第15話 信長、空のお散歩の事。
ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁっぁ!
大声で今にも死にそうな雄叫びを上げているのは、滝川一益と百地丹波の両名です。
高度3,000mからただいま急降下中!
伊賀の里から街道に出ると、丹波を護衛する忍者100人が付いて来ているのを無視して、私は宣言しました。
「ちょっと、気分晴らしに空の散歩をしたいと思います」
「忍様、空とは、この上の空でございますか」
「はい、そうです」
「空の散歩とは洒落た事ですな」
「慶次、いい事いった。怖がる事はないですが、みんないいですか」
「忍様、少しお待ちを」
「長門君の意見は聞きませんよ。行きます。転移」
柳生の里は伊賀のすぐお隣です。
西に30kmほどです。
6時間も7時間も歩く趣味はありませんよ。
何故、高度3,000mに飛び出したのか?
百地丹波には、私の力の一部を公開した方がいいと思ったからよ。
こいつ、私を舐めているもの。
5000貫くらいくれてやるけど、一々文句を付けたのは、こっちを侮っている証拠よ。
裏切るのはいいけど、悪いタイミングで裏切られると、大切な人の命が飛んでしまうかもしれない。
そういう芽は可能な限り摘み取っておきたいからね。
(馬は可哀想だから先に降ろしたよ)
「長門、あれが
「おそらく、そうでしょう」
「あのような形であったのか。では、あちらが尾張の海か」
「まぁ、そうでしょう」
(きゃあ、きゃあ)
長門君が目を半眼に閉じたままで私の方を見た。
もしすると高所恐怖症?
信長ちゃんのように下をじっくりと見たくないのかもしれない。
「そうです。あれが尾張の国の海、伊勢湾です」
「伊勢湾と言うのか」
「はい、そのまま外に出ると太平洋、淡海乃海を挟んだ海が日本海です」
「淡海乃海の左手に見えるのは京です」
「京とは小さいのぉ」
(きゃあ、きゃあ)
「さらに淀川を下ると摂津があり、瀬戸内海へと繋がります」
「天上から見る世界とは、このようなモノであったかぁ」
「どうです。空の散歩を楽しんで頂けていますか」
「おぉ、楽しいぞ」
(きゃあ、きゃあ)
信長ちゃん以外は様々だ。
長谷川橋介と山口飛騨守は落ち着きがない。
「殿、足が付きません」
「当然であろう」
「我らは大丈夫なのですか」
「忍様がする事を疑っていては切りがない。諦めよ」
(きゃあ、きゃあ)
信長ちゃん、割と容赦ないな。
その言い方だと呆れているように聞こえるよ。
ここは、「忍様なら大丈夫だ。忍様を信じろ」でしょう。
私をどう見ているのか、よく判ったよ。
「ほれ、藤八」
「慶次殿、何をなさいますか」
「もっと手を広げて、風を掻いてみよ。このように意外と動けるぞ」
おぉ、教えてもいないのに滑空を身に付けています。
藤八も見よう見まねで、慶次様を追います。
それに弥三郎も加わって、何にか、鬼ごっこが始まっています。
「俺も入るぞ」
「あぶのうございます。信長様、下を」
(きゃあ、きゃあ)
長門君が叫びますが、すでに遅いのです。
信長ちゃんも鬼ごっこに加わろうとした直後、下に雲が見えてきたのです。
ずぼっと雲の中に入ったのです。
真っ白い世界で何も見えません。
しばらくすると、雲を抜けて再び地上が見るようになります。
「は、は、は、忍様、雲の上を歩く事はできませんか」
「雲は無理だね。あれは小さい粒だから人が乗るには小さ過ぎるのよ」
「それは残念です」
(きゃあ、きゃあ)
信長ちゃんは本当に残念そうだ。
「それより千代女ちゃんはさっきから『きゃあ、きゃあ』と、うるさいよ!」
「信長様、千代女、怖い」
「そうか、しっかりと掴まっておれ」
「は~い」
私の信長ちゃんに体を摺り寄せるな!
ホントは怖くないだろう。
体を寄せる仕草がワザとらしいんだよ。
「きゃあ、きゃあ」
それはともかく、遊んでいる慶次様達より随分と先に降りている人がいます。
『『だぁずぅぅぅぅぅげぇぇぇぇえぇぇてぇぇぇぇぇぇ!』』
滝川一益と百地丹波の両名は叫び続けています。
「忍様、そろそろ下が近こうございます」
「大丈夫、ちゃんとしてあるから」
転移もモデリングも疑似精霊の力であって管理しているのはAIちゃんであり、忍の力ではないのです。先頭が地上50mに到達した時点で、適当な空き地に再転移するように設定してあるので問題ありません。
AIちゃんが反乱を起こしたらどうするかって?
お手上げだよ。
◇◇◇
再転移が終わった信長ちゃんが笑っています。
「は、は、は、忍様。もう一度できませんか」
「できるけど、今日は無理じゃない?」
そう言って死にそうな二人の方に親指を向けます。
「某に何か恨みがございましたか」
「もう3回目だよ。いい加減になれなよ」
「空の上があれ程に恐ろしいとは思いませんでした」
完全に高所恐怖症を植え付けてしまったらしい。
丹波は流石に文句を言って来ない。
「ねぇ、丹波」
「何でございましょう」
「織田と伊賀が戦う事になっても仕方がない。世の中には譲れない物があるのは判っている。だから、織田と伊賀が戦う事になっても責めるつもりはない。それに私が干渉するつもりはないのよ」
「何の事でしょう」
「詰まらない意地で私のこと出し抜こうとか考えないようにしなさい」
「滅相も御座いません」
言葉はゆっくりと頭を下げたままでいるけど、何となく納得していないのが判る。
「ねぇ、あそこの突き出た岩を見ていて」
「あの、突き出た大岩ですか」
そう言うと近くの空き地の上空に大岩を転移させて見せます。
大岩が消え、頭上に大岩が現れたような恐怖が走ると、少し離れた空き地に落ちて、『ずどぉぉぉん』と言う地揺れが襲ったのです。
丹波が目を丸くする以上に、みんなが口を開けてぽか~んとしています。
(「なんまんだぶ、なんまんだぶ、なんまんだぶ」)
私に手を合わせて藤吉郎がお経を読み始めます。
ちょっと止めてよ!
この際、藤吉郎は無視だ。
「判った? 私がその気になれば、伊賀の民をすべて天空から落とす事も、大石を降らせて、伊賀の里を山にする事もできるのよ」
(「なんまんだぶ、なんまんだぶ、なんまんだぶ」)
ごくりと丹波が唾を呑み込み、私は悪女のように腕を組んで丹波を見下ろすのです。
「伊賀が織田に刃向かうなら、それはそれでいいのぉ。でも、私を出し抜こうだなんて考えないようにしなさい。私は騙されるのが嫌いなのよ。それだけ、よ~く、覚えておきなさい」
(「なんまんだぶ、なんまんだぶ、なんまんだぶ」)
「刃向かうなど、滅相も御座いません」
「そうだといいのだけれど」
丹波の目が未だに鋭く感じます。
何となく、納得していない気がします。
「忍様、忍様が居れば、簡単に天下が手に入る気がします」
子犬が主人を慕うような目で藤八が私に懐きます。
可愛いな!
糞ぉ、お持ち帰りしたいよ。
私は藤八を抱き寄せて、ぎゅうっとします。
「忍様、ちょっと痛いです」
「ごめん。でもね。(誤魔化そう)私が天下を取っても私が居なくなると乱世に戻るのよ? それじゃ、意味がないでしょう。だから、天下を取るのは信秀と信長ちゃんじゃなきゃ駄目なのよ」
(「なんまんだぶ、なんまんだぶ、なんまんだぶ」)
「よく判りませんが、僕もがんばります」
「一緒にがんばろう」
(うん、巧く誤魔化せた)
(「なんまんだぶ、なんまんだぶ、なんまんだぶ」)
「おい、藤吉郎。いい加減に拝むの止めないと怒るわよ」
「すみませんだぎゃ」
がさがさがさ、いつの間にか大勢の侍に囲まれています。
そりゃ、大岩を落とすような派手な事をすれば、そうなりますよね。
まぁ、柳生を探す手間が省けたと思いましょう。
◇◇◇
案内されたのはボロボロになった庄屋のような立派な家です。
「織田の若様とつゆ知らず、ご無礼し
「こちらも、突然の訪問をお詫びさせて頂きます」
「いや、いや、頭をお上げ下され」
信長ちゃんと対峙しているのは、
「ボロ屋で驚いた事でしょう。つい先日、小柳生城を落とされ、あの
資料によると、何、何。
順昭は1万余の兵力で押し寄せ、家厳は小柳生城に籠り3日間も耐えて戦ったが、水の道を絶たれて降伏した。
柳生の石高は1万石程度です。
つまり、柳生の人口は1600人程度であり、女・子供を除くと、四・五百人程度で1万余の大軍を押し留めた訳です。
半端ない個人の武です。
「改めまして、織田、いいえ、この信長の為にお力をお貸し頂けませんか」
「我ら、織田様に目を掛けられるほどの事はありませんぬ。筒井勢に負けたばかりですぞ」
「いいえ、そのような事はございません。伏してお願いします」
「頭をお上げ下され」
「お受け頂けますか」
「いいえ、我らは武のみを頼りとしております。一手ご指南させて頂きましょう。返事はそれからと言う事で」
「面白い! 俺が受けた」
きゃぁ~慶次様、かっこいい。
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