第2話
「私、晴山先輩の事が好きで……付き合ってほしいんです。駄目ですか?」
目の前にいる女が上目遣いで僕を見た。
それが駄目なんだよ。
「ごめん。俺、君の事を今初めて知ったし、そんな子に急に付き合ってって言われても無理かな」
「これから知ればいいじゃないですか」
女はくねくねしながらそう言った。
面倒くさい女だな。
「実は今、気になってる人がいるんだ。だから、ごめん」
お前になんか興味ねえよ。
女はムッとして去った。
そういうところも可愛くないんだよ。
「可愛かったのに。勿体なー」
そう言ったのは友人の遊佐海人だった。
「どこが。上目遣いとか気持ち悪いだけだろ。てかいつからいたんだよ」
「ずっといたよ。後つけてんのに気づかないんだもん、笑った」
海人には母親がいない。
幼い頃に失踪したそうだ。
海人は父親が母親の妊娠中に不倫をしたせいだと言っていた。
母親はそれで心の病になったが、父親は母親が弱いからだと、自分の非を認める事もしなかったという。
海人は普段、陽気だ。
よく笑う。
だが、その瞳の奥に、本人が抱えきれていない寂しさが見える。
それは思わず目を逸らしたくなる程のものだ。
だけど僕は本人も気づいていない、それから目を逸らす事はしない。
この少年をこれ以上傷つけたくないから。
「碧生?人の話、聞いてた?」
「ごめん。何だっけ?」
「昼!何にする?って。食堂行くだろ?」
僕はうんと返事をした。
僕は生姜焼き定食を、海人はハンバーグ定食を頼んでテーブルについた。
「さっきの本当だろ?」
「さっきの?」
「気になる人がいるって」
「本当だよ」
「誰?」
僕は食堂を見渡して速水まどかを見つけるとそちらを顎で示した。
海人は速水まどかの顔を見ると少し動揺したような表情をした。
「どうかしたか?」
「いや、どうもしないよ。でも何で速水?」
「顔がタイプだから」
僕は嘘をついた。
「そっか。俺は速水、苦手だな」
海人が目を逸らした事で嘘をついたのが分かった。
海人は嘘をつく時必ず目を逸らす。
海人は速水まどかが好きなのだろうか。
僕はとりあえず気付かぬふりをした。
「食べよう」
「うん」
その後、海人は淡々とハンバーグ定食を口に運んでいた。
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