停滞期

 二浪の末に大学に合格した僕は、2年の夏に二輪の免許を取った。


 1年の時、ディズニーランドのアルバイトを始め、そこで知り合った彼女は市川に住んでいた。仕事以外の時に会うのが簡単ではなく、それが辛いところではあった。


 その頃、僕は免許を持っていなかったから、橋があった頃なら電車で一駅だったところを、大きく迂回するバスで行くしかなかった。あるいは、ちょっと気合を入れたら自転車で行くことも可能だったかもしれないが、当時の僕は、かなり無謀な距離だと思っていた。


 オートバイの免許を取ったのは、これで彼女とも会いやすくなると思ったからだ。それなら四輪の免許だろうと言われるかもしれないが、当時僕は実家ぐらしで家に車を置く余裕もなく、また駐車場を借りてまで車を保持する財力もなかったから仕方ない。


 とにかくオートバイを手に入れたことで、ディズニーランドへの通勤(といってもアルバイトだが時給はよかった)も楽になったし、彼女とのデートも格段に便利になったことは確かだった。


 市川橋を使えれば彼女ともっと早く会えるのにと思うことはしょっちゅうあったが、江戸川大橋を使えばなんとかなったし、ディズニーへは、環七から湾岸道路で行けたから苦労はなかった。


 いつしか、総武線や国道14号線が無くても困らないようになっており、新市川橋の失敗や渡し場の消失も、僕にはさほどの問題ではなくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る