第23話 深謀遠慮、岩村遠山は織田に近いの事。
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景任は岩村城主であり、三遠山と言われた苗木・明知・岩村の1つです。
妻は織田信定の娘でおつやの方は信秀の妹です。
景任は決して織田と仲が悪い訳ではありません。
それどころか、最近は木材を大量に買って貰って大儲けをしております。
織田は福の神でありました。
一方、
その明智光継は謀略で明知遠山氏に息子を押し込みました。
それが恵那郡明知城主、
〔 光秀の祖父、明智光継って癖者だったんだよ。(※)〕
斎藤家において明知遠山氏の扱いは悪いモノではありません。
また、明知遠山家は宗家の岩村遠山家を立ててくれます。
決して、悪い関係ではありません。
ただ、嫡男の
義龍が家督を継げば、西美濃を重用すると思われます。
それが不安要因でしょうか。
このまま東美濃の遠山宗家である岩村遠山氏を大事にしてくれるとありがたいのですが、中々に難しい局面になっています。
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稲葉山城で評定が行われた翌日に、景任は同じ東美濃の恵那郡明知城主、
「これ景任殿、昨日の今日、いかがなされましたか」
「折り入って話があり、罷り越しました」
「とりあえずは一献」
「忝い」
にごり酒を口に含みながら、景任の目は笑っていません。
「先月、病気と偽っておりましたが、実は尾張に行っておりました」
「信秀が病かどうかを調べにでも行かれましたか」
「いやいや、そんな事は露知らず、織田普請とは如何なるものかと、人夫に扮して汗を流してきました」
「は、は、は、大胆な事をなされる」
景任の目に映った那古野は馬鹿そのものでありました。
手当は普段の倍も出し、家や食まで宛がう。
人夫まで酒や甘味など贅を尽くした生活をしている。
クジラが取れたと言って、人夫に振る舞うなど正気を疑った。
「鯨を喰われたのか?」
「喰った。喰った。大きな椀に二切れも入った鯨汁を二杯も馳走になったわ」
「如何でござった」
「美味かった。以前に食べた奴より何倍も美味かった」
「それは羨ましい」
「京に持ってゆけば、一切れ1貫文になる肉を無償で振る舞うとは正気を疑った。まるで赤子が自分の凄さを自慢しているように思えたな」
「なるほど」
那古野には道場、風呂、遊楽、食い道楽とありとあらゆる物が詰まっていました。
織田がそのほとんどを整えている。
町が活気に満ちていると言えば聞こえはいい。
しかし、そんな無茶な散財を続ければ、すぐに破綻する。
織田信長は気が狂った。
楊貴妃に誑かされたと噂がありますが、然もありなん。
それが景任の結論でした。
「織田は持ちませんか!」
「持たんと思っておった。昨日の評定を聞くまではな!」
三カ国による尾張封鎖は誰の目から見ても度を越した対応です。
何をそんなに織田に怯える必要があるのか?
何と言っても東美濃も大損です。
すでに切った木材をどこに売れと言うのでしょう。
それは岩村遠山だけでなく、明知遠山も同じはずです。
ただ、正室の小見の方を持つ
此度の評定で問題にされたのは不破の関です。
不破の関が未だ開いている。
南宮の札を持つ者は参拝客であって、商人でも旅人でもないなどと詭弁を吐いたのです。
「お館様、どうか少しだけお目溢しを。百姓達は食うに困っております。荷が落とす銭が生きる糧でございます。それを止めるは死ねと同じ事でございます」
「今日、明日の事を言っているのではないわ」
利政は通直の胸ぐらを掴んで放り投げた。
そして、今川からの書状を皆に見せた。
今川の書状には、
「確かに驚きました。『織田普請』は兵を集める口実であったとは」
「それが荷止め、人止めの真の狙いだったのですな!」
「未だに信じられません」
「儂は那古野に行っておきながら気が付かなかった。儂の目も節穴だな。だが、言われてみれば、そういった節があった」
「それは如何に?」
「まず、剣術が扱える者は黒鍬衆と言う集団に入れられる。仕事は同じだが銭が倍になる。皆、道場に通って、黒鍬衆になろうと剣術に励んでおった」
「ほぉ、なるほど、自ら鍛錬させる訳ですな!」
「さらに仕事は5組に分担され、1組みは『くろすぼう』と言う弓の出来損ないの訓練をしておった」
「織田の人夫は弓が使えるのか」
そう、出来損ないであっても数万の兵が一斉に弓を撃てば、脅威となりうる。
一年もあれば、それなりに戦えるようになるかもしれない。
「那古野城ができる頃には、数万の兵が生まれておりますな」
「そういう事だ」
「恐ろしい!」
「だが、もっと恐ろしいのは南蛮貿易だ。あれで巨万の富を手にいれる事ができるか? それを為す為に南蛮貿易に手を出したのか? 儂は
「殿(利政)より、恐ろしい方かもしれませんな」
「で、南蛮船は見られましたか?」
「見て来たぞ。弁財船を一回り大きくした感じであったが、迫力が違った。帆立に張られた帆が白く美しかった」
「それほどに」
「金を出せば、
「まぁ、如何でござった」
「速かったぞ。向かい風と言うのに、すぐに安濃津に着いてしまった」
「向かい風ですと?」
「南蛮船の凄い所は向かい風を苦にせん事らしい」
「織田はそんな恐ろしい船を手に入れたのか!」
景行の酒のペースが早くなってゆきます。
これから戦う織田の背中が段々と大きくなってゆくからです。
「今思えば、背筋が凍る事がもう1つあった」
「それは?」
「子供に読み書き、算術を教えておった」
「読み書き、算術ですか?」
「しかも無償だ」
「無償で? あり得ませんな」
「昼前に寺子屋で勉学を教え、昼以降に仕事をさせて、100文の手当を出す」
「昼からで100文も!」
「笑ってしまうだろう」
「何を考えているのか? 織田は…………そういう事か!」
「そうだ! 本気で天下を取るつもりなら、話は別じゃ!」
「文官を育てておるのだな」
「そうじゃ、大量の文官を今から育てておるのじゃよ。
土地を奪えば、終わりではありません。
武将は手柄を立てて終わりですが、領主になるとそれでは終わりません。
作物がどれくらい取れるのか?
どれくらいの百姓がいるのか?
特産物はあるのか?
そこから兵を何人雇えるのか?
領主になるには算術も重要になってきます。
最低1人は算術のできる者を雇わないといけません。
日ノ本を統一するには、一体どれほどの文官を揃えないといけないのでしょう。
今から準備するなど、普通の者は考えません。
織田の本気度が見え隠れしています。
「なぁ、景行殿、織田はこの包囲網が読めてないと思われるか?」
景任の話の核心はここであった。
織田が包囲網を考えていなかったのか?
答えは否です。
今川義元も斎藤利政もそれを承知していると景任は確信しています。
だから、あれほど不破に激昂したのだ。
「時間が経てば、織田は益々力を付けましょうな」
「ゆえに殿(利政)は焦っておられる」
「今ならば、二倍、いやぁ、三倍の兵力で押し潰せましょう」
「武田は10倍の兵で負け申したぞ」
「ならばこそ、今なのでは?」
「そうであろうな! 今でも数万の人夫が那古野にいる。あれが兵になった日には三国合わせても勝てるかどうか」
「…………」
「花火を御存じか!」
「聞いた程度です」
「空を覆い尽くしたと見て来た者が言っておった。織田には火薬がごまんとありますぞ」
「ごまんとですか」
「ごまんとです」
「織田から討って出てくる事は?」
「人夫が兵になるまでは-ないでしょうな」
「城を改修して籠城ですか!」
「今日はこれまでとしましょう。後日、また来させて頂きます」
そう言って、岩村遠山氏当主の景任は頭を下げた。
明知遠山氏当主の景行は酒を飲んで、今日の事を忘れた。
否、忘れようとした。
しかし、『内山崩れ』がどうしても頭に過った。
◇◇◇
私は待たされるのが嫌いだ。
待たされるくらいならこっちから出掛けていった方が楽です。
「もうちょっと落ち着きなさい」
「ファッション雑誌を見て、お菓子を食べている人に言われたくないわ」
「忍の護衛中よ」
「どこが?」
「無敵の人をどうやって護衛すればいいのか判らないのよね」
「無敵に護衛はいらないのです」
「忍様に必要ありません」
藤八と弥三郎が読んでいるのは『ド〇〇もん』だ。
タイムマシーンが云々と言われるかと、どきどきしているとちょっと違った。
「どうしてすぐに逃げるのか判らないのです」
「腕力で敵わないなら技を磨くべきです」
「道具を与えるより日々の鍛練をするべきなのです」
「道具に頼ってばかりでは駄目です」
ロボットの対応がお気に召さないようだ。
あ~だ、こ~だと言い合っている。
慶次様と宗厳様も格闘漫画をベースに様々な格闘技を研究している。
とりあえず、剣道、柔道、大東流柔術、ボクシング、キックボクシング、レスリング、中国拳法関連の草紙を作って出しておいた。
可成のおっさんも加わって武術の研究を行っている。
日本版のマーシャルアーツか、コマンドサンボが生まれそうな勢いだ。
因みに、
倉街の警邏員には相当の使い手の武術家が500人もいる。
慶次様と宗厳様、あるいは、宗厳様の父である家厳に負かされた人達だ。
見込みがあると褒めて警邏で雇ったらしい。
倉街の警備は万全になったけど、藤吉郎では荷が重かったんだよね。
まだ、子どもの上にひ弱だしね。
そういう意味で、可成は警邏長に適任だ。
もちろん、装備もスペシャル待遇だ!
倉街の警邏の制服は判り易く迷彩服で統一している。
タングステンとチタンで編んだパーカー風の迷彩服は見た目以上に強度が高い。
非常時には、迷彩服の上に兜(ヘルメット)、胸当て、籠手、脛当てを上から装備する。
RPGによく出てくる軽装装備だ。
みんな武闘家なので安全より動き易さを追求した一品だ。
まぁ、この特殊な迷彩服を着ている限り、槍や矢が刺さる事はない。
衝撃まで殺せないから、死なないと言う訳じゃないぞ。
みんな、安全第一でがんばって!
◇◇◇
暑い!
外に出ると茹だるような暑さが襲ってくる。
みんな、あれだけ動いてよく熱中症にならないもんだ。
おぉ、利家と権六が練習台にされている。
二人は丈夫だから丁度いいんだろうねぇ。
おぉ、あれは『
以前は『空気投げ』と呼ばれた幻の技の1つだ。
「今の技は何なのですか?」
「すれ違っただけで飛んだです」
「弥三郎、これは研究の価値があると思うのです」
「うん、行くぞ!」
「待ってなのです」
藤八と弥三郎が庭に走っていった。
「暑いのに元気ね」
「千代女ちゃんは練習しないの?」
「パス、涼しい時にする」
智ちゃんと一緒に刺繍をしている月ちゃんも頷いている。
うん判る。
日焼けは嫌だよね。
「智ちゃん、お皿を用意してくれる」
「はい、何に使われますか?」
「かき氷しようか!」
「はい、判りました」
智ちゃんの顔がぱっと明るくなった。
「天井裏の人と、智ちゃんらの分も用意するんだよ」
「ありがとうございます」
月ちゃんらが一緒に台所へ走っていった。
暑い日は氷が一番だよ。
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