第32話 南国慰問旅行の事(3)

うひゃあぁぁぁぁ!


「もっと右」

「信長様、合体なのです」

「藤八、もうちょっと!」

「なのです」

「よし!」

「ハートマーク、完成です」


今日は信長ちゃんらの希望でスカイダイビングを飽きるまで楽しんで貰っている。


信長ちゃんらがやっているのは、フォーメーションスカイダイビングだ。


あらかじめ決められたフォーメーションをどれだけ正確に早く作れるかを競う競技ですが、純粋に信長ちゃん、藤八、弥三郎、忍者の方々で楽しんでいます。


最初は大きな円から小さな円になる程度ですが、今ではハートマークから五輪の華に変化しています。


回数をこなす度に複雑な図形に挑戦していますね!


慶次様や宗厳様、長谷川、山口とかはまだ水夫ごっこに夢中です。


船で遊ぶのがそんなに楽しいのかな?


私達はビーチでビーチチェアに寝転がり、フルーツジュースを堪能しながら千代女ちゃんに尋ねたのです。


「千代女ちゃん、スカイダイビングって何かの訓練になるの?」

「ならないと思うわよ」

「ですよね」


護衛の忍者君らも遊びたいんだね。


今日は、遊び場所は『タモンビーチ』だ。


青い空、透明度が抜群のエメラルドグリーンが広がる海が美しいビーチで一度は来て見たいと思っていたのだ。


ホント、美しい海だ。


昨日みたいに砂浜にビーチチェアを広げるのもいいけど、今日は一工夫した。


水上コテージ風に足場を組んで、ガラス張りの広場の上にビーチチェアを広げている。


足元には魚さんが泳いでいるのが楽しめる水上庭園だ。


智ちゃんらも楽しめばいいのに、ビーチの方で私達の食事を甲斐甲斐しく準備してくれている。


いい子だね!


智ちゃんの旦那さんは倉街で藤吉郎と一緒にお留守番だ。


「地球って、本当に丸かったのね」


千代女ちゃんがぼそりと言った。


散々言ったのに信じてなかったのか?


今朝は宇宙服みたいな物を信長ちゃんらに着せて衛星軌道まで飛んだ。


これは最近の私の日課だ。


1時間おきに何度が飛んで地上の映像を取ってくる。


その映像を見ながら、その日の練習艦2番艦『大成丸』の航路を考えている。


出港した日は台風がグァムの東北にあったのよ。


それを見越して、東よりに進路を取ったのに中々移動しないので、ミッドウェー沖まで東進する事になるのかと心配したわ。


台風は3カ日目から西に進路を取り始め、今は沖縄の東にいる。


「「「忍様!」」」


信長ちゃん、藤八、弥三郎らが着地転移を終えて走ってきます。


「信長ちゃん、一回休憩いれたら?」

「はい、そうします」

「僕もフルーツジュースなのです」

「私もです」

「智ちゃん、ジュース3つ」

『は~い!』


好きなだけ飛んでいいっていったけど、これで何回目だ?


さっきは3重の輪からハートマークに変化し、五輪の華になるスカイウォークです。


そんなに楽しいのかね?


私も嫌いじゃないけど、ジェットコースターを連続で何回も乗るのは嫌だな!


この世界には飛行機が存在しない。


空挺部隊ない世界では無用の長物なんだね!


ビーチチェアに座り、ジュースを飲みながら信長ちゃんが私に聞いた。


「今川はいま、どこですか?」

「明日には岡崎に入ると思うわ」

「あぁぁぁ、休暇もおしまいね」

「千代女ちゃんは残る?」

「そう言う訳に行かないでしょう。私達はここにいない事になっているしね」

「予定より2日も長くいられたんだから御の字でしょう」

「まぁ~ね!」


そう、慶次様も宗厳様も千代女ちゃん、その他の小姓も随行団から外れている。


逆に世話役として智ちゃんら奥女中と賄い方、倉街・出島の技術者を選んで人数を調整した。


信長ちゃんの護衛を誰にするかで武術大会も行われ、柳生と倉街の武術家で独占させた。


本当に強い人は出場させていない。


織田の槍の名手、織田 造酒丞おだ みきのじょう織田 造酒佐おだ みきのすけが出ると言い出した時は焦ったよ。


実際、柴田勝家よりずっと槍の名手で宗厳様も苦労している。


慶次様なんて子供扱いだ。


信長ちゃんがいない間に今川や斉藤が攻めてくるのは必定、「造酒丞が留守では、織田が負けてしまします」とか言って、出場を辞退して貰ったのよ。


そもそも那古野の家臣じゃないでしょう。


まぐれで勝ち上がった無頼漢は百地丹波のように調教したから問題なしだ。


もちろん、後々は倉街の警邏のメンバーにご招待だ。


夕方になると、一度那古野に戻っている。


毎日、長門君も元気だよ。


嫌味が板についてきた。


 ◇◇◇


昨日の夕暮れの事です。


「ヤッホー、長門君。元気している!」

「元気そうに見えるなら、顔を洗い直した方がよろしいでしょう」

「せっかく、側用人そばようにんに昇進させて上げたのにつれないな!」

「それが原因ですがね」


那古野に信長ちゃんが不在となれば、意志決定できる人が不在となる。


まさか、林 秀貞はやし ひでさだ平手 政秀ひらて まさひでや他2名のおとな衆に任せる訳にもいかない。


「うん、面白いかな? おとな衆に洗いざらい教えて見る?」

「冗談はよして下さい」

「忍、どうなるのか、判っていっているの?」

「千代女ちゃん、為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけりって、言葉があるんだよ」

「たぶん、使い処を間違っていると思うわ」


因みに、那古野城の仮城主は信勝ちゃんだ。


末森の決定で、邪魔者……………こほん!


もとい、信長ちゃんの弟君とその重臣を那古野城に派遣してくれた。


信勝が仮城主をしている。


その小姓も一緒に那古野入りして、色々と騒動を起こしてくれている。


『海では何でも難破と言う危険な事が起こるそうだ』

『某も聞きましたぞ。野分のわけ(台風)にあった船は一隻も戻らぬそうですぞ』

『信長様が戻らねば、この城は信勝様の物』

『つまり、この城は我らの物と言う事ですな!』

『『『『はぁ、ははっははぁ!』』』』


勝手な事を言っているらしい。


那古野では末森と同じようにいかない。


特に武士優先ではなく、作業優先でやっている。


一番顕著な例でいえば、荷車や魚屋などの通行が優先であり、武士が避ける事を義務付けている。


当然、庶民が避けてくれると思っているからトラブルを起こしている。


また、食事処でツケは利きません。


いつもニコニコ現金払いだ。


道場に通っている人夫さんが多いから、喧嘩も強かったりする。


『火事と喧嘩は江戸の華』なんて言葉もありますが、『喧嘩』は日常茶飯事です。


みんな、血の気が余っているよ。


蔵人らもその餌食になっているみたいです。


迷惑なのは出島や倉街に押し入ろうとする事だ。


出島や倉街は許可のない人は入れません。


もちろん、身分を翳しても入れません。


青山や内藤を捲き込んで、「見せろ! 見せろ!」と騒いでいます。


いっそ、見せてやろうか!


蔵人ら歩けば、棒に当たる。


全部、その苦情は長門君に上がってきます。


ご愁傷様です。


長門君も、平手のじいさんに頼んで、信勝の小姓である蔵人らを嗜めて貰った。


『そなたらは、今度は竹姫様の従者をさせてやろう』

『何故、某らが!?』

『騒ぎを起こした罰じゃ! まぁ、大した事はない。玉に戦場などを横切ったりされるから、それだけを気を付ければよい』

『普通、横切らんだろう』

『あの竹姫がわざわざ遠回りもする訳もあるまい。火の海でも平気で真ん中を通られるお方じゃぞ。詳しい話なら敵大手門の前に丸腰で連れ出された池田 恒興いけだ つねおきにでも話でも聞いてみるがよい』


人選は間違っていない!


ねぇ、私の悪口を言われていない。


私、『ナマハゲ』(※)じゃないのよ。

さて、仮城主の信勝ちゃんはどうなっているかと言うと客間で引き篭もっていたりします。


もちろん、以前の引き篭もりとは違うよ。


奥女中が渡した絵素草紙が気に入って、昼夜を忘れて読みふけっているらしい。


藤八がお気に入りの奴を渡したそうです。


何を渡したんだ?


まぁ、信勝ちゃんには私からの『万事、長門守に任せるべし』という手紙を送っているので那古野城でする事もなく、丁度いい暇潰しになっているみたいね❤


ただ、那古野の食事は美味しいらしく、食事の時間になられると姿を現すらしい。


「うん、問題なし!」

「問題だらけです。日々、今川が迫って来ております。志摩守だけでも帰って来て頂けませんか?」

「だって、千代女ちゃん」

「私が姿を現したら余計にややこしいでしょう?」

「私が軍議に出ている間、作業が滞るのです。代わりに誰か指示を出して頂かないと」

「私がいるって判ったら、私も軍議に呼ばれてしまうわよ」

「あぁ、そうでございましたな」


千代女ちゃん、領民はいないけど100万石の領主だからね。


しかも千代女ちゃんが100~200人程度の甲賀衆を使っている事を那古野の家臣団方は承知している。


根ほり歯ほり聞かれるね!


絶対、軍議にひっぱり出されるわ!


そう、そう、言い忘れたけど、長門君も2,000石の領主に昇進しました。


側用人そばようにんと言う役職は、江戸時代の側用人と言うより、現代の内閣官房長官に近い権限を持たせてみました。


信長ちゃんが不在の時は、信長ちゃんに代わって判断できるのよ!


しかし、城も領地もない者が家老と譜代衆の中間職とは『片腹痛いわ』とか言う奴がいたから、中島の中島城と2,000石を長門君に譲渡してやった。


そりゃ、他の城主達は怒っていました。


普通は小姓から組頭、あるいは、足軽大将の次席からスタートです。


それがいきなり家老職の次席ですよ。


しかも領地が2,000石です。


林ファミリーの与力筆頭の前田家でも2,500石です。


中堅のトップ集団に踊りでたのです。


これで妬まれなかったら、その方が不思議だね?


「判っているなら、止めて下さい」

「これも試練と言う事で!」

「ありがた迷惑です」

「まぁ、行政のトップだから仕方ないよ!」


はぁ、長門君が長い溜息を吐いた。


「下らない事を言ってもはじまりませんので、ご報告と連絡を順次してゆきます」

「お願いします」


毎日のように、私と千代女ちゃんは那古野に戻って来て、長門君や將監(千代女の叔父)から報告を聞いている。


必要なら現地に飛んで確認もする。


各地で色々とやってくれている。

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