もみじさんのちいさな手

卯之はな

もみじさんのちいさな手

わたしはどんぐりを集めなきゃいけない。




りすのみんなは、"冬支度"というものをしているものだから、


じぶんもそなえなきゃいけないとおもった。




冬ってなんだろう?


わたしはわくわくして、そのときを待っていた。








いつも過ごしている場所にもどって、もみじさんに聞いてみた。




「もみじさん、冬ってなんなの?」


「秋から冬に変わることだよ」


「だれが変わるの?」


「みんなさ」




わたしはもみじさんの言っていることが、わからなかった。


でも、もみじさんがこれ以上しゃべらなかったので、


しょうがなかった。








わたしはきょうも、よくわからないけれど、


どんぐり集めをしていた。


それを埋めて、なにかのじゅんびをしているはずなんだけれど…。








もみじさんがだんだん顔が赤くなってきた。




「もみじさんは暑いの?」


「ほてって、気持ちがいいくらいさ」


「いいなぁ。 


 わたしは、ちょっと前まで暑くて暑くてしょうがなかったのに、


 最近は寒いの」


「それは秋の証拠だよ!」


「秋?」


「生きているうちは、何度も春 夏 秋 冬をくりかえすのさ」


「子どもだから、わからないよ」




もみじさんは、風にゆられながらにっこりと笑った。


おとなしか知らないことがあるんだと、


わたしは頬ぶくろをぷっくらとふくらませた。








どんぐりが、だいぶ集まった!


ようやく、みんなが言う"冬支度"がすんだ気がしてすっきりとした。




気分は晴れ晴れとしていたのに、


もみじさんのようすを見るたびにげんきをなくしていて心配した。




今にもとれかけそうに、ゆらゆらとゆれている。


風にちょっと吹かれただけで、落ちてしまいそうだった。




「もみじさんは、痛くないの? なんだか枝からとれそうよ」


「だいじょうぶ。 りすさんこそ、どんぐり集めはおわったの?」


「たくさん詰め込んだからだいじょうぶ!


 なにが起こるのか、たのしみだわ」


「それはよかった! きっとたのしい冬になるよ」




もみじさんは、またにこっと笑ってみせたけど、


その笑顔をするたびにゆれるから余計に心配させた。








わたしは、まわりの異変に気づいた。


森いったいの木が、ざわざわしはじめていた。


枝が丸見えになるほどはっぱが落ちていたのだ。




わたしは、しずかにそのはっぱたちを見つめていた。








わたしは、もみじさんにまた聞いてみた。




「もみじさんも、いずれ地面に落ちてしまうの?」




「ぼくはずっとここにいるよ」




そういって、また笑おうとしたけど、




ひらひらと…




横にいったりきたりわたしの元へおちてくる。




「また、春になったら会おうね」




おおきな五本の指の葉っぱが左右にゆれながら


わたしにさよならをするように見えて、それから足元に落ちた。








きびしい冬を、はじめて体験した。


ためこんでおいたどんぐりが、底をつきそうになったとき、


あたたかい春がやってきた。




みんながふたたび生き生きと、森で過ごしはじめた。


すがたを見せなかったくまさんや、


やまねさんと会えるようになっておたがいよろこんだ。








わたしは、




「もみじさん!」




「りすくん、ひさしぶり」




緑色のはっぱをしたもみじさんが、ちいさな手を風にゆらした。


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もみじさんのちいさな手 卯之はな @uno-hana

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