第14話 お金の話の事。
みなさん、お米を食べていますか!
お米にも色々あって値段も様々ですが、庶民がスーパーで買う安い米と言えば、10kgで4,000円くらいです。
米10kg=4,000円
戦国時代でお米を数える単位が『合』です。
この1合が150gとなります。
一合=150g
1000合が1石ですので、この1石が150kgになります。
尾張57万石、三河29万石、遠江25万石、駿河15万石と出てくる『石』も同じです。
お米10kgが4,000円ですから150kgは6万円になる訳です。
1石=1,000合=米150kg=6万円
・尾張57万石で、342億円の収穫額になります。
・三河29万石で、172億円の収穫額になります。
・遠江25万石で、150億円の収穫額になります。
・駿河15万石で、90億円の収穫額になります。
(三河・遠江・駿河の三国69万石で、414億円の収穫額になります。)
さて、1石が何文になるのでしょうか?
お米には相場があり、豊作と凶作があります。
戦国時代では、1石が500~1,500文の間で動いていますから、1石を1,000文とします。
1,000文は1貫文です。
(因みに、1疋は10文です。)
1貫文=100疋=1,000文=1石=1,000合=米150kg=6万円
秀吉の父が死に新たな養父の竹阿弥との折り合いが付かず、家出をすると言ったときに、母から貰った餞別が銭1貫文と言います。
家出の餞別が6万円だった訳です。
桶狭間の戦いで梁田正綱が一番手柄で貰ったのは、沓掛城と銭3,000貫文です。
3,000貫文=3,000石=1億8,000万円
信長が上洛を果たし、堺の会合衆から巻き上げた銭が矢銭2 万貫です。
2万貫文=2万石=12億円
(1万貫文=1万石=6億円)
でも、ちょっと待って下さい。
堺と言えば、悪銭の宝庫です。
余りに鉛が多い為に銭が黒く見える事から
黒銭の価値は10分の一ですから、2万貫文は12億円の価値ではなく、1億2000万円かもしれません。
信長の父親である信秀が朝廷に内裏修理料として4,000貫文を献上しました。
4,000貫文=2億4,000万円
堺が出した銭は、信秀が出した内裏修理料より安かったのかもしれません。
そして、信長が望月家に払った額は5,000貫文、3億円に相当するのです。
5,000貫文=3億円
◇◇◇
【望月出雲守】
望月出雲守は甲賀五十三家に声を掛けて、急ぎ集まった家長達と2つの5000貫箱を前に協議を行います。
「織田家に臣従するとは誠ですか? 気が触れたとしか思えませんぞ」
「では、目の前の物は何とする」
「こんな物はこけおどしに違いありません」
「中を改めよ」
急ぎ集まってきた家は20家ほどで、望月家を批判する者が半数、静観する者が3割、賛同する者が2割です。
「言われずとも開けるわ。どうせ黒々とした
「仮にそうであっても53家、すべてに与えるとは豪気ではないですか」
「誑かされよって」
「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ、これは」」」」」」」」」」
開かれた5000貫箱から見えるのは美しい
出雲守が笑みを浮かべます。
「まさか、まさか、あり得んぞ」
「見た通り、尾張で作った物でしょうな」
「この美しさ、本物と引けを取らん。まごうかたなき銅銭じゃ」
3億円の札束で頬を叩かれた気分でしょう。
53家で159億円ですよ。
尾張が裕福であるのは間違いありません。
それは信秀が内裏修理料として4,000貫文を献上した事からも明らかです。
見栄を張るなら今川も4,000貫文以上の献上をしたでしょう。
しかし、義元が献上したのは500貫文です。
(そう、そう、歴史書を書いている人で1疋と貫を間違って、今川も50,000貫を献上したと書いている人がいますが疋の間違いです。)
50,000疋=500,000文=500貫文
如何に信秀の経済力が高いのかが窺えます。
甲賀20家の頭領が頭を抱えます。
自分達が考えている以上に織田は力を付けているのか?
そうとしか考えられないのです。
「織田の依頼は那古野城の警備です」
「我らを謀る気では」
「那古野の改修が始まれば、銭は動きましょう。それを隠すなどできません。ならば、それを守る者が必要になる。道理が通ります」
「確かに、金のない所を我らに守らせても意味がない。どこから持ってくるとしても、足は付く。誤魔化すにしては大掛かり過ぎるな」
「否ぁ、否ぁ、俺は騙されんぞ」
臣従するかはともかく、織田に素っ破を送る事には前向きに考えるようになったようです。
「臣従するはいつでも良いと言っておられる」
「六角様を裏切るのか」
「分家を立てて、その分家が臣従するだけで良いのだ。六角様へは儂と与右衛門が忠義を果たす。何の問題もない」
「六角様がそれをお知りになれば、お怒りになられるぞ」
「その時は、この首を差し出すまで! 織田の殿は別に臣従を強制されておらん。ただ、そのような者がいれば、来て頂きたいと頭を下げられたのじゃ。自らの近習として召し抱えると言って下さった」
「「「おぉぉぉぉぉ」」」
甲賀の忍者は伊賀と比べれば、忍者の地位は高く、滝川や池田を見ても判るように普通の武家として扱われている。
幕臣の和田惟政も甲賀の出です。
しかし、2男、3男の分家となれば、仕官するのも中々難しく、すべての者を士分にすると言うのは豪気な計らいなのです。
「出雲守殿、織田はそれほどに人が足らんか?」
「いいえ、今から足りなくなるのでしょう」
「今から?」
「これより3年は国内を固めるようですが、その後は天下を取りに行くようです」
「天下とは、また大層な」
「三好にでもなるつもりか」
「あぶないな」
「出雲守殿、これは用心するべきでは」
「いいえ、信秀が現れてより10年以上、織田はこの時の為に私財を溜めてきたと見ます。そして、動き出したに違いありません」
「急ぎ、間者を送り探りますか」
「もちろん」
出雲守が目をギラつかせて答えます。
「織田の殿は間者を送って欲しいと言っているのですぞ。いるだけ送って損はありますまい」
「嘘であったら見限ればよいのか」
「如何にも」
「しかしじゃ、真実であったら如何する」
「真実であれば、尚良いではありませんか」
「「「「「「「「「おぉ、そうじゃな」」」」」」」」」
この瞬間、甲賀五十三家は織田に間者を送って様子を探る事になり、望月家から200名、13家から1300名の計1500名の間者が送られる事になった。
残り23家の内、三家から臣従の申し出があったのは出雲守も意外であった。
それもそのハズです。
甲賀の里でも山城(京)に近い三家であり、将軍足利義晴、畠山政国、遊佐長教と管領の細川晴元と権威争いが激しくなり、一族の一部でも避難させておきたいという思惑が働いたのです。
三家が臣従を決めると、静観をしていた七家も臣従の意志を示し、望月家以外に10家が尾張に下る事になったのです。
「父上、三好長慶が堺に入った後に、細川氏綱・遊佐長教・筒井順昭が包囲するとの事です」
「氏綱が再び動くか」
「はい。また、細川国慶殿が京を狙って軍を動かしましょう」
「で、公方様は」
「氏綱・遊佐連合軍を支援するように、(近江守護の六角)定頼様に依頼されておるとか」
「やはりな」
近江守護の六角定頼は近江、伊賀3郡、北伊勢に勢力を持つ100万石の大大名です。
それだけ将軍の足利義晴に近い関係であり、氏綱に助力する為に出雲守にいつお声が掛かるのか判らない状況です。
「六角は京に近すぎるのぉ」
「よくありませんか」
「天下を望むなら悪くない。だが、望まぬなら、双方に通じてお茶を濁す悪党にならねばならん」
「定頼様は?」
「歳を取り過ぎた。今の地位で満足されているのであろう。今は北近江に向いておるが、どこまで本気か」
「本気でないと」
「浅井を臣従させた事で満足されているのであろう。本気なら遊佐と長慶の双方に繋ぎを取れと連絡があるハズだ」
「(細川)晴元をお見捨てになれと」
「そういう事だ」
「(細川)晴元、(細川)氏綱のどちらに付こうと旨みはない。今の内に若狭、美濃、伊勢を取っておくべきだろう」
「そちらは公方様の…………」」
「兵を出さんのなら味方ではない」
細川晴元、細川氏綱のどちらが勝っても200万石以上の大勢力です。
まぁ、いずれもまた分裂するのでしょう。
六角が天下を取るなら、それ以上の力が必要となります。
天下を望まないのなら、双方に敵対しないのでいいのです。
そして、(六角)定頼が望むのは『天下の静謐』です。
政治の才能のない(細川)晴元も見限る事も必要なのですが、使い勝手の良い晴元を切るつもりはないようです。
定頼も歳を取られたとしか言えません。
「なるほど、それで尾張で御座いますか。父上は本気で天下を望まれたのかと思いました」
「一人の異能で天下を取れるほど甘くないわ」
「それでは何故に」
「伸ばした手を一度畳もうと言うのは悪くない。足元が見えている証拠じゃ。しばらく稼がせて貰えるぞ」
「定頼様は見えておられないと」
「細川も畠山も崩れたのじゃぞ。今、足元を固めずにどうする。六角も崩れるぞ」
「六角も!」
「村上と織田の両天秤も悪くなかろう」
「父上は悪党で御座いますな」
「悪党でなければ、家は残せんよ」
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