったと公言しているところからこういった遊びの経験は少ないのでは、下手すれば経験すら無いのではないのかと推理していたのでがそれが見事に的中した事になる。


 即ちこのゲームは出来レースなのである。



「ディ、ディアはそこまでしてわたくしと一緒に寝たく無いのですか?」



 見捨てられた子犬のように、縋る様に見つめて来るシャルロッテ様はそれはそれで可愛いのだが言ってる言葉を誰かに聞かれでもしたらと思うと気が気ではない。


 内容だけ聴くとR指定マークが付いて認識されてもおかしくは無い内容である。



「……シャルロッテ御嬢様、私も一緒に寝たいのです。しかし御嬢様と私は友達ではあるものの男と女であられます。そして友達と言うのは同性同士でしか一緒に寝てはいけない決まりがあるのです」



 そして俺は一度シャルロッテ様の顔を見据え慎重に、そして真剣に話を切り出す。


 シャルロッテ様の様子からして間違いなく男女の営み云々は無知と言っても良いだろう。


 その為その部分には触れない様に配慮して優しく指摘する。



「そうなのですの? では、どの様な関係ならばわたくしはディアと一緒に寝れるのですの?」



 そして俺の話を聞いたシャルロッテ様は内容を理解してくれたみたいなのだがまだ一緒に寝ると言う事を諦めていないらしく純粋な、純度百パーセントの瞳を向けながら質問してくる。



 その無垢さを汚したい、いっそ一回襲ってやれば嫌でも分かるだろうという気持ちが湧き上がるのを、俺を産んだ女の顔を思い出して一気に霧散させる。


 この時ばかりはあの女に毛先ほどの感謝を思う。



「そ、そうだな、世間一般的には恋人……いや、結婚して夫婦にならないと一緒には寝れないと思うぞ?」

「では大丈夫ですね。良かったです!」



いやいやいや、どうしてそうなった!? 俺の話を聞いてたんですかねっ!? この箱入り娘は!!



「いやいやシャルロッテ御嬢様、俺とシャルロッテ御嬢様は夫婦でもなければ婚約者同士でもない。なんなら主人と使い魔の関係であろう? どうしてそこから大丈夫だと思えるのか甚だ疑問なのだが?」



 いやもうホント疑問ですよ!! なんなんですかね! アホなんですかね!? アホなんですね!!



 そう叫びたい気持ちをぐっと堪えて心の中で叫ぶ。


 この御嬢様は出会った当初からそうではないかとは思っていたのだが、男性に対しての危機管理能力が壊滅的に損傷していると確信する。



 よくここまで他の男性に食われなかったものだ、まったく。



「だってお父様が帰る時に言ってましたの。男性はその女性が初めて異性と一緒に二人で寝た場合責任をもって娶らなくてはならないと。そしてわたくしは初めてだったのです」



 俺の問いかけにシャルロッテ御嬢様はどうだと言わんばかりに胸を張る。


 そしてそれと同時に震える胸を当然凝視する事は忘れない。お胸様に罪は無いので当然である。


 しかし、シャルロッテ御嬢様の言葉は間違えていない。


 間違えていないからこそ言葉の解釈の違いを説明する事の難しさに背筋に汗が滲み出る。



 赤ちゃんはコウノトリが運んで来るとか本気で思ってそうなのが怖いんだよな。



「それはその……あれだ。そのーだな、ただ一緒に寝るだけじゃダメなんだ」

「そ、そんな……っ!? で、ではどうやって一緒に寝ればいいんですのっ!?」



 とりあえずボカシにボカシ肝心な事は伏せた上で一緒に寝るだけではダメだと教えてやるとシャルロッテ御嬢様は愕然とした後その方法をものすごい勢いで聞いて来るのだが勿論教えるつもりなどは無い。



「そうだな、それを知りたければまずポーカーに勝ってからだな」

「ぐぬぬぬ……言いましたからね! わたくしが勝った暁にはちゃんとしっかり男性が責任取って娶らなくてはならない方法とやらを教えるのですよっ!!」



 何この斬新なプロポーズ……。



 そう思いたくなる様な言葉をシャルロッテ御嬢様は言質を取ったと言わんばかりにディアに詰め寄り宣うと「ふふん」と偉そうに胸を張る。


 その表情は明日にでもポーカーに勝てると信じて疑っていないからこそのドヤ顔である事が手に取るように分かってしまうのであった。







 虫も寝静まる丑三つ時、俺は自分自信の爪の甘さとシャルロッテ御嬢様の常識の無さを嘆いていた。


 何故ならば俺は今日も背中に感じる柔らかな感触や人肌に息遣いのせいで満足に寝れない夜を迎えて悶々としているからである。



 確かに俺は『一週間だけシャルロッテ御嬢様が寝るベッドではなくて床で寝る』という事を賭けて見事勝ち取った。


 しかし、『シャルロッテ御嬢様と別々に寝る』という事は賭けていなかったのである。


 そしてその結果、俺はシャルロッテ御嬢様と仲良く床で寝る羽目となったのである。



 もしシャルロッテ御嬢様がこの事に気付いたのだとすれば……そんな勘ぐりをしてしまうがすでに後の祭りである。


 シャルロッテ御嬢様が気付いていようがいまいがこの状況に変わりなく俺がただの道化である事も変わらない。



「うむぅ……ディア……うへへ」



 その可愛い寝言と共に今日もディアの安眠は遠退くのであった。

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