沈殿都市

 目に見えないもやもやしたものが地面の上に溜まって歩きにくくなったのは、今から三十年ほど前のこと。

 車も電車もゆっくりにしか走れなくなって、道路や線路は高架化した。建物の中や地下など空が見えない場所にもやもやが溜まることはなかったが、もやもやが入り込まないように道路より低い位置にある出入り口や窓はふさがれた。道路は順に上へ上へと作られていったため、多いところでは三層になっている。

 この旧道路に遊びに行くのが最近の流行だ。何も見えないのに、まるでゼリーの中を歩いているようで、とってももやもやするのだ。

 ただし、下層まで行き過ぎると戻ってこれなくなってしまうから気をつけなくてはならない。

 オフィスの一階の締め切られた窓から外を見ると、ときどき何時間も同じ場所でもやもやと動けなくなっている人がいて、見ているこっちももやもやしてしまう。そのたびにレスキューを呼ぶのだが、その助け出される様子もゆっくりもったりしていて、ますますもやもやするのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る