水溶性

 テレビの天気予報で明日は雨だと言っている。

 夫が居間に入ってきたからそれを伝えようとすると、彼も同じことを言おうとしていたのか、「明日」と言う二人の声が重なった。驚く私に彼は微かに笑う。

「明日、雨だってね」

「ええ」

 庭の物干しには、私達の婚姻契約書が洗濯バサミで吊るされている。

 彼から切り出された契約破棄に応じようと思ったのは、彼のことを嫌いになりたくなかったからだ。契約破棄を決めた次の日に、役所に預けておいた婚姻契約書をもらってきた。その日のうちにバスルームで溶かしてしまおうと彼は言ったのだけれど、私は雨で溶かそうとお願いした。まだ離れたくなかったのだ。自分の意志ではどうにもならないタイミングで引き離されるなら仕方ないと思えた。

「契約した日は晴れだったから、契約破棄は雨の日にしたいの」

 そう言うと彼は納得してくれた。最後のわがままくらい許してやろうという気持ちだったかもしれない。

 その雨が明日降る。天から与えられた猶予期間は七日だった。

「明日が楽しみ?」

 そう聞くと彼は困った顔でこちらを見る。でも、否定はしなかった。

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