Blue

ひろ

第1話

僕の母は毎週日曜日、パートと嘘をついて男に会いに行く。

何故そんな事を知っているのかというと、1年前に母が僕の知らない男とホテルから出てくるのを見てしまったからだ。

僕が何故そんな所に出くわしたかというと、当時付き合っていた先輩と初めてのセックスをする為に安いホテルを探し回っていたからだ。

その日、僕はホテルには入ったものの、モノが勃たず、初めてのセックスは出来ずに終わった。

その数日後、先輩に他の男がいた事が分かり、手を繋いだだけで別れた。

そんなこんなで僕は女性不信に陥った。

そして何をしても勃たなくなった。

僕の人生はもう終わっている。

だが、今、とても気になる人がいる。

2年生に上がり、クラス替えをして出会った女子だ。

彼女は僕と同じ目をしている。

生きているのにもう人生終わってますという目だ。

僕は彼女と話がしたい。

話しかけてみよう。

そう思った。

ただ、僕は何故か女子にモテる為、すけこましのように言われる事もある。

だから警戒心の強そうな速水さんが素直に応えてくれるか心配だ。

それでも話し掛けるけど。

「速水さん」

「はい」

速水さんは張りぼての笑顔で応えてくれた。

「速水さんって現代文得意だったよね?教えてくれないかな」

僕がそう言うと速水さんは若干怪訝そうな顔をした。

「どうかした?」

「うん……晴山君、成績いいのに何でって思って」

「現代文で、どうしても理解できない所があってさ。駄目かな?」

僕は頭もいい。

だが現代文だけは苦手だった。

特に主人公がその時何を思ったかとかの問題が僕には理解できない。

他人が何を思うかなんて分かる訳ないじゃないか。

「……分かった。いいよ。どこが分からないの?」

よし、かかった。

「ありがとう。前の席、座っていい?」

「どうぞ」

「夏目漱石のこころなんだけどさ、ここの主人公の……」

言いながら僕が顔を近づけると、速水まどかはさりげなく椅子を引き、僕と距離を取った。

やっぱり。

速水まどかは男が苦手だ。

僕は他人の弱点を見抜くのが得意だった。

「どうしたの?」

「ううん。ごめん、やっぱり他の人に教えてもらってくれる。じゃ」

速水まどかはそう言うと席を立って教室を出て行ってしまった。

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