第3話溺愛し過ぎて一周回った父親心
「……手紙に書かれている通り魔族、しかも名前、苗字、家名と名があることから貴族…翼、角、魔眼に服装を見るに王族かそれに近い出であろう」
ディアを前にして四十代の男性が難しい顔をしながら唸り声を上げる。
その男性の一挙手一投足にシャルロッテは敏感に反応し、どこか落ち着きが無い。
「一応、私の事はお嬢様の一使い魔と思って頂き結構です」
「いや、しかしだな……なんとお詫びして良いものか。それに貴方様程の存在を使い魔にした事が魔族側にばれてしまえば戦争は待った無しであろう」
「私は魔族の国とは無関係と考えて頂いて結構です。ですのでお父様が考えるような事は起こらないかと」
「いやしかし、例えソナタの言う事が事実であったとしても魔族を使い魔にした事には変わりない。それをきっかけにして何が起こるか分からない」
そしてディアと会話している男性こそシャルロッテの父親であるテッド・ヨハンナ・ランゲージその人である。
シャルロッテはディアを召喚した事を翌日手紙で実家に伝えており、その二週間後今こうしてテッドがシャルロッテの部屋までディアに会いに来たのである。
「それに娘と同じ部屋に男性というのも………」
そして父テッドにとっての一番の心配は娘シャルロッテの事であろう。
年頃の娘と男性が同じ屋根の下で暮らすなど親として如何なものかと文句の一つでもと思っていたのである。
しかしそれを口にしようとしてテッドは気付いてしまう。
娘はもしかすれば結婚出来ないのでは無いのか?という確信にも近い未来予想図に。
そもそもランゲージ家は辺境の貧乏貴族である上に子供はシャルロッテしかおらずおまけに魔法の才能は皆無と来た。
貴族の男性を婿に貰おうにもまず相手にもされないであろうし、だからと言って平民の三男四男などとなると貴族の肩書きすら無くなってしまう可能性だってあるのだ。
そして考える。
目の前の男性魔族はどうだろうか?と。
器量良し、翼に角と魔眼から魔法の才は間違いなく折り紙つきであろう。
さらにまだ会ったばかりだが話し方からも少なからずその人となりが伝わって来る。
「まあ……使い魔だから致し方ないのかもしれないね!」
そして出した答えはお買い得な物件なのではないのか?という答えである。
ディアが「お父様!?」と言っている所からも彼の人となりが伺えるというものである。
「ちなみにシャルロッテは嫌かね」
「むしろもっと言って欲しいです!ディアさんはわたくしと一緒に寝てくれないんですのよ!?しかも床で寝るんです!!」
我が娘の発言に少し過保護に育て過ぎたかと思わずにはいられないのだが、この時ばかりは願ったり叶ったりである。
このまま既成事実、それも赤子を身篭ろうものなら王族の可能性がある魔族を使い魔にした事が万が一バレたとしても赤子を盾に出来るかもしれない。
まあ、もしそうなったとしてもその赤子、いわば私の孫は渡さないのだが。
「男女七歳にして席を同じゅうせずと言う言葉が私の国にございます! もしなにも無くとも噂は避けられないかと思いますのでここはお父様からビシッと言ってやって下さい」
「わ、わたくしと一緒に寝たくないのですかっ!? ディア!?」
「その発言が最早アウトなんですよ!!箱入り娘にも程があるでしょうっ!?」
「別に良いんじゃないかな? うん」
「なっ……!?」
「ですよねお父様!!」
私の発言にディア君が固まってしまった。
もともと娘の発言で素の表情が出てきていたように思えるのだからそこに私の発言で固まってしまう、もとい絶句してしまうのは仕方ない事なのかもしれない。
しかしこれも娘、ひいてはまだ見ぬ孫の可愛さ故である。
魔族とのハーフ、それは辛い未来なのかもしれない。
貴族という地位剥奪どころか国外追放だってありえる。
しかし、孫の顔を拝めないという事ほど辛い未来はない。
そして、今年で十六歳になろうとしている娘にいまだそう言った浮いた話が来ないことからこのチャンスを逃せば近い未来である可能性が高いのである。
はっきり言って私は娘が十歳の頃から浮いた話一つないこの現状に可愛い娘の孫が見れないかもしれないと言う可能性に怯えて生きてきたのである。
「いやいやいやいやっ!? ダメでしょう!!」
「実の親が良いと言っているのだ。どこがダメだというのかね?」
「いや、いやいやだって……えぇー……?」
そして必死になってすがりついて来るディア君には悪いがこの話は終わりとばかりに私は一息つくと立ち上がり脱いだコートを羽織ると出口へ歩きだす。
「娘には産まれてから今日まで婚姻話が無くてだな……孫の顔を見れる可能性ができてホッとしたよ」
いまだ納得いってないディア君の横を通り過ぎる時、娘に聞こえないようにディア君の肩にポンと手を置き耳元で囁く。
魔王が現れ希望がさすという言葉があるがまさにこの事だなと私は胸のつっかえが一つ取れた気分で思うのであった。
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