悠人:正邪融合
再び、錫杖を手にすることができた。
もちろん、前世で使っていたものではない。霊体から作った、いわば自分の身体の一部だけれど、師匠から譲り受けたものとまったく同じだ。あれだけ訓練しても、独鈷杵までしか作り出すことができなかったのに、ここに来て錫杖を作り出せるようになるとは皮肉な話だ。
まぁいい。今は、相手に集中する時だ。
「よし!」
俺は、自分自身に気合いを入れると、背後で戦っている仲間達に宣言した。
「後は任せた。俺は、突っ込む!」
俺は、階段を一気に掛け登っていった。邪魔をする黒い魔獣は、錫杖を振れば消えていく。うん、調子いいぞ。
「カゾスス、てめぇ、とりあえず成仏させてやるっ!」
渾身の力を込めて振り下ろした錫杖が、カゾススの持つ剣によって防がれた。いつのまにそんなもの出したんだよ。
カゾススが剣を振ると、俺の身体が吹っ飛んだ。なんとか着地。
生きていた時、最後に戦った仏像も剣を使っていたっけ。いやなこと、思い出しちまった。
マイルズ達に目をやると、少し苦戦しているようだ。でも、ゴースとサイラスは良い仕事をしている。防御と同時に、街の一部を破壊しようとしている。さすが、年の功。
だが、いくら影の魔獣が消されようと、街が破壊されようと、カゾススは関心がないようだ。ポーカーフェイスなのか、エネルギー源が別にあるのか。くそ、俺の見立て違いか?
だが、やることは変わらない。奴をぶっとばす!
回り込みながら、奴の身体に錫杖を叩き込んでいく。何回か、クリーンヒットした。効いている、と思いたい。
「その程度か……正直、期待外れだよ」
くそっ、奴のやせ我慢であってくれ。
「この古い都市の構造に気付いたことは、褒めてやろう。迷宮が瘴気の浄化装置と知っていたとしても、な」
「浄化機能がなければ、瘴気を集める装置って訳かよ」
集めた瘴気をどうするのか、聞かなくても想像は付く。しかし、この世を混乱させてその先に何がある?
「お前の本当の目的は何だ? カゾスス」
「じきに分かるさ。その時には、お前は存在しないがな」
カゾススがいきなり突進してきた。何のモーションもなかったから、少し対応が遅れたが、錫杖で剣を防ぐことができた。が、奴の狙いはそれじゃなかった。剣を持たない右手が、俺の首を!
「さて、ようやくだ。思ったよりも役立たずかも知れないが、それでもないよりはマシだろう」
「ぐっ……なんの、はなしだっ」
「こういうことだ」
カゾススが俺を引き寄せ、俺を頭から飲み込んだ――世界が暗転した。
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