謎ワイン

 産地や歴史や材料や飲み方について一通り説明してから、僕は彼女に聞いた。

「こういう話つまらなかった?」

「ううん、そんなことないわ」

 そう言いながらグラスを手にとって、彼女は首を傾げる。

「あら、茶柱?」

「それはモミの木」

 さっき説明したのに。

 内心がっかりしながら僕はもう一度説明する。

 グラスの中では赤い雪がひらひらと舞い降り、小さな家やモミの木に積もりつつある。早く飲まないと底で固まってしまうから大変だ。

 早口で話す僕に構わず、彼女はグラスを掲げる。

「乾杯」

 彼女がそう言うとグラスが弾け飛び、僕らの上に赤い雪が降ってきた。彼女は驚いた顔で天井を見上げる。

「だから乾杯しちゃだめだって言ったのに」

「ごめんなさい。でもほら。綺麗」

 彼女は雪を手のひらで受けて微笑む。もうどうでもいいか、と僕もグラスを掲げる。

「乾杯」

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