悠人:魔獣討伐
闘技会も終わって、相変わらず俺は修行、マイルズは勉強と魔法の訓練にと、励む日々が続いていた。マイルズは、聖女とやらからもらった杖を上手く使いこなそうと一生懸命だ。たしかに、あの杖を使うと、なんというか流れとでもいえばいいのか、俺の力がマイルズへ、マイルズから外へとスムーズに移っていく気がする。
そういえば、いつしか季節も移り変わっている。俺がこちらの世界に来てから、大体四、五ヶ月ってところだろうか。この世界では、一年を四つの“季”――要するに季節だな――に分けていて、今は“碧の季”というらしい。俺の感覚からすると、夏だな。梅雨はなかったけど。まぁ、あんまり季節とか日付には拘らないタイプなので。現世にいたころも、よく曜日を忘れて正志に怒られたっけ。
その日も、いつものようにゴースたちと修練に励んでいた。休憩中、ゴースとサイラスが交わした会話の中で、気になるキーワードがあった。
「魔獣?」
「うむ。最近、王都周辺にも頻繁に出没するようになっての。それで討伐隊を……」
「ちょいまち。その“魔獣”ってのはなんだい?」
「なんだ、お前さんがいた世界には、魔獣はおらんのか?」
いや、ネッシーとかサスカッチとか、ありゃUMAって言うんだっけか? そんなのはいたかも知れないが、少なくとも俺は見たことがない。霊の化け物は散々相手にしてきたけど、あれは生物じゃないしな。
それはともかく、この世界では凶暴な魔獣ってのがいて、増えすぎると迷惑だってことだ。
「普段なら、王都守備隊や国軍から選ばれた討伐隊が、魔獣の討伐をするんじゃが」
ほれ、とゴースは街の方を、持っている杖で指し示した。ちなみに、俺たちは今、王都の上空で浮かんでいる状態だ。
「守備隊は、悪霊騒ぎの対応で人手が割かれておる」
確かに、王都のあちこちに三人一組、あるいは四人一組の騎士たちがいる。
「この国の軍隊は?」
「それがよく分からんのじゃが、人数が減っているらしい。王が戦争でも始めるつもりかとも思ったんじゃが、そんな気配はない。それに、減ったのは一個大隊程度じゃしなぁ、戦争を仕掛けるには兵力不足じゃ」
「でも、魔獣は狩らないといけないんだろ?」
俺の問いかけに、ゴースは渋い顔をした。
「そうじゃ。しかし兵力が足らん。どこからか兵力をかき集める必要がある。そこで目を付けられたのが」
「学院ってわけだ」
サイラスが横から、ゴースの台詞をかっさらった。サイラスは得意げだが、ゴースは平然としている。うん、ゴースはさすがに人が、じゃない霊ができている。
「ってことは、学生を魔獣狩りにかり出すってことか」
「全員ではない。恐らくは成績優秀な者だけじゃろう」
「なら、マイルズやデイルが参加させられる可能性は高いな。サイラス、お前はいいのか?」
ふん、と鼻を鳴らし胸を反らすサイラズ。
「デイルは魔獣ごときにやられるほど弱くはない。
そうか。マイルズはどうだろう? だいぶ魔法の扱いにも慣れてきたようだし、十分に戦えるとは思う。自信のなさと剣の腕前は心許ないが。
「いずれにせよ、
そりゃそうだが、気安くそう思えるサイラスがうらやましい。俺は、漠然とした不安を抱えたまま、再び修練に戻った。
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