第14話

 あの場所から、どう戻ったのかおれにはどうも思い出せなかった。

「風邪引いてないか」

「うん、大丈夫」

 おれたちはさっきまで、裸でひどく寒い場所にいたのだ。

「心配ないよ」

 絵美の肩を抱き寄せる。

「おれがいるから」

 そうだ。いまはただ、おれの部屋のシングルベッドでまた絵美と寝ている。その現実だけがここにはあった。

「ねぇ、なんか雰囲気変わったね」

「そうかな」

「変わったね」

 細々とした声がもう一度同じ台詞をなぞる。

「そりゃ」

 おれは泣きたい気持ちを堪えていた。

「変わるよ」

 絵美は不思議そうにおれの顔をずっと見つめていた。

「時間が経ったんだ。時間とともに人は変わるんだ」

「どうして、変わってしまうの」

「どうして、しまう、なんて悲しい言い方するんだよ」

 おれは彼女の頬を軽くつねる。

「変わっていく、んだ」

「変わっていく」

 絵美が真似をする。

「変わっていくんだ。生きているからね」

「生きている」

「そう、生きているんだよ。おれたちは」

 絵美はなにが可笑しいのかけらけらと笑った。

 彼女は本当に長いこと笑っていた。笑い終わってから、おれがリモコンを手繰り寄せかつての自分たちのセックスの映像をスクリーンに流すと、また笑い始めた。

「なんでこんなのまだとってあるの」

 過去のおれは、赤子の頬でも撫でるような優しい手つきで絵美を愛撫していた。

「おれたちのからだのホクロの数、知りたいなと思って」

 過去の映像に住む彼女はくすぐったそうに身をよじっている。

「嘘つき」

 いまだって、くすぐったいような顔をしている。

「嘘なんてついてないさ」

「あなた、こんなに子供みたいな人だったのね」

「そうだよ、いまごろ気づいたの」

 おれは映像と、いま目の前の彼女の裸とを交互に見て、ホクロの数を数えた。

 「イーチ」

 「ニーイ」

 「サーン」

 ここにもある、

 『ヨン!』

 そこでやっと、二人の声が揃った。

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