第36話 グァム沖海戦の事(4)
ガレオンを船首と戦列艦の船尾が錯綜した瞬間、慶次様、宗厳様、千代女ちゃん、その他5名の忍者が飛び移った。
敵も予備の水夫が甲板に上がってきて、サーベルや剣などの得物を持って待ち構えています。
でも、一緒に飛んだ藤八、弥三郎は転移の戻って貰う。
「あれれ、なのです」
「わちゃです」
「二人は駄目だよ」
「どうしてなのです」
「まだ、千代女ちゃんに勝った事が一度もないでしょう」
「千代さんは強いです」
「とにかく、一度くらい勝てるようにならないと許可を出さないわよ」
「無理難題なのです」
「しおしおです」
藤八、弥三郎にとって千代女ちゃんはかなり高い壁のようだ。
まぁ、玉に慶次様にも勝っているくらいだからね。
なんて言っている間に戦列艦は帆を張り直して先行する。
「だらぁ! 強い奴はいないのか?」
あっ、慶次様が怒っている。
無双しちゃっているよ。
100人近くいる水夫を8人で制圧するメンバーって凄いね!
「あの程度なら楽勝なのです」
「いえやぁです」
未知なる敵はいなかったみたいです。
何となくごめん!
◇◇◇
さて、ガレオンから十分に距離を取った所で佐治艦長が再び叫びます。
『いきあし、おもか~じぃ、いっぱ~い、門、開け!』
行き足は船を低速で進ませる事だ。
風に対して、帆を流すと推進力を失って惰性で進み始めます。
つまり、船体がほとんど直角に戻る訳です。
ゆっくりと右が回頭しながら、右面にある55砲が顔を出します。
手隙の者は大砲の方に走ります。
「信長様、こちらに」
「判った」
「この者が合図を出しますので御下知を!」
信長ちゃんが
測定士がプリズム式測距儀の前で距離を確認しています。
やっと使ってくれた!
敵戦艦とかの距離や方角を正確に測る器具なんですよ。
測定士が手を下げた瞬間、信長ちゃんが叫びます。
『ウテ!』
ずどぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!
五十五砲のすべてが一斉に火を拭くのです。
逃げた5番艦は丁度1,500m先に達した所でした。
おそらく、逃げ切れそうだと思った頃でしょう。
天空から孤を描いて舞う砲弾の雨をどう思ったのでしょうか!
『ちゃくだ~~~~~~~ん、今!』
だぁ~ん、船に当たった砲弾が爆発し、外れた弾が大きな水柱を上げています。
音がわずかに遅れて返ってきます。
「あちゃ! 当たり過ぎよ」、「むぅ~、まずまずですな」
佐治船長は納得していないようです。
55発中10発が命中し、木造のキャラック船の上甲板からなっぷたつに一瞬で崩壊します。
キャラック船は撃沈です。
おっと!
他の船から白旗が上がりました。
この圧倒的な戦力差を見て戦意を失ったみたいです。
「佐治さん、人命救助!」
『帆を張れ』
普通なら船と一緒に沈んで助かりません。
甲板にいた人とかが稀に生き残るくらいですよ。
普通ならね!
AIちゃん、生存者検索。
“YES、マイ、ロード”
意識のない人はそのまま中央大広間に転移して!
意識のある人は海底10mに転移させて意識を刈り取ってから再度転移する。
“了解”
えっ、どうして船を向かわせるのかって?
カモフラージュだよ。
500m級のガレオンは最低100人くらい乗船している。
その全員を見殺しにするのは目覚めが悪い。
船員を回収した後にキャラックも回収です。
マストが折れて船底から海水が上がってくる一隻もグァム島まで何と曳航できました。
めでたし、めでたし、じゃなかった。
めっちゃ、怒られた。
2番艦『大成丸』が到着していたんだよ。
◇◇◇
「私は帰ってきた」
「毎回、同じ台詞ですな!」
「長門君、ノリが悪いな」
「忍様、お茶と茶菓子を用意しております」
「ありがとう、藤吉郎」
みんな大好き那古野城の倉街の客間だよ。
那古野城だと色々と面倒なので、こちらで会っている。
「今日は遅うございましたね」
「まぁ、色々とあってね!」
普段は千代女ちゃんと二人だけど、今日は慶次様、宗厳様、千代女ちゃん、藤八、弥三郎、長谷川、山口も一緒です。
でも、智ちゃんらは置いてきた。
総勢421名の捕虜の世話で大忙しなんだよ。
2番艦『大成丸』の家臣団のみなさんも船酔いでまだ体調不良です。
智ちゃんらには迷惑掛けるよ。
で、体調不良のみなさんが信長ちゃんに危険な事をさせたと怒るんだよ。
「そりゃ、怒るでしょう。やっとの想いで到着したら、信長様一人で海賊退治を終えていたのでは面子も立ちません」
また、怒られた。
長門君もあちら側の人間でした。
「ともかく、信長様を連れて乗り込まなかっただけでも幸いです」
「慶次達は凄かったですよ」
「100名近くいる敵にたった8人で無双したのです」
「打っては流し、千切っては投げていました」
「そうですか」
「さらなる後継者を育てて、次は一緒に行こう」
「はぁ、かならず」
信長ちゃん、長門君の扱いが上手だ。
421名の内、奴隷155人は織田の取り分として貰い受ける。
残り266人の艦長と船員はガレオンに詰め込んで帰って貰う事になった。
「スペイン王に織田の領地に手を出すなという手紙を送らない?」
「下手に刺激すると拙くありませんか」
「船団の者が一人も返って来ないなら別の船団を送ってくる。彼らを返せば、織田の事はいずれ知れる。時間の問題よ」
「厄介な事をしてくれましたな」
「仕方ないじゃない。勝手に向こうが来たんだからさ」
長門君がこめかみを抑えて溜息を吐きます。
「そんな眉間にシワを寄せていると、早く老けちゃうわよ」
「誰のせいですか!」
「私のせいじゃないわよ」
「いいではないか」
「信長様が言われるならば」
「忍に自覚あれば、こんな事にならないわよ」
「忍だからな!」
「忍様なのです」
「はいです」
「致し方なし」
「そうだな」
庇ってくれているのよね!
庇ってくれているのよね!
スペイン王には信長ちゃんから親書を送る事で決定した。
仲良くしましょうと言うお手紙だよ。
日出ずる処の天子、書を日没する処の天子に致すだ。(※)
えっ、天子は駄目っ!
恐れ多くって絶対に駄目って、長門君が鬼の形相だ。
せめて国王が付けるよ。
これを付けないと舐められからね。
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