3 ギルドの愉快な仲間達 上

「ところでさ、藤宮」


「ん、どうしたの?」


 定例会とやらが行われる場所に向かいながら、少し気になった事を聞いてみる事にした。


「ギルドってさあ、表立った仕事じゃねーんだろ?」


 一般的に認知されていない様な精霊を相手にしているんだったら、表立った活動は出来ないと思うしな。


「まあそうなるわね。こんな仕事を表立ってやっていたら私達ただの痛い人よ」


「その裏稼業を始めた俺から見ても、お前は充分痛いけどな」


 そう言った直後に……思いっきり足を踏まれた!


「……ッ!」


 ヤバイ……必死に声は殺したが死ぬほど痛い……ッ。

 な、なにしやがんだ藤宮の野郎……ッ


「痛かった? これでお互いさまね」


「い、痛いのベクトルが違うぞ!」


 くそ……痛みが引かない……小指をタンスの角にぶつけた並の痛さだ。


「で、そんな事聞いてどうしたのよ」


 藤宮は何事もなかったようにそう返してくる。

 ……せめてちょっと謝ろうよ。まあもう慣れるしかないから適応するけど。

 あの親父の下でずっと暮らしていたから、適応能力だけは自身があるしな。

 俺は小さくため息を付いてから藤宮に言葉を返す。


「漫画とかだとこういう仕事をしている組織って、カモフラージュの為に表では違う仕事をやってる事が多いじゃん。ここはどうなのかなって」


「なんで漫画と現実をごっちゃにして話しているのよ……怖!」


「い、いいじゃねーかよ!」


 そもそも置かれた状況が漫画みたいなんだしよ。


「……まあやっているっていえばやっているわね」


「へえ、アレか? 喫茶店とか?」


 定番で行くと喫茶店とかになるだろう。


「うーん、それも考えたんだけど止めたわ。結構難しそうだし」


 へえ……違うのか。

 まあ店舗経営とかって難しそうだしな。

 この不況の時代だとそう簡単に人は来ないだろうし……いや、来なくていいのかこの場合。

 まあ喫茶店の話は別にいいや。


「じゃあ結局何にしたんだ?」


 俺がそう聞くと藤宮は照れ臭そうに答える。


「えーっと……ヤクザ」


「なんでだあああああああああああああああああッ!」


 あまりのぶっ飛んだ回答に思わずシャウトする。


「ヤクザ!? 何故に裏稼業隠すためにそんな隠さないとマズイ様なブラックな事やってんの!」


「いや、ね……偶々見た任侠物のVシネマが面白かったのよ」


「んな理由でヤクザになんじゃねーよ!」


「なによ! Vシネの何が悪いっていうの!」


「Vシネは何も悪くねえよ! 悪いのお前の頭!」


 やっぱりだ……やっぱり発想が痛々しいぜ藤宮……ッ。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん」


 全力でツッコむ俺に、ミホちゃんは笑いかける。


「ヤクザさんはね、世界を守る良い人達なんだよ!」


「いや、一ミリも合ってないからね!」


 俺がそう言うと藤宮が俺にチョップを食らわせた。


「子供の夢を壊さない」


「できれば俺はミホちゃんの間違った夢と認識ごと、お前の思考回路を粉々にぶち壊したい!」


 今すぐにでも粉々にしたい! っていうかこんな所に身を置くミホちゃんの将来が心配だ!


「……まあ心配しなくてもヤクザってのは名目上で、実際にはそういう活動はしていないわ」


 いや、名目上でも充分アウトだろ。なんか色々と……ご近所付き合いとかさあ。


「あ、周囲の目は大丈夫だから。怖い人達とかとは思われていないわ」


「だとしたら多分痛い人達って思われてるぜ、お前ら」


「お前らって他人行儀ね……あんたもその一員なのよ?」


「……忘れてた」


 そういや……俺ギルドに入ったんだったな。

 そんなやり取りをしていると、俺達は会議室と書かれた部屋の前にたどり着いた。


「さ、着いたわよ」


 藤宮が扉を開くと、そこはまさに会議室と呼べるような一室だった。


「あれ? 人数少なくないか? 五人しかいないぜ?」


「まあ私が高校に通っている時間此処を空けているのと同じで、全員が常に揃っている訳じゃないのよ。ま、全員揃っていても三十人程だけどね」


「なるほどな」


 組織って聞いたからもっと多い物だと思ってたけどそうでもないんだな。コレはアレか? 少数精鋭って奴か?


「まあ今日居るメンバーは内のギルドの主要メンバーの人達だし、タイミングが良かったと言えば良かったわ」


「まあ……そういう事なのか」


 俺としてはこういうのは一気に覚えておきたいんだけどな。

 後で名前を知らない人に話しかけられても反応に困る。


「はーい。みんな注目!」


 藤宮が部屋の中心へと向かいながら手を叩いて呼びかけると、そこに居た全員が俺達の方に視線を向け、こちらに歩み寄ってきた。


「ほら宮代君。さっさと自己紹介しなさい」


「ええっ! いきなりかよ!」


「そう、人生はいきなりの連続よ。突然借金一億円を背負うことになったり、ヤクザになったり予測出来ない事ばかりなのよ」


「全部お前の故意による出来事だろうが!」


 俺は藤宮にそう言い放ち一歩前に出る。

 あー。状況は何にせよ、やっぱり自己紹介ってのは恥ずかしいな。

 転校してきた時の自己紹介も割りと緊張してたし。

 ため息を付きながら、しぶしぶ俺は適当に自己紹介文を構築した。


「えーっと宮代椎名です。よろしくお願いします」


 出来上がった紹介文はテンプレ以外の何者でもなかったが。


「一昨日の自己紹介の時もそうだったけど、もう少し印象に残る自己紹介とか出来ない訳? 例えば弾け飛ぶとかさあ」


「それ自己紹介以前に、間違っても人間に求めていいもんじゃねーだろ!」


 俺は再びため息を付く。

 ……っていうか一昨日ってオイ……マジかよ。

 つまり俺は転校翌日に無断欠席した上、家に一人で居る佳奈になんの連絡もいれずに帰ってこないなんていう不良みたいな事になってるんだよな。

 まあ一昨日ってことは今日は土曜日で学校は休みだし二日も休む様な事態にならなかった訳だし、学校の方はとりあえず良しとしよう。


 でも佳奈の方はどうだろうか。

 喧嘩した上に二日も無断で家を空けちまってるからな。早く連絡取らないと。


「じゃ、このままみんなの自己紹介もしておきましょうか。折村君から……いや、折村君は別にいいか」


「なんでだよ! させろよ自己紹介!」


 さっきの通販番組の体験者役だった人。折村さんがそう叫んだ。


「別に自己紹介しなくても、アンタの名前と、アンタが怪しい通販でコメントしている感じの人っていうのは、既に宮代君は認知してるわ!」


「なんで俺そんな風に認知されてんの! そうさせたのお前だろ!」


 ああ……どうやらこの人も藤宮に振り回されている様な人っぽいな。


「んーじゃあ、色々と残念な人っていう紹介文はどうかしら」


「俺が何時そんな紹介される様な素振り見せたよ!」


「ほら、えーっと……先週」


「お前それは……忘れろよ」


 なんかやったのかよ……折村さん。


「とにかくだ! 俺は普通に自己紹介するぞ」


 そう言って折村さんがこちらに歩み寄ってきた。


「俺は折村隼人。お前の一つ上だ」


「一つ上って事は……高校生ですか」


「ああ、学校も同じ。バッタリ会ったらよろしく頼むぜ」


「はい、よろしくお願いします」


 折村さんも藤宮の暴君っぷりに頭を悩ませてそうだし馬が合うかもしれない。


「あ、あとよ」


 付けくわえるように折村さんは告げる。


「俺……別に残念じゃないからな」


「あ、はい。えーっと……そういうことにしておきます」


「なんで一瞬迷ったんだ! なあ!」


 ホント……先週この人の身に何があったんだろう。

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