「次に会う時は呑み明かすとしようや!」 byラックル

「面倒な挨拶は嫌いだから一言だけ。ラックルだ、よろしくな。さて、今回のゲストは物騒な美女だ。どうにも心をくすぐられる取り合わせじゃないか。とりあえず、自己紹介を願おうか」

『おう、ユフィーリア・エイクトベルだ。よろしくな』


「へへっ、見た目は華奢な銀髪美人の癖に、凄まじい存在感を放ってやがる。しかも、死臭と血の匂いがプンプンしやがるときた!あんた、まともじゃねえな?」

『すげえな、お前。そこまで分かるんか。――そうさ、俺はまともじゃねえ。なにせ化け物と契約した天魔憑きなんだからな、まともな奴がいたら頭の中身を疑うべきだぜ。ちなみに全ての化け物を殺せと契約した美人な鬼さんのお達しでな、死臭と血の匂いがすげえのは誰よりも殺しまくってるからだな……自分で言っててやっぱり俺ってまともじゃねえな』


「そうかい。要はバケモンと契約して、今度は自分がバケモンになって、しかも性別まで変わったってわけだ!はっは、嫌いじゃねえぜ、そーゆーのはよお」

『あー、やっぱり分かっちゃう? そうだよなァ、こんな喋りする女いねえしな……ていうか最初は大抵が騙されるのによくお前、俺が元々「男」だったって分かったな。なにお前、俺のストーカーかなにかなの? ちょっと切断していい?』


「そんな怖い目で見なさんなよ。それこそ、数多の天魔とやらのようにスッパリ両断されるのは御免だしな。あと、名前を呼び捨てにするくらいは勘弁しろや。それがイヤってんなら、いっそ『最強』とでも呼んでやるが?」

『別にどうでも。俺の名前自身が呼びにくいからな、なんならユーリって呼んでくれてもいいぜ。――おいコラ、今ちょっと「最強」って呼んだ時に笑ったろ? 半笑いだったろおい?』


「やれやれ、いちいちおっかねえなあ。とりあえず、物語のあらすじでも放ってみたらどうだい?」

『そことりあえずって済ませんのか……あー、えっとあらすじだっけ。ちょっと待っとけ、山下の野郎から預かった原稿がどっかにあるはず。


えっと、なになに……分かりやすく言うと、空から落ちてくる謎の怪物「天魔」によって人類は地上を追放されて、地下深くに【閉ざされた理想郷】って全部で三階層から作られる大都市を築く。

天魔に怯えながら過ごしていた人間様を助ける為に、天魔と契約をして中途半端な化け物「天魔憑き」となった俺らが天魔との戦争の記録――だとよ。改めて見ると、ろくなことしてねえな』


「ははっ、自分達が見捨てた人間に助けてもらおうなんて、【閉ざされた理想郷】とやらの臆病で厚顔な引き籠り共はダッセエなぁ。あんたも、内心ではそう思ってるんじゃないのかい?」

『いや正直なところ俺も思ってたんだよな。いいんじゃねえの? 地下に引きこもってれば。どうせ地上を奪還したところで怯えて出てこねえんだしよ。人間ってのはそういう身勝手な奴らなんだよ、建物のぶっ壊しただけで怒るし』


「所詮、人間なんざ我が身を優先するエゴイズムの塊だからなァ。低俗極まるってやつさ。それよりあんた、不老不死なんだろ?かぁー、羨ましいねえ!オレさんにもそんな能力があれば、肉体の衰えを気にすることもなく、殺されるまで永遠に戦いを楽しめたってのによ」

『あー、そこちょっと問題。天魔憑きは正確には不老不死じゃねえ。不老不死って聞くとどんなことをやっても死なねえって印象だろ? そこ違くて、外的要因がない限りは死なないんだよ。例えば人間が引くような風邪や生活習慣病、寿命なんかじゃ死なない。だけど戦死、事故死は適用される。頭を殴られれば死ぬ可能性だってあるし、天魔との戦いで死ぬ可能性もある。人間から見れば羨ましいだろうが、ちょっとは人間性も残ってるんだぜ? 羨ましいならお前も天魔憑きになろうぜ、天魔は腐るほどいるから』


「天魔憑きとやらになるってのは却下だな!オレさんはオレさんだ!他の何にもならねえよ。しかし、外的要因なら死ぬってのがますますいいねェ!勝つのがわかってる戦いなんざ何も面白くねえ!お互いに命をすり減らす、ギリギリの死闘なくらいがちょうどいい!あんたも、オレと似たような存在のはずだぜ?お互いに戦場でしか生きられねぇ!違いがあるとすれば、戦を作業として冷めた目で見ているか、戦にこそ熱くなるかって点くらいだろうよ」

『だって人間様の一部は俺ら天魔憑きを「悪魔憑き」とか言ってくるんだぜ? 飲食店や風俗店の入店拒否もざらにある。だから俺らの居場所は戦場しかねえ……人間の輪っかから外れるってのも厄介だよな。消去法だよ消去法』


「はっは!グダグダ言わずに現状を受け入れるその割り切った考え方!オレさんは好きだぜ!あんたがオレさんの事を嫌おうと、オレさんはあんたが気にいった!」

『あー、はいはいそりゃどうも。ワー嬉シイナー』


「ははっ、そういうダウナー気質なとこもいいねェ。人は自分と似て非なる存在に惹かれるっていうが、オレさんにとってのあんたがそれかもな」

『そりゃ俺もお前が美人で可愛い女の子だったら少しはやる気を出したよ。――ともあれ、俺もお前が気に入ったな。頭のおかしそうなところが特に』


「はっ!皮肉のつもりなんだろうが、オレさんにとっては最高の褒め言葉だ!とりあえず、他のお仲間や登場人物についても語ってくれや。あんたもいろいろと事件に首ツッコんできたんだろうし、片っ端から挙げてたらキリがねえだろ。とりあえず、序盤あたりに出てくる主要な面子だけでいいぜ」

『主要メンツって言ったらこいつらだろ。

まずはうちの最高総司令官、グローリア・イーストエンド。味方には優しく甘く、敵には厳しく卑劣な天才司令官。実のところ、今まで戦死者を出してねえのはこいつのおかげだ。

次にうちの最高総司令補佐官、スカイ・エルクラシス。ただ他人と五感を共有するだけの異能力なのに、広範囲まで使い魔を飛ばして戦況を探る情報官――いや、こいつは異能力の使い方においては天才的だぜ。面倒臭がりだけどな。

最後は俺の相棒、ショウ・アズマ。昔は誰の命令でもほいほい引き受けるお人形ちゃんだったんだが、今じゃすっかり人間らしくなってな。正確無比な射撃能力と、生きている奴ら全員を消し炭にする異能力はさすがの一言だ。重度の甘い物好きで……あれこいつそういや俺と一回りも歳が離れてねえか? え、嘘だろ!?』


「へぇ。お仲間や上官はともかく、ガキのお守とは大変だなぁ。……と言いたいところだが、案外満更でもねえって面だな」

『ガキってショウ坊のことか? そりゃ一回りも歳が離れてりゃそうだろうが……あいつは優秀な奴だよ。ショウ坊がいなけりゃ俺は今ここに立ってねえかもしれねえからな』


「ありゃ、そいつぁ意外だ。相棒と言うだけはあるみてぇだな。ああ、そうだ!今度こっちに来る時は、仲のいい奴ら全員連れて来いや。こっちで一番上等な酒場に案内してやっからよ。なんなら、樽単位で注文もできるぜ。そのショウってやつが呑めるかどうかは知らねえがな」

『言ったな? 俺は鬼神と契約した天魔憑きだから肝臓は強いぞ。それに限らず天魔憑きは生活習慣病なんかにかからねえから、いくら酒を飲んでも内臓が劣化することはねえ。だから、覚悟しておけよ?』


「構わねえ、浴びるほど呑みなァ!っと、つい話し込んじまったな。名残は尽きねえが、最後に締めの言葉ってやつを頼むぜ。できれば景気良い奴をよ」

『空から落ちてくるのは女の子――だったらよかったんだけどな。怪物と俺ら奪還軍の戦いを見にきてくれよな。色々と好き勝手なことをしてるからよ。え? なにしてるかって? そりゃ見てのお楽しみだよ』


「はっ!じょーでき、上出来!んじゃ、今回はこれで仕舞いだ。元の世界でも達者でな、ユフィーリア!今度来た時は酒を奢らせろや」

『よっしゃあ!! お前の財布を破産させてやるぜェ!!』

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