第26話 荒子城より先はまだ海だったの事。
那古野城でごろごろとしていた私であったが、このまま那古野城にいると嫌な予感がしたので散歩に行く事にした。
「どうして付いてくるの?」
「暇だからかな?」
「どうして、疑問形を疑問形で返すかな」
千代女ちゃんはマイペースな女の子です。
慶次様と宗厳様は私の小姓だから付いて来ています。
というか、慶次様がいないと馬を操れません。
弥三郎と藤八は流石に那古野城外に出られないので、大量の絵草紙を残してきました。
城に戻ったら、『おら、海賊になるぞ』とか言い出さないかな?
言い出したら言い出したで面白いけどね。
延び延びになっていた熱田観光です。
味噌味の焼き鳥はファーストフードか!
余り甘くない饅頭もあったね。
店では焼き魚も食べられて、おいしかったよ。
まぁ、米は玄米だけどね。
えっ、那古野城でも食べているって、それは言わないのが約束なんだ。
「ねぇ、なんか注目されているかも?」
「かもじゃなく、されているわよ」
「どうして?」
「まぁ、忍は目立つからな」
そんな風に飯屋で食事をしていると、知らない人が走って来ます。
「これは、これは、竹姫様」
「誰?」
「私は熱田神社の宮司をさせて頂いております。
おぉ、桶狭間で戦死した
季光さん、『加納口の戦い』で戦死してないかいって………やっぱり戦死している。
2回目で戦死するのか?
そう言えば、家老の
信秀にとって『加納口の戦い』の敗戦って、鬼門じゃねぇ?
たっぷりと特等席で熱田神社を参拝できたよ。
でも、足が痺れた?
「ねぇ、どうしてずっと罪人座りをしていたの?」
おぉ~~~、忘れていた。
正座は一般化するのは、三代将軍徳川家光が正座を正式な座り方と制定してからだった。
それまでみんな、あぐらか、片あぐら、建膝が普通だったんだよ。
「ねぇ、それより何でみんな、私を拝んているの?」
「さぁ、どうして?」
だから、疑問形を疑問形で返さないでよ。
「慶次、どうして」
「知らん」
「宗厳は何か気がついた」
「申し訳ござらん」
「どうしてよ」
何で私を拝むのよ。
(昨日、一緒に乗った弁才船の船乗りが、忍様を山の神だと触れまわったからです)
◇◇◇
熱田から東に鎌倉街道が延び、鳴海を通って三河に抜けてゆきます。
西に向かうのは、北の那古野に上る道、津島近くの佐屋宿を目指す佐屋路、船で桑名湊に渡る七里の渡しがあります。
(佐屋宿から桑名湊まで木曽川を渡る『三里の渡し』)
那古野から東方面に飯田街道、善光寺街道、木曽街道に分かれ、西方面に美濃路、稲生(岩倉)街道に分かれます。
熱田も那古野も東西に延びる街道の要所なのです。
「海だ!」
「海ね。さっきも見たよね」
「こういうのは気分なのよ」
熱田の先は海が広がっています。
佐屋路も2kmほど戻って、熱田の一の鳥居まで上がってから西に曲がっています。
熱田の横に海岸が続き、沼地のような浅瀬が広がっているのです。
まだ、TOHOシネマズ名古屋ベイシティも名古屋競馬場も海の底なのです。
土岐川(庄内川)まで湾のように広がってます。
海岸沿いに進んでゆくと、前田家の居城の荒子城が見えてきました。
荒子城から200mほど下るだけで、そこはもう海なのです。
土岐川に近づくと堆積物で中洲のような岬ができています。
でも、今はまだ人が住んでいないようです。
天正に入ると、下之一色城や東起城の建設ラッシュが来るのでしょうね。
沼地からドジョウを回収して、賄い方に渡すと、ドジョウ鍋とドジョウの天ぷらを作ってくれた。
賄い方の創意工夫がすばらしいわ。
◇◇◇
草木も眠る丑三つ時…………じゃないよ。
申の刻(午後3時)には始まった宴会は延々と続き、亥の刻(午後9時)を過ぎてやっと終わりが見えてきました。
下戸の信長ちゃんっていうか!
子供にお酒を飲ませようとしちゃ駄目でしょう。
えっ、元服したら大人だって。
私は認めません。
みんな酔い潰れて終わる頃には、子の刻(午後11時)に近づいていましたよ。
さぁ、恒例のニューヨークタイム。
ぽちゃん。
「ねぇ、ねぇ、荒子城より先は海よね」
「はい、海です」
荒子城のまわりには、六田池、大和ケ池、念仏池など沼地が多い。
その近くに舟入と言う小さな漁村があるのを除けば、それより下は荒地が広がる。
荒子とかぁ、荒超って、もしかて荒地だった意味かな?
そりゃ、満潮と干潮で2m近くも水位が変われば、海抜0m地点は海に沈んでしまうよね。
さらに荒子川も雨が降る度に氾濫してそうだったもんね。
「私が貰ってもいいかな?」
「海をですか」
「うん、埋め立てて新しい土地を作るの。土地を貰ったお礼に荒川の上流を土岐川に繋いで、その下流域の護岸改修は私がやってあげる」
「よろしいので?」
「土地を貰ったお礼よ」
ぽちゃん。
お風呂でおもいっきし足を伸ばして、風呂の角に肩を掛けて空を見上げる。
「月が綺麗だね」
あなたの事を思っています。〔I LOVE YOU. by夏目漱石〕
なんて、言った訳じゃないよ。
本当に月が綺麗だった。
でも、信長ちゃんが顔を横に向けて赤くなるのをにやりと楽しんだのは秘密だ。
「って、ここどこよ」
「荒川ですね」
「私達、今、着替えが終わってお茶を飲み終えた後よね」
「忍がする事に、一々反応するな」
「も~う、頭が滅茶苦茶になりそう」
まず、モデリングで海と川の間を堰き止める。
荒川の水を収納庫にしまって、川底を削って土手を作ってゆく。
現代風の護岸工事は違和感があるので、台形の土手に留める。
川の周辺は氾濫するから家がなくて楽ちんだ。
「今、家ごと消えたよね」
「千代女ちゃん、うるさい」
「だって、今、小さな集落ごと、ぱっと消えちゃったよ!」
「しまっただけ、後で出すから大丈夫」
「しまっただけって何」
「忍のする事だからな」
「忍様ですから」
「忍様なら問題ありません」
「右に同じ」
絶句しているのは、千代女ちゃんとその部下の3人だけです。
多数決の勝利だ。
因みに、亜空間に収納された集落は大丈夫とAIちゃんが保証済みだ。
時間が止まっているから何が起こったかも気が付かないだろう。
川原者もウチの住人にしてあげましょう。
ちゃちゃっとやって土岐川に到着。
ここから土岐川の護岸工事だ。
メインの石材はオーストラリアの採石場から調達して埋めてゆく。
深さ5m、高さも5m、幅3mの石材をなるべく直線に近い形で並べます。
その後に石材を中央に土手を作り、川底を掘って強引に川の流れを変えてしまう。
対岸はまた今度だね。
その土手は海上5kmまで続いている。
簡単に言えば、現代の埋め立てられた河口まで延ばしている。
そこから横に石材を横に広げて、埋め立て地区と海の境界を作り、中の海水を転移で太平洋の真ん中に捨てて、オーストラリアから草原を転移させて埋め立ては終わり、最後に荒川用水と中川運河を掘って完成だ。
カモフラージュに土手や竹藪を設置する。
住居部の奥部は2mほど高い盛り土をした台地に作り、海岸まで5kmもある田畑を管理して貰う。用水と運河には浮船方式の水門も設置して海水が逆流しないようにしておいた。
各所に水車と足車を設置して、田畑への水の供給も問題なし。
おっと、収納庫にしまった人を忘れていた。
仕方ないから急遽、流下式塩田(改)を作った。
満潮・干潮の差を使った水車でポンプの代わり水を汲みあげる仕組みを作った。
満潮で溜めた上水漕から下水漕に流し落として水車を回す。
その動力を使って濃縮用の海水を上のタンクに溜めてちょろちょろと流し落とせば、風が勝手に水分を取ってゆく。
落ちた海水は斜面の砂場を流れて、下漕の濃縮タンクに戻ってゆく。
1日の半分しか稼働しない欠陥品だけど、十分だろう。
ポンプのない時代に人力で海水を引き上げるよりマシなハズだ。
3・4日で塩分濃度が上がったら、煮る窯に移して煮て塩を回収すればいい。
仕掛けがデカいので、取れる塩の量も半端ない。
窯で使う薪を大量に置いておく。
長屋を建てて準備が整うと、収納庫から彼らを出してやる。
これが川原者の新しい仕事だ。
もちろん、今まで通りの仕事も継続できるように土岐川の一部に降りて作業できる場所も残している。
塩の売却益があるから無理もしないだろう。
「千代女ちゃん、あんたの部下でここの人達を管理して貰える」
「ここの人に忍の領民になった事をしっかり刷り込んでおきなさい」
「「「ははぁ」」」
手紙を届けに来ただけなのに大変だね。
「で、こんな広い土地をどうするのよ?」
「甲賀、伊賀、柳生、飯母呂、それから鉢屋衆のみなさんに住んで貰う気だけど」
「魔境になるわよ」
「なぁ、忍。飯母呂は犬山の奥地に移住させるのだろう」
「よく考えてみると、今すぐは無理なのよね。考えてみて、美濃斉藤に隣接した山に織田に臣従する一族が棲み付いたとする」
「襲ってくるな」
「でしょう。ぼちぼち魔改造した要塞を造っていくけど、今すぐは無理ね。湊を管理して貰って、南蛮船でも与えてみようかしら? 今、私、いい事言ったかも」
「忍って、反射で生きているよね」
「うん、それが忍だ」
「千代女ちゃん、慶次、それは私の悪口じゃないよね」
最初の場所、荒川の海岸に戻って来ました。
「忍様は本当に凄い方です」
「そんな事あるよ、えへへへ」
「海だった所が草原になり、その先に竹藪が広がっています」
「朝になると騒ぎになるだろうな」
「甲賀と伊賀が忍術でやった事にしちゃう」
「そんな事、できる訳ないでしょう」
「知名度が上がるよ」
「他の雇い主に同じ事やれって言われたらどうするの?」
「う~~~~ん、笑って誤魔化す」
「殴るわよ」
千代女ちゃん、殴ってから言わないでよ。
「これから田植えの時期だし、楽しみだね。そうだ。サツマイモを回収してお城に戻ろう」
一旦、中南米に飛んで、AIの索敵を使ってサツマイモを回収すると、一部を埋め立て地の倉に保管して、残りは城の賄い方に渡しました。
今晩もいい仕事をした。
あとがき
山の神:船乗りにとって目印となる山はとても神聖な存在であり、神秘的な山容が船乗りの心の支えだったのです。山の神は女性と言われ、同性が山や海に入る事を嫌うのです。
ヤマトタケルのオトタチバナヒメ伝説でも、災いの原因は女性であり、妻のオトタチバナヒメが海に身を投げると、ほどなく嵐は止み、おだやかな天候になったと伝わります。
では、逆に女性が乗って特別な事が起きたとしましょう。
山の神は女性を好む訳もありません。
ならば、その女性が山の神の化身、その神なのです。
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