第8話 硝酸、作るなら硝石丘法の事。

夜半に目を覚ますと障子を開けて靴を履いて外にでます。

表に出た所で那古野城の北にある雑木林に転移します。

寝ずの番をしている門番にいらぬ心配をさせない為よ。


那古野城は熱田台地の北と西の縁にあり、この雑木林は3mほど低くなった場所にある低湿地帯です。

とりあえず、1km四方の木々を伐採します。

と言っても根っ子ごと転移で横に積み上げてゆくだけです。


私が転移しなくていいのは便利ね。


“視覚範囲か、認識確認できる範囲間の転移しかできません”


認識確認の範囲って、どれくらい?


“半径5kmになります”


かなり広いです。


気にしても仕方ないのでやる事をやりましょう。

伐採された木々から『モデリング』で紙を作ってみます。

分類と分子間の組み替えができる優れモノの機能です。


補助脳から紙の組成体と3D設計ソフトを組み合わせると、木々を繊維質に分解し、再加工が可能なのです。


「おぉ、ちゃんと紙ができたじゃない」


作り出したのはA4のコピー用紙です。

ノリを使用しない紙は、コピー用紙より丈夫そうで少し引っ張ったくらいでは千切れません。しかし、漂白をしていないので、色はザラ紙のように茶色掛かっています。


使用するには十分でしょう。


ねぇ、AIちゃん、『モデリング』をオートで使うのはできるかな?


“可能です”


おぉ、ラッキー!

じゃあ、A4とA0のザラ紙を適当に作っておいて。


“了解しました”


次は土木作業と農作業の基本知識のコピーだね。


『モデリング』


何も起こりません。


“炭素原子の材料指定をして下さい”


材料指定?


“炭や木炭があると簡単の再組成できます”


転移で炭素を集めるのもできるけど、この木を燃やせば、すぐに手に入るね。

ここで燃やすのはちょっと拙い。


雑木の半分を持って転移!


 ◇◇◇


やって来たのは硫黄島です。

誰もいない無人島です。


雑木を無造作に放置して、地下1kmにあるバケツ一杯分だけのマグマを転移で取り出すと、あっと言う間に周りの木々を捲き込んで大火事になります。


消える頃には消し炭が完成です。


待ち時間を無駄にせず、オーストラリアの砕石場に転移して、1km平方を取り囲む石の壁を作ってゆきます。


便利だね。


幅5m、高さ5mくらいでいいでしょうか。

後で櫓でも何でも勝手に建てるでしょう。


防犯は大切だからね。


 ◇◇◇


次に必要なモノは永楽銭の銅貨に必要な銅、錫、亜鉛ですね。

世界最大の露天掘りの銅山と言えば、南米チリ北部にあるチュキカマタです。

同じく、錫の鉱山はボリビアのワヌニ鉱山です。

亜鉛の鉱山は、アラスカ州のレッド・ドッグです。

レッド・ドッグには、鉛もあるので、一緒に貰っておきましょう。

鉛の次は、やっぱり鉄ですね。

ミネソタ州北東部には鉄鉱石の鉱山帯が広がっています。


で、窯を燃やすなら薪が多い方がいいですね。

木材の生産地で言えば、アジアです。

でも、アジアは人が住んでいます。

やはり、人の少ないブラジルはアマゾンから拝借しましょう。


そうだ!

薪だけより石炭もあった方がいいですね。

石炭と言えば、オーストラリア東部クイーンズランド州です。

オーストラリアはいいね。

この時代は人がいない。


各100トンを山積みにして、那古野城の北の空き地に放置します。


こんなモノかな?


あぁ、石炭が手に入ったので、硫黄島の消し炭が要らなくなりました。

石炭内の炭素を抽出して紙を材料に『モデリング』で各種の基礎知識を添えた草紙を制作してゆきます。

データーベースを紙に移すだけのお気軽な作業です。

選択と抽出もAIちゃんに任せます。


暇になったので、島左近様用に作った種子島でも作ってみましょう。


しまった。


錆びないステンレス鋼を基本構造に入れたので、クロムとニッケルも回収して来なければいけません。


また、転移です。


 ◇◇◇


ふ、ふ、ふ、我ながら最高傑作です。


じゃじゃん、島左近様バージョン種子島です。


しなやかに長いメタルジャケットに、スリムなボディー、種子島特有の曲線を残し、ライフリング付きの銃身と後部開閉式の機能性を持たせたスーパー種子島です。


何故、マスケット銃にしないかと言えば、種子島の方がカッコいいからです。

そう、痩せ型長身の島左近様が銃身の長い種子島を持てば、きゃぁと叫びたくなるのです。


左近様、LOVE!


ふ、ふ、ふ、実物が造れるとは思っていなかった。


AIちゃん、適当に作っておいて!


“了解しました”


左近様には、実践用、鑑賞用、保管用の3つを渡しましょう。

そして、気に入った人だけにプレゼントしましょう。


ザ・依怙贔屓です。


 ◇◇◇


種子島を作ったとなると硝酸ですよね。

古土法とか培養法は生産効率が悪いんだよね。


宗麟はこの硝石200斤を銀一貫目で買ったと言われます。その後、硝石の需要が上がるに付け、言い値で購入させられたと言うのです。


200斤は120kgです。

種子島1発に使用する火薬が3gであり、その内、硝石が占める量が2gになります。

つまり、千丁の銃で120発の玉を放つと品切れです。


あの『長篠の戦い』で織田信長が揃えた火縄銃は3000丁です。

一人40発ですから、戦一回分で消えてしまうのです。


という訳で、よく出て来るチートな硝酸作りですが、古土法と培養法です。


古土法は、床下から取る方法だけど、千二百貫から十貫の中煮塩硝を生産したと残されています。

真ん中を取って六百貫とすると、硝石2250kgになります。

割と多いように思えますね。

でも、一度取ると20年は使えないので安定生産ができません。


培養法は稗・蕎麦・麻・ヨモギ・サク・ムラタチ・蚕糞等を穴に入れて熟成させ、5年間に取る量は1坪で1貫くらいです。

1貫は3.75kgですから32坪で120kgくらいが生産できます。

32坪と言えば、4LDKです。

これが5年で1回採取ですから、5軒分の土地で1サイクルです。

隠れ里でちまちま作っていたのでは、消費に追い付きません。


大々的に主要な各村で生産しないと無理なのです。


最後に出て来るのが、14世紀の『硝石丘法』です。

こちらも採取まで5年余りを要します。

生石灰、藁、土を丘のように重ねた地層に、動物や人間から採取した尿を投入し、その土を容器に入れて沸騰させ、冷まして結晶化するという工程を繰り返します。

この工法なら土の2~3%が硝石として採取できるので、大量生産が可能になります。


中世の技術では、大量生産するならこの工法しかありませんね。


他に大量入手するなら、チリ硝石です。

掘れば出てくるので、大量の硝石をゲットできます。

発掘されたのは19世紀です。


または、鳥の糞です。

島の珊瑚礁に、海鳥の死骸・糞・エサの魚・卵の殻などが長期間(数千年から数万年)堆積して化石化したグアノは硝石に変える事ができます。南米(チリ、ペルー、エクアドル)やオセアニア諸国(ナウル等)などが多く、日本では石川県能登島及び能登半島、竹島から採取できます。

日本海に手を出せれば、採取も可能って事ですね。


 ◇◇◇


よくよく考えてみると、硝酸の科学記号は『HNO3』なんだよね。

水素と窒素と酸素。


大気の成分と一緒じゃない?


大気の成分は、窒素が78.08%、酸素が20.95%、アルゴンが0.93%、二酸化炭素が0.03%と微量だけど水素も存在しますよ。

つまり、大気中の水素と窒素と酸素を回収して結合させれば、硝酸の完成だったりして………できちゃった。


『できちゃったよ!』<びっくり?>


“水素と酸素を結合する事ができますが、水から水素と酸素に分解はできません。同じく硝酸を生成できますが、水素と窒素と酸素に分解する事はできません”


そんな事はどうでもいいです。

取りあえず、量産しておきましょう。


 ◇◇◇


分解できないけど結合できると言う事は、永楽銭も作る事ができる訳です。

永楽銭の配合記録は銅50~70、錫10、鉛20~40とされる。


1kg当たりの値段は錫1850円が一番高く、次に銅480円、一番安いのが鉛145円です。


まぁ、いいや!


尾張の永楽銭は銅70、錫10、鉛20にしましょう。

これなら文句はでるまい。


赤っぽい赤金色の永楽銭の完成です。


千両箱ならぬ、5000貫箱を作っておきましょう。


次は、定番のクロスボウを作りましょう。

木を土台に、弓部をステンレス、弦を炭素繊維とハイテクとローテクの複合品です。

矢と矢入れもセットで製作です。


私が制作しているのが3Dソフトで設計と材料指定だけですけどね。


おぉ、そうだ。

スコップ、ツルハシ、フォーク、金づち、釘、矢板、荷馬車、荷車、リアカー、ネコ車を作っておきましょう。


後、何がいるかな?


くい打ちがいるね。

ローマンコンクリートは火山灰、石灰、火山岩、海水がいるんだったな。

石を砕くハンマーもいるな!

混ぜる桶もいるよ。


色々と集中していると、空が明るくなったのに気が付いて作業を止めます。


しまった!


私が全部、準備する必要ないじゃん。

種子島が造れた事でハイになってしまったよ。


失敗、失敗、失敗したよ。


一息ついて振り返った私は目を疑うのです。

何か、よく知るモノが山のように目に映るのです。

見間違う訳もありません。


AIちゃん、スペシャル種子島を何丁作ったの?


“現在、34,291丁です”


ぎゃぁ、多すぎるよ。

明らかに『オーバーキル』だ。


永楽銭も凄い事になっていました。

硝酸も10トン近くあり、クロスボウも1万丁を超えています。

以下、工具も同文。


“AIの機能をフルスペックで活用できました”


AIちゃん、言葉が何か清々しく聞こえるよ。

そりゃ、補助脳となるAIちゃんでも、10%以上もスペックを使う事なんてないもんね。

でも、がんばり過ぎだよ。


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