第11話 望月千代女、同志発見の事。

先触れを出していたので小折城こおりじょうの城主である生駒 家宗が慌てて生駒屋敷に戻って来て、信長ちゃんを出迎えてくれます。


『出迎え、大義じゃ』


大声で叫ぶ私に、「こいつ誰?」と言う顔で、生駒の皆が唖然とします。

藤吉郎には、生駒の者が私の事を聞いてきたら慶次様が書いたサクセスストーリーを教えるように言ってあります。


絶対に探りを入れてくるハズです。


昨日、信秀と信長が武衛様に謁見して、砂金を献上した事も伝わっているハズです。


どうして判るか?

簡単だよ。


言うなれば、尾張の諜報機関が生駒家だからです。

伊賀、甲賀、風魔のような武力集団ではありませんが、商家という手法で他国の情報を集めていたのです。


慶次様、従兄を連れてちゃんと来ていましたよ。


 ◇◇◇


信長ちゃん、言われた通りに大人対応で家宗に頭を下げます。

吉乃を嫁に出して以来、信長ちゃんから冷たい塩対応されていたので、ほっと息を付きます。


「今日はどういう御用でお越しになられたのでしょうか」

「うむ、この度、那古野城と古渡城を改修する事に相成った。されど人手が足らん。生駒殿は尾張から畿内に精通しておろう。至急、人手を集めて頂けないか」

「もちろん、お手伝いさせて頂きます。で、如何ほどに」

「とにかく、多ければ多いほどいい。金はある。問題ない」

「儂は2年も3年も待てんからな」

「承知しております」

「おぉ、そうじゃ。土産を渡せ」


箱には桃と葡萄が入っています。

桃は備前ですが、葡萄はヨーロッパです。

ちょちょっと回って、金と交換して貰ってきました。

どちらも尾張では珍しい品です。

家宗と他も皆が驚いています。


「1万でも2万でも良い。できるなら10万でも20万でも構わんぞ。とにかく、わらわの城を早く作って貰いたいのじゃ」


私がそう言うと、家宗が信長の方を見て確認します。


「ほれ、信長。ちゃんと言ってやれ!」

「某が保証いたします。金に糸目は付けずに集めて頂きたい」

「畏まりました」


家宗が頭を下げると、すっと長門君が条件を書いた紙を出します。

連れてくるだけで200文、女・子供は半分の100文であり、旅費と食糧費を織田が用意する。

生駒屋の取り分として別途に10倍の額が支払われます。

実際、電話も電報もない世界では、各地に手配するとなると色々と手間賃が掛かり、割の合わないほどの大金が掛かるのです。


しかし、100人連れて来くると200貫が儲かり、1,000人を用意すれば、2000貫、10,000人を用意すれば、2万貫が手に入ります。


100人では赤字ですが、10,000人を用意できれば、濡れ手で粟です。


流石に心配になった家宗が小声で長門君に耳打ちします。


「本当によろしいので」

「構いません。足りなければ、後から入ってくる事になっております」

「判りました。各地に手配いたしましょう」

「よろしくお願い申し上げます」


家宗が武士じゃなくて、商人の顔になっているよ。

織田家が金づるを手に入れたと思ってくれただろう。

こういう仕事をさせると、長門君は冴えるね。


 ◇◇◇


は、は、は、生駒屋敷を出てから慶次様が大声で笑います。


「家宗の驚いた顔は見物でしたな」

「慶次、信長様の御前じゃ。少しは控えんか」

「俺は忍の小姓になったと言ったろう。信長に仕えている訳じゃない」

「馬鹿もの」


慶次様が従兄殿に殴られます。

懲りてないか、慶次様は「理不尽だ」とぼやいています。


さて、これで1つ問題が解決したでしょうか?


村人から「織田様が山のような砂金を手に入れた」と間者が聞いても、70トンもの砂金があったとは考えないでしょう。


1~2トンでも山のような大金です。

実際、5~10万貫文に相当しますからね。


でも、5~10万貫文で信秀を敵に回して戦争できるかと言えば、違ってきます。

継続的に大金を手に入れるには、私を落とさないといけない訳です。


そう、私が金づるなのです。


慶次様は今から私を襲ってくる相手を楽しみに待っているんですよ。

私も楽しみです。

どんな方法でイケメン達が私を口説いてくれるのでしょうか。


まぁ、ゲスな方法で脅してくるなら、それ相応の対処はさせて貰いますよ。

悪党に人権はないのです。


 ◇◇◇


さて、しばらく稲生街道を南に戻り、岩倉城を過ぎた辺りで林の脇道に行き先を変更します。

誰も後を付けていない事を確認すると馬から降りて貰います。


「長門君が護衛を付けていない事に文句を言っていましたが、その理由をこれから話ます」

「下らない理由なら二度と聞きませんよ」

「大した事ではないのよ。でも、秘密を知る者は少ない方がいいでしょう」

「どんな秘密ですやら」

「信長ちゃん、セーラー服の上から正装に着替えてくれる」

「判りました」


正装と言っても殿中に上がるような正装じゃないよ。

目上の人に会いにゆく程度かな。


信長の護衛は小姓の岩室重休・長谷川橋介・加藤弥三郎・山口飛騨守・佐脇良之と5人のみです。しかも加藤弥三郎・佐脇良之は信長より年下で、実質の護衛は岩室重休と長谷川橋介・山口飛騨守の三人だけです。


そりゃ、怒りますよ。


で、私の小姓は慶次様と藤吉郎のみ、他に慶次様の従兄の滝川一益、信長を入れて10人しかいません。


AIちゃんには疑似精霊が備わっていますから、物質の確認と悪意とかを感知できるんですよね。しかも2m以内に急激に接近する物体は強制的に反転転移するように指定しています。


狙撃者がいたら、自分の方に弾が帰って行きますよ。

これでどうやって傷付けるんだい。


もちろん、長門君に説明するつもりはありませんよ。


 ◇◇◇


「では、これから甲賀に移動します。転移」


信長が着替え終わった所で転移を掛けます。

場所は『甲賀の里 忍術村』の上空、地面を確認して再転移です。

瞬間的に変わる風景に頭が付いて来ないようで、林の中から簡素な農村に風景が変わった事に驚いています。


「忍様、これはどういう事じゃ」

「説明は難しいから省くけど、甲賀の里に来ました。一益さん、頭領の所に案内して下さい」

「ここはどこだ」

「ですから、甲賀の里ですよ」

「確かに見覚えはあるが、確か茂作の家が見えるが」


一益さん、案内を頼もうと思って連れて来たのに何やっているんですか。

仕方ありません。


「長門君、岩室家の頭領の家はどこですか?」

「甲賀の里に来た事がありません。知り合いが私も見つけてくれると何とかなるでしょう」

「で、知り合いはどこに」

「知りません」


長門君は一益さんより冷静ですが、どちらも役に立たないじゃないですか。<ぷん、ぷん、怒>


『動くな! 動かなければ殺さない』


信長ちゃんの後方2mくらいの所に、ポツンと一人でクナイらしきモノを持って、綺麗な少女が声を強張らせて凄みます。

カッコよく余裕を持って目を閉じたのは失策だね。


今は信長ちゃんと背中合わせで、一人で立っている間抜けなポーズです。

そんな間抜けポーズで言うセリフじゃない。


???


状況を把握した少女が顔を真っ赤に染めて固まっています。

そりゃ、恥ずかしいよね。

この里に転移した直後に小姓の5人が信長の位置を確認していたので、誰が偉いのかを見抜いたのは凄かった。

神風のように忍びより、目にも止まらない速さで背後に回って襲ってきたのはいいけどね。

反転転移が発動して、強制的に180度の回れ右をさせられた訳だ。

慶次様も信長の横で固まっています。

つまり、少女が信長ちゃんの首にクナイを突き付ける瞬間、慶次様も少女の喉元に刀を突き出すつもりだったみたいです。


人質を取らないで決め台詞。


超ぉ~恥ずかしい。

くす、くす、くす。


耳まで真っ赤です。

笑っている私を涙目で睨んでも何もでませんよ。


AIちゃん、優秀だね。


 ◇◇◇


長門君を始め、小姓たちがどう対応していいのか戸惑っています。この中でスキルが飛び抜けて高い能力を持っているハズの一益さんが、首をきょろきょろさせて混乱しているからです。


この人、本当に織田を支えた名将になる人か?


ゲームのステータスに不満があるのよね。

柴田や丹羽や明智や秀吉のステータスは、他の武将に比べてチートだったの?

寧ろ、他の武将より低かったんじゃない。

社長に従う駄目社員のイメージがあるんだよね。


おっと、長~~~~い間合いを置いて、長門君が誰より早く冷静さを取り戻した。

「この度はお騒がせして申し訳ございません。この里に危害を加えるつもりはありません。どうか刀をお下げ下さい」

「…………」

「信長様」

「うむ、騒がせた事を謝罪する」


信長ちゃんは振り返ると、少女に軽く頭を下げた。

下げた所で信長ちゃんがにっこりと笑う。


ずきゅ~~~ん!


少女のハートを一撃した。

私には見えた。


「そ、そう。村に危害を加えないのね。そういう事なら許して上げるわ」


信長ちゃんの顔を正視できないのか、少女は明後日の方を向いて答えるのです。


「ありがとうございます。寛大な処置に感謝します。つきまして、お願いしたい事がありますので、この村の頭領の所に案内して頂けませんか」

「わ、判った。付いて来なさい」

「ありがとうございます」

「か、勘違いしないでよ。べ、べぇ、別に私があんたを気にいったからじゃないよ」


おぉ、デレました。


同志発見だ。

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