マイルズ:守護霊たちと
その人達が突然現れた時、何が起きているのかさっぱり分からなかった。階段の上で、マーカスが、「霊を実体化させた」と言っている。実体化? じゃぁ、この人達は、霊なのか?
「私は、ルー・オーグ。ここにいるアルベルトの守護霊です。賢者ゴースはグラスゴー老師の、サイラスはキーソンズ君の守護霊。そして、あの男性は、マイルズ、あなたの守護霊であるハルトよ」
守護霊……迷宮の中でアルさんが言っていた。たしか、ボクらを護ってくれている存在って言っていた。そう、なんとなくだけどボクは知っていた。あの人は、ハルトさんはいつもボクのそばにいてくれた。それを感じ取っていたんだ。その後ろ姿に、ボクは安心感を覚えていた。もし、ボクに兄さんがいたなら、こんな気持ちになるのかも知れない。
「マイルズ、私もハルトさんを間接的にだが知っている。信じていい」
「時々、変なことを言うけれど、ね。これまであなたを護ってきたんだから」
アルさんとアルさんの守護霊を名乗るルーさんの言葉に、ボクは頷く。
「えぇ。なんとなく感じていました。ハルトさん、という名前は今初めてですが」
あれ? そういえばルー・オーグって、確か。
「ルーさまは、私のご先祖様。オーグ流の創始者だよ」
アルさんは、ルーさんのことを以前から知っていたんだね。老師とデイルは、それぞれの守護霊さんと言葉を交わしている。そういえば、聖女様は?
「あ、あの、聖女様の守護霊は、もしかして、少し恥ずかしい格好をされた……」
「あぁ。魔女エルが、聖女様の守護霊だよ。少年は見ない方がいい。破廉恥が移るぞ」
「誰が破廉恥よ、この堅物」
聖女様の守護霊だという綺麗なお姉さんが、アルさんのご先祖様に食ってかかった。守護霊と言ってもいろいろなんだなぁ。
「エル様、今は」
「おっと、ごめんね、ルシアちゃん。続けよう」
二人は、向き合って祈りを捧げている。
そうだ、ボクの守護霊さんは。
「なんだとっ!」
マーカスに向かって、何か怒っている。マーカスの声は、上手く聞き取れない。
「すべては、我が目的――お前は、駒――――!」
「ふざけんな、コラ」
ずいぶんと、口の悪い人だなぁ。
「ハルト、準備できたわ」
その背中に向かって、エルさんが小さな声を掛けた。ちゃんと聞こえたのかな? と思ったら、ハルトさんは親指をクイッと上げた。あれは、合図なんだろうなぁ。
「霊縛八方陣、
ハルトさんが叫ぶと、マーカスとその守護霊が光の鎖で縛られた。あれは、何の魔法?
「神よ、我らに力をお貸しください。浄化の光っ!」
続けて、聖女様の浄化が始まった。こんな連携、いつの間に打ち合わせしたんだろう。ボクは、それをただ見ているだけだった。
聖女様の浄化の光が、マーカス達を包み込む。
「愚かな。小娘ごときに浄化される私ではない」
なんてことだ。赤い服の男が、浄化の光を裂いて現れた。何もなかったかのように立っている。
「お前は平気でも、お前の宿主は違うらしいぞ」
「なにっ?」
ハルトが指摘したように、階段の上でマーカスがうずくまっている。浄化の光が彼を侵していた瘴気を消そうとしているんだ。もしかしたら、元のマーカス殿下に戻せるかも知れない。
だけど、そんな儚いボクの希望は、赤い男によって打ち砕かれた。男がマーカスに覆い被さった次の瞬間、男の身体が膨らみ大きくなっていく。
男が起ち上がると、身長が二倍以上にもなっていた。その胸の中心にはマーカスの顔が!
「な、なんだ……あれは!」
「野郎、マーカスを飲み込みやがった」
「ルー様! マーカスは、彼はどうなるのですかっ!」
「分からないよ、私にも」
赤い服の巨人は、血走った瞳でボクらを見下ろしている。いつでも殺せる、そんな風に言っているみたいだ。
「ハルト、奴を止めるにはどうしたらいい?」
「自分の依代を飲み込んだ……だが、そんな霊力どこから? どこかに、奴のエネルギー源があるのか? まさか」
ハルトさんが、ボクらを振り返って、矢継ぎ早に指示を出し始めた。
「エルとルシアは、もう一度浄化の準備だ。ゴースとバランはルシア達を護れ、サイラスとデイル、それにマイルズは、街を壊せ」
え?
「この街を壊すんだよ。この街が、奴のエネルギー源、形を変えた迷宮なんだ。奴を倒すには、まず、この街の機能を止めなけりゃならん」
えねるぎー? 何を言っているのかよく分からないけれど、この街を壊すことが、奴の力を削ぐことになるんだね。
「わかった、やってみる」
そんなボクたちの会話を聞いていたのだろうか? 巨人の身体から、黒い影が飛び出してきた。まるで魔獣の影のようなそいつらが、一斉に襲ってきた。
「イグニス、イグナス、炎の渦!」
「エアー エアリアル、我らを護り給え、旋風の壁!」
「アース、ノーム、土よ礫となりて敵を討て、轟礫弾!」
「ナウマク サンマンダ ボダナン バン! 風撃弾!」
ボクたちの魔法が、魔獣の影を打ち破る。でも、敵は次から次へと沸いて出てくる。
「よし、後は任せた。俺は、突っ込む!」
いつの間にか手にした長い棒を手に、ハルトさんは赤い巨人へとひとりで向かって行った。
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