悠人:直接対決

 通路に飛び込んだマイルズたちとともに、俺たちも通路へと入っていった。


「離れるなよ、何があるか分からんからな」

「おう」

「わかったわ!」


 なぜかエルの声も聞こえた。


「なんで、お前まで付いてきているんだよ」

「だって、ルシアちゃんが来ちゃったんだもん」


 なんてこった。たぶん、ここから先にはあいつが待っているはず。


「危険だぞ。戻らせることはできないのか?」

「無理よ。この子、マイルズちゃんと一緒にいたいみたい」

「……まったく」


 幽霊でも、頭が痛くなるのな。付いてきちまったものはしゃーない。


「できるだけ後ろに下がっているように、ルシアに言い聞かせろよ」

「なんとかやってみるわ」

「そうか……ところでバルガは?」

「ルンナちゃんが残ったから、あいつも残ったみたい」


 医師であるルンナ先生が、あっちに残ってくれるのは助かるな。



 バフに取り憑いた化けガエルの後を追っていくと、周囲は様子がいつの間にか変わっていた。塔とは違う建物のようだ。俺たちは、カエルの化け物を見失わないよう、マイルズ達を誘導しながら進んで行った。

 やがて、化けガエルがくぐり抜けた大きな扉が、マイルズ達の前で閉まってしまった。俺たちには関係ねーと、扉にぶつかって行ったら簡単にはじき返されてしまった。結界かよ。


 マイルズたちも結界に気付いたようだ。


『結界でしたら、わたくしにお任せください』


 ルシアが結界を解除? できるのか、とエルに聞いてみた。


「できるに決まっているじゃない。誰だと思っているのよ」

「聖女すごいな」

「修練を積めば誰にでもできるわよ。ルシアちゃんは精密かつ広範囲に渡ってできるってだけよ」


 扉の前でルシアが神に祈りを捧げると、扉に何か模様のようなものが浮かんだ。そして、パリンと音を立てて割れて消滅した。あれが結界、あるいは結界を発動する術式か。祓い屋業界で言うところの“呪”とか“印”ってところか。そういえば、似たようなモノを見たような気がするけど、あまり注意してなかったから気が付かなかったなぁ。


 結界がなくなれば、扉も開けられるだろう……と思ったら、開かなかった。単純に重いんだ。すっかり失念していたが、マイルズ、デイル、ルシアはまだまだ子供。重い扉を開けるのは大変だろう。

 いや、それにしてもおかしいな。三人が体重を掛けて押しているのに開かない。バフが開けたときには、それほど重そうじゃなかったのに。鍵でもかかっているのだろうか?


 扉の中に手を突っ込んで上から下へ動かして見る。あ、霊体だから鍵に触れたとしてもどうしようもないか。と思ったその時。指先に何かが引っかかるがあった。


 バン!


 まるでバネが仕掛けられていたかのように、外側に向けて扉が開いた。恐ろしい勢いで。扉に背中を預けていた三人は、急に障害物がなくなったために、小さな悲鳴をあげながら外に転がり出てしまった。


 俺のせい?

 いや、外に出られたんだから結果オーライだろ。


 ん? 改めて周囲を見回すと、そこはまるで教会の内部のようだった。塔から教会に通路が繋がっていても、まぁ、そういうこともあるだろう。だけど、なんだか違和感がある。まるで、今のように塵ひとつない。


 お、前方にバフ発見。その傍には、マーカス王子とその背後霊がいた。確かあいつの名前は……。


「カゾススッ! この野郎ッ!」

「ハルト! 今何と言った?!」


 エルが視線を遮るように、俺の前に出て言った。


「マーカスの守護霊だよ。迷宮に落ちる前、アイツが名乗ったんだよ、カゾススって」

「カ、カゾススだ、と……」


 エルは振り返り、マーカスの守護霊を凝視した。


「まさか、まさか、まさか!」


 その声に、あちらもこっちに気が付いたようだ。


「これはこれは、救世の賢者、エルトラスではないか。久しいな」

「本当に、カゾススなのかっ! だとしたら、なぜ、なんでこんなことを!」

「笑止。それは貴女も良くご存じのはずだ、エルトラス」


 エルとあの化け物、カゾススとは、何か因縁があるらしい。が、今はそれを詮索している時じゃない。


「エル! 何があったかは知らないが、後にしておけ。今は、アイツを止めないと」

「え、えぇ、そうねハルト」


 俺たちが、奴らを振り返ると同時に、マーカスが叫んだ。


『はははっ! 役者は揃った! 宴を始めようか!』


 かつてバフであったモノから、黒い瘴気が立ち上り、それは渦を巻いてマーカスの手の中に吸い込まれていった。バフであったモノは、色を失い、みるみるうちに土塊となって崩れ落ちた。


「なんてことを……味方だろうに」

「役立たずは不要だ。さて、お前達は私の役に立ってくれるかな?」

「ふざけるな! 何をしようとしているのかは知らんが、これ以上の暴挙は許さない! 俺が止めてやる」

「大口を叩くな、若造。俺の力を見せてやる。そして膝を折り頭を垂れるがいい」


 カゾスス(とマーカス)は、頭上に大きく手を広げると、何かを叫んだ。なんだ? 霊体同士なら、意思が通じるはずだろ?


「あれに意味はないわ。古代の呪文、禁忌のひとつよ」


 そして舞台の幕が上がった。


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